今週のアップデート — 原発「活断層」問題の混迷(2013年1月15日)
自民党政権になっても、原発・エネルギーをめぐる議論は混乱が残っています。原子力規制委員会が、原発構内の活断層を認定し、原発の稼動の遅れ、廃炉の可能性が出ています。
1)「原子力規制委員会は「活断層」判断の再考を」。東京工業大学の澤田哲生助教による原子力規制委員会の政策への疑問です。法律面、判断面、そして効果面からの取り組みです。
2)「原子力発電所事故時の組織力とは–「検証 東電テレビ会議」と公開映像」。澤昭裕国際環境経済研究所(IEEI)所長の寄稿です。映像と書籍「検証 東電テレビ会議」(朝日新聞出版)から、東京電力の抱えた組織上の問題をまとめたものです。
今週のリンク
1)「米原子力規制委が語る安全への姿勢 マグウッド委員インタビュー(上)」
「米原子力規制委が語る安全への姿勢 マグウッド委員インタビュー(下)」
1月9、10日に福井新聞に配信された記事。日本政府への批判は当然ありませんが、原子力規制行政における透明性の確保、そして原子力の人材の育成を強調しています。米国ではスリーマイル島原発事故に原子力の専攻学生が激減。国主導で研究者を増やした経験があったそうです。
2)「責任逃れする滑稽な原子力規制委員会」。経営コンサルタント、大前研一の講演の文字起こし。(zakzak掲載)大前氏は原子力工学で博士号を得ています。講演なので、論理のまとまりがない点があるものの、政治と規制委員会の「ずるさ」を指摘しています。「活断層=危険=原子炉停止は短絡歴」。これはBBT大学院の運営する大前氏のビデオコラムの文字起こしですが、活断層が原発の危険に結びつかない事を指摘しています。
3)「廃業する農家も…原発事故の風評解消に向け専門チーム設置 消費者庁」。福島や東北の風評被害が今でも続いています。これについて消費者庁が「チーム」による取り組みの検討を始めました。以前、森雅子大臣(消費者問題担当)が法律による福島県産農産物の設置を検討と表明しましたが、強制ではなくリスクコミュニケーションの深化が必要ではないでしょうか。
4)「福島復興出直し 原子力3閣僚、縦割り突破なるか」。日本経済新聞の1月13日記事。1月発足の安倍政権では、原発事故をめぐる福島の復興のために、各省庁間の協力をうながしています。根本匠復興相は福島原発事故再生担当も担い、石原伸晃環境相は原子力防災、茂木敏充経済産業相は原子力損害賠償支援機構の担当相をそれぞれ兼務しています。これがうまく機能するか、問いかける記事です。
5)「Thyroid doses for evacuees from the Fukushima nuclear accident」(福島原発事故における避難者の甲状腺被ばく)英国科学誌ネイチャーが、昨年7月に公表した、福島の被曝についての論文です。
62人中、46人でヨウ素131によるガンマ線を検出。甲状腺等価線量の中央値は子供で4・2mSv(マイクロシーベルト)、大人で3・5mSv、最大値は子供で23mSv, 大人で33 mSvでした。チェルノブイリ避難民の平均値は490 mSvでした。この研究をまとめた弘前大学の床次真司教授は内部被曝も計測し1月公表。甲状腺で最大4・6mSvでした。(日経新聞記事)
関連記事
-
このタイトルが澤昭裕氏の遺稿となった論文「戦略なき脱原発へ漂流する日本の未来を憂う」(Wedge3月号)の書き出しだが、私も同感だ。福島事故の起こったのが民主党政権のもとだったという不運もあるが、経産省も電力会社も、マスコミの流す放射能デマにも反論せず、ひたすら嵐の通り過ぎるのを待っている。
-
今回は、日本人研究者による学術論文を紹介したい。熱帯域を対象とした、高空における雲の生成と銀河宇宙線(GCR)の相関を追究した論文である(論文PDF)。本文12頁に、付属資料が16頁も付いた力作である。第一著者は宮原ひろ
-
世の中で専門家と思われている人でも、専門以外のことは驚くほど無知だ。特に原子力工学のような高度に専門分化した分野だと、ちょっと自分の分野からずれると「専門バカ」になってしまう。原子力規制委員会も、そういう罠にはまっている
-
東日本大震災から、3月11日で1年が経過しました。復興は次第に進んでいます。しかし原発事故が社会に悪影響を与え続けています。
-
福島第一原子力発電所事故の後でエネルギー・原子力政策は見直しを余儀なくされた。与党自民党の4人のエネルギーに詳しい政治家に話を聞く機会があった。「政治家が何を考えているのか」を紹介してみたい。
-
需給改善指示実績に見る再生可能エネルギーの価値 ヨーロッパなどでは、再生可能エネルギーの発電が過剰になった時間帯で電力の市場価格がゼロやマイナスになる時間帯が発生しています。 これは市場原理が正常に機能した結果で、電力の
-
政府は今年6月にグリーン成長戦略を発表した。ここでは「環境と経済の好循環」を掲げ、その手段としてカーボンプライシング(炭素税)をあげているが、本書も指摘するようにこのメッセージは矛盾している。温暖化対策で成長できるなら、
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間