今週のアップデート — 適切なリスクコミュニケーションの方法とは?(2012年9月3日)
1)「リスクコミュニケーション」という考えが広がっています。これは健康への影響が心配される事柄について、社会で適切に管理していくために、企業や行政、専門家、市民が情報を共有し、相互に意見交換して合意を形成していくことを言います。
早稲田大学大学院の難波美帆准教授に「「リスクコミュニケーション・パターン集」作成の試みー不安・懸念に寄り添うために」を寄稿いただきました。
伝える場で頻繁に起こる問題のパターンを抽出し、それに対応する「パターンランゲージ」を参加者とともに考える取り組みを、難波さんはワークショップ「では、どう伝えればよかったのか−リスクコミュニケーションの肝を考える」で行いました。その報告です。
2)「政治に翻弄される浜岡原発−中部電力の安全対策工事を訪ねる」をアゴラ研究所フェローで、ジャーナリストの石井孝明が執筆しました。
昨年5月、菅直人首相(当時)は中部電力に、東海地震の可能性が高いとして、浜岡原発の停止を要請。これを受けて、同社は1400億円の規模で、津波対策を中心にした安全対策を進めています。浜岡原発の現状を報告します。
3)「在米のエンジニアに聞く米国スマートグリッド事情」。GEPRの提携するNPO法人国際環境経済研究所(IEEI)のサイトから、電力改革研究会による報告を転載します。(IEEI版)
今週のリンク
1) 内閣府国家戦略室「エネルギー・環境会議」では8月にエネルギー政策の未来についてパブリックコメントを集め、討論型世論調査という取り組みを行いました。同会議は2030年の発電比率に占める原発の割合を、「ゼロ」「15%」「20〜25%」の3つにわけ、どれを支持するかを聞きました。約9万のパブリックコメントでは7割以上が原発ゼロを求めたそうです。
それについての「国民的議論に関する検証会合」行われています。国家戦略室は文章「戦略策定に向けて〜国民的議論が指し示すもの(案)」を8月28日に公表しました。
結論は「国民は原発ゼロを求めているがスピード感は分かれている」というものでした。この当たり前と言える結論を得るために、アンケートや対話など、大規模なイベントが行われました。それに伴い、人々が主張を繰り広げて、エネルギー政策をめぐる混乱が起こりました。問題を真剣に考える誰もが、この状況に徒労感を抱き、ばかばかしさを感じるでしょう。
2)内閣府国家戦略室「エネルギー・環境会議」は「戦略策定に向けて〜国民的議論が指し示すもの(関連データ)」。 同調査4ページに、日本の主要メディアが行った、選択肢をめぐる結果が整理されています。各メディアで「ゼロ」と「15%」を選ぶ人が拮抗しています。
3)インターネットテレビのニコニコ生放送を運営するドワンゴ社は原発をめぐる127万人アンケートを行いました。(ドワンゴ社プレスリリース)
興味深い結果が出ています。政府の資料に図表化された結果が掲載されています。(内閣府エネルギー環境会議・「戦略策定に向けて〜国民的議論が指し示すもの(関連データ)」5ページ)(下図)
50歳代以上は原発の即時全廃を唱える人が18.6%である一方、20歳代はわずか8.1%。若い世代ほど原発について、冷静に受け止めています。
全体では「すぐにでも全廃」が11.1%、「次第に減らし、いずれは全廃」が52.2%、「安全性の向上を図り、原発を減らす必要はない」が36.7%になりました。

7割超が原発ゼロを求める政府の集めたパブリックコメントが、現在の国民の考えを正確に伝えているのか、疑われる結果を示しています。そして世論は状況によって変動し、あいまいであることも分かります。「民意」と政府が言うものでエネルギー政策を決定することに、誰もが危ういと考えるでしょう。

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筆者は現役を退いた研究者で昭和19年生まれの現在68歳です。退職後に東工大発ベンチャー第55号となるベンチャー企業のNuSACを立ち上げました。原子力技術の調査を行い、現在は福島県での除染技術の提案をしています。老研究者の一人というところでしょうか。
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