世界のエネルギー事情、ガスの大量供給で変化が進行中 — IEAリポート
■世界のエネルギーの議論をリードするIEAリポート
国際エネルギー機関(IEA)は毎年11月にリポート「ワールドエネルギーアウトルック」(概観)を公表している。その2012年版の「報道向け要約」を紹介し、日本への影響を考える。同リポートは、世界のエネルギーの主なポイントを示し、その議論をリードする。
同リポートでは、3つのポイントを掲げている。
- 世界のエネルギー体制の基盤変化
- エネルギー価格の高止まりによる世界経済への悪影響
- エネルギー体制が持続可能でないことの兆候
「エネルギー体制の基盤変化」で注目すべき動きは、米国とイラクの動向だ。シェールガスの採掘拡大によって、米国が2017年ごろに天然ガスの輸出国へ転換する可能性がある。またイラクの原油供給が拡大する見通しが示された。1991年の湾岸戦争以来、イラクの原油は原則として国際市場に供給されていない。
しかし、その動きは、まだ世界全体のエネルギー価格に影響を与えていない。ガス価格は、欧州で米国比5倍、アジア比8倍になっている。また持続可能性への疑義とは、温室効果ガスの急増、さらに13億人の人々が生存のための最低限のエネルギーを受け取れない現実があることだ。
米国が2017年にガス輸入に転換
興味深い情報がある。図1は2010年と35年における原油とガスの輸入量の割合だ。日本はいずれもほぼ全量輸入。中国、EU諸国もその割合を増やす一方で、米国だけは低下し、ガスでは輸出国になる。これはシェールガスの生産増によって、米国でエネルギー源のガスシフトが進む予想があるためだ。
図1 2010年と35年の原油、ガス
また2035年の家庭用の電力価格の見通しが示されていた。日本は中国の4倍、OECD加盟国平均の8割増になりそうだ。原発の割合など試算の前提条件は示されていないが、日本は将来も他国との比較で電力価格が高いという、家計にも産業にも厳しい状況は変わりないだろう。
図2 2035年の家庭向け電力価格
また同リポートは2035年までの世界の原子力発電量の増加予想を、10年に比べ約58%増とし、昨年発表した70%超の増加から大幅に下方修正した。福島の原発事故を受けて、日本だけでなく独仏などの先進国で、「原子力に期待される役割は縮小している」と指摘した。しかし電力の供給不足に直面しかねない、途上国の原発の建設意欲は変らないという。
米国の外交はエネルギーで変るのか
以下、筆者の私見を述べる。
日本では原発事故があったためか、エネルギー問題で「原発の是非」を中心にした議論が行われている。しかし世界のエネルギー問題の分析では、原発は問題の一部にすぎない。エネルギー問題の解決では、「政策担当者は、エネルギー(Energy)、環境(Environment)と経済(Economy)を調和させる、難しい問題に取り組まなければならない」と指摘している。
そしてシェールガスの供給、イラク産原油の供給というエネルギー価格の下落要因が登場した。無資源国日本にとっては朗報であろう。日本では今後長期にわたって、発電コストが他の方式より安いとされる原発が、政治的に建設できないであろう。
ただし不透明な要素も増す。エネルギーが国産化する米国は、中東などへの政治・軍事的関与を減らす可能性が高い。一方で日本のこの地域におけるエネルギーの依存度は高いままだ。そして日本には、対外的に展開できる軍事力がない。この状況では、日本経済のエネルギーリスクは高まっていくだろう。
日本に生きる私たちは、エネルギーの未来についての期待と不安の双方の要因の双方を直視して、政策や日常生活への反映を重ねなければならない。
(2012年11月26日掲載)
関連記事
-
ジャーナリスト堀潤氏。7月2日。菅直人政権による、「炉心溶融」「メルトダウン」という言葉を使わないという東電への指示が、なぜか大きな問題になっている。 これについて、当時、補佐官として官邸にいたジャーナリストの下村健一氏
-
先日、和歌山県海南市にある関西電力海南発電所を見学させていただいた。原発再稼働がままならない中で、火力発電所の重要性が高まっている。しかし、一旦長期計画停止運用とした火力発電ユニットは、設備の劣化が激しいため、再度戦列に復帰させることは非常に難しい。
-
3月30日、英国の政財界に激震が走った。インドの鉄鋼大手タタ・スチールの取締役会がムンバイで開かれ、同社が持つ英国の鉄鋼事業を売却処理するとの決議を行ったと発表したのである。
-
東京電力福島第一原子力発電所の事故を検証していた日本原子力学会の事故調査委員会(委員長・田中知(たなか・さとし)東京大学教授)は8日、事故の最終報告書を公表した。
-
池田・本日は専門家を招き、さまざまな視点から問題を考えます。まず「遺伝子組み換え」という言葉に私たちは、なじみがありません。説明をいただけますか。 田部井・私たちの食べる農作物はたいてい品種改良で作られています。遺伝子組み換えはその技術の一つです。品種改良は花粉を交配させ作ってきましたが、遺伝子組み換えは重要な形質を持つ遺伝子を持ってきて植物の種子に加えるというものです。
-
今年も夏が本格化している。 一般に夏と冬は電力需給が大きく、供給責任を持つ電力会社は変動する需要を満たすために万全の対策をとる。2011年以前であればいわゆる旧一般電気事業者と呼ばれる大手電力会社が供給をほぼ独占しており
-
【記事のポイント】1・現実的な目標値として、中西氏は除染目標を、年5mSvと提案した。2・当初計画でも一人当たり5000万円かかる。コスパが良くない。さらに年1mSvまで下げるとなると、その費用は相当高くなるだけでなく、技術的限界を超える。3・日本政府の示す被ばく線量は、実際よりも高く計測されている。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間