「東電宝くじ」…補償と除染が原発被災地に波紋
福島県で被災した北村俊郎氏は、関係者向けに被災地をめぐる問題をエッセイにしている。そのうち3月に公開された「東電宝くじ」「放射能より生活ごみ」の二編を紹介する。補償と除染の問題を現地の人の声から考えたい。現在の被災者対策は、意義あるものになっているのだろうか。以下本文。
東電宝くじ
「東電宝くじ」という言葉を最近耳にした。「東電宝くじ」とは、福島第一原発の事故で避難している人たちに対し、県内の避難先の住民たちが、「あの人たちは東電宝くじに当たったから」という具合に使っている。避難が長くなって、当初、同情をかっていた避難者だが、賠償とさまざまな優遇処置によって働かずに暮らしていることを知った住民たちが、強い嫉妬心を抱くようになったのだ。
警戒区域から避難している人は、精神的苦痛損害として毎月一人10万円が支払われている。先ごろはこれが一年分まとめて振り込まれたため一人120万円を手にしている。四人家族ともなれば、ちょっとした宝くじに思えるだろう。今後、東京電力は区域再編が決まれば、何年か分をまとめて支払う予定だ。それとは別に土地や家屋の賠償を受ける人たちは今年中に数百万円から数千万円を受け取る可能性が高い。
避難者が免除されているものとしては、医療費の個人負担、高速道路料金、家賃(仮設住宅はもちろん、民間借り上げ住宅も月6万円までは補助がある)がある。税金に関しても免除ではないが、納入期限を延期されているから、避難してから税金を支払っている人は少ない。そのほか、東京電力は避難生活のための家電製品などの購入代金を賠償として認めているので、多くの家電製品が買われているはずだ。
食料品や光熱費は自分持ちであるが、職を失っていない人(富岡町のデータでは以前働いていた人の半分強が今も働いているが、それで得た収入は自主努力分として就労不能損害から控除されない)や年金生活者は確かに今までより生活に余裕がある。地元のデパートに行っても避難者らしき人をよく見かけるし、デパート側もかつてない売上を記録している。
パチンコに行った友人が、駐車場でいわきナンバーを見られて、「どこから避難」と聞かれ、「大熊町から」と答えたら「金いっぱいもらっていいご身分だね」と皮肉を言われた。別の人はいつも行っている公衆温泉で、避難者とわかってからは挨拶をしても返事をしてくれなくなったと嘆いていた。いわき市では、仮設住宅に停めてある車へのいたずらが絶えない。建物に「避難者帰れ」との落書きもされた。「避難者であることを知られないように言動に注意する」というのが最近の避難者の合言葉になっている。
放射能より生活ゴミ
避難した住民が一番困っていることのひとつにゴミの問題がある。3カ月に一度の一時帰宅を果たして、家の内外を掃除しても、出たゴミを捨てるところがない。かびてしまった畳も処分したい。食料品などは置いておけばネズミなどの餌になってしまう。庭で燃やすことも禁止されている。地震で壊れた家財なども一つ一つ汚染検査をすることもできず、捨てようと思うが、山積みになっている。避難者の自宅の内部がテレビ映像で出ることがあるが、二年も経つのに大震災直後の散らかった状態である。家を放棄しているのかと思ってしまうが、片付けようがないからだ。
区域解除によって帰還宣言をした町村でもこのゴミ問題に困っている。電気や水道のインフラが復旧しても、生ゴミも含めたゴミの収集が行われなければ生活は出来ない。津波による東北地方の瓦礫の処理は進んでいるが、浜通りではそれどころか、残った住宅街のゴミ片付けもままならない状態が続いている。
国や自治体は除染に懸命だが、住民はゴミ片付けも切望している。これらのゴミも放射性廃棄物となるのであれば、仮置き場や中間貯蔵施設の問題となる。地域復活のために、放射能をトラップすることが出来る焼却炉の早期の設置が求められている。
除染関係者の話では、家屋の除染をしていると、放射能のレベルに関係なく、どの家も持ち主から、屋根や壁面の高圧水による除染を要求されるという。理由は古い家が見違えるほど綺麗になるからだ。逆に庭木などは放射能が高くても切らないでくれと言われればそのままにするしかない。確かに、除染の終わった集落に行ってみると、人はいないが、まるで散髪したように綺麗である。目に見えない放射能も怖いが、目に見えるものはもっと気になるものだ。
北村 俊郎(きたむら・としろう)67年、慶應義塾大学経済学部卒業後、日本原子力発電株式会社に入社。本社と東海発電所、敦賀発電所、福井事務所などの現場を交互に勤めあげ、理事社長室長、直営化推進プロジェクト・チームリーダーなどを歴任。主に労働安全、社員教育、地域対応、人事管理、直営工事などに携わった。原子力発電所の安全管理や人材育成について、数多くの現場経験にもとづく報告を国内やIAEA、ICONEなどで行う。近著に「原発推進者の無念―避難所生活で考え直したこと」(平凡社新書)
(2013年3月25日掲載)

関連記事
-
「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか」については分厚い本を通読する人は少ないと思うので、多少ネタバラシの感は拭えないが、敢えて内容紹介と論評を試みたい。1回では紹介しきれないので、複数回にわたることをお許
-
新たなエネルギー政策案が示す未来 昨年末も押し迫って政府の第7次エネルギー基本計画案、地球温暖化対策計画案、そしてGX2040ビジョンという今後の我が国の環境・エネルギー・産業・経済成長政策の3点セットがそれぞれの審議会
-
実は、この事前承認条項は、旧日米原子力協定(1988年まで存続)にもあったものだ。そして、この条項のため、36年前の1977年夏、日米では「原子力戦争」と言われるほどの激しい外交交渉が行われたのである。
-
中川先生はチームを組んで福島の支援活動を続けてきました。どういう理由からだったのですか。中川 私は、東大病院の緩和ケア部門の責任者です。この部署では放射線技師、看護師、医師、心理学カウンセラーなどさまざまな専門家ががんの治療に関わります。そのために原発事故で、いろいろな知恵を活用しやすいと思いました。
-
IPCC第6次評価報告書(AR6)の第1作業部会(自然科学的根拠)の政策決定者向け要約(SPM)が発表された。マスコミでは不正確なあおりやデータのつまみ食いが多いので、環境省訳を紹介しよう。注目される「2100年までの気
-
内閣府のエネルギー・環境会議は9月18日、「革新的エネルギー・環境戦略」を決定する予定です。2030年代までに原発ゼロを目指すなど、長期のエネルギー政策の方針を決めました。これについては実現可能性などの点で批判が広がっています。
-
(前回:温室効果ガス排出量の目標達成は困難④) 田中 雄三 発展途上国での風力・太陽光の導入 発展途上国での電力需要の増加 季節変動と予測が難しい短期変動がある風力や太陽光発電(VRE)に全面的に依存するには、出力変動対
-
2023年1月20日、世界経済フォーラム(World Economic Forum。以下、WEF)による2023年の年次総会(通称「ダボス会議」)が閉幕した。「世界のリーダー」を自認する層がどのような未来を描こうとしてい
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間