今週のアップデート — 原発の注目されない論点-規制、外部コスト、代替策としての石炭(2012年6月18日)
エネルギー問題では、福島事故の影響で、原発に賛成か反対かという論点ばかりが議論されがちです。しかし私たちが考えなければならない問題は数多くあります。原子力規制庁、外部コストと呼ばれる社会影響、代替策についての論考を紹介します。
1)東京工業大学原子炉工学研究所助教、澤田哲生さんに「安易な設立は許されない日本の原子力規制庁-専門性の確保が安全と信頼を生む」を寄稿いただきました。福島原発事故が起こったことからも分かるように、日本の規制は適切なものではありませんでした。「異論を取り込む」「専門知識を持った」「独立性の強い」組織の設立を、澤田さんは主張しています。
2)GEPR編集部は支援をいただく専門家と協力して作成したコラム「発電の外部影響、原発のコストは低い—計測の指標「Extern E」から」」を提供します。発電の外部性、つまり発電に伴うコスト全般を考える取り組みが、世界各国で行われました。その中で、EU(欧州連合)が専門家を集めてつくった外部コスト評価が「Extern E」です。
それによれば、火力発電はその燃焼時の大気汚染などから外部コストが高いことが示されています。日本の火力発電はEU諸国より効率が高く、大気汚染も少ないのですが、同じ傾向でしょう。今後、日本では脱原発の中で電源構成が問題になりますが、この現実を見据えなければなりません。
GEPRはNPO法人国際環境経済研究所(IEEI)と提携し、相互にコンテンツを共有しています。IEEIの主任研究員である中野直和さんのコラム「日本の石炭火力発電技術が温暖化を抑制する」を紹介します。
古くから使われていたエネルギーである石炭は、石油に比べた熱効率の悪さ、採掘の大変さ、大気汚染の危険から次第に使われなくなりました。しかし新技術で見直されようとしています。今後、日本では原子力を使うことが難しくなる以上、新しいエネルギー源として再評価が必要になるでしょう。
GEPRを運営するアゴラ研究所は、ドワンゴ社と協力してインターネットテレビの「ニコニコ生放送」で番組ニコ生アゴラを提供しています。
その音声をポッドキャストで提供します。
ニコ生アゴラ「「汚染がれき」を受け入れろ—放射線に怯える政治とメディア」(2012年4月10日放送)(報告記事)
ニコ生アゴラ「2012年の夏、果たして電力は足りるのか!? 原発再稼動問題から最新のスマートグリッド構想まで「節電の夏を乗り切る方法」について徹底検証!!」(2012年6月5日放送)(報告記事)
今週のリンク
1)6月16日に政府は関西電力の大飯原発3、4号機の稼動を認めました。再稼動の反対運動がありましたが、政治決断によって問題は解決の方向です。
関西電力「原子力発電所の安全確保に向けた取り組みについて」
原発事故安全対策・地震の対応、冷却の取り組みなどを紹介しています
関西電力「今夏の需給見通しと節電のお願いについて」(2012年5月19日)
例年並みの暑さになった場合に、ピーク時で約15%の電力が不足する可能性を紹介しています。
2)「やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識」
学習院大学の田崎晴明教授のサイト。一般向けにPDF書籍形式で、原発事故、放射能と人体への影響について分かりやすく解説しています。
3)ソフトバンク「東京電力のスマートメーター使用についての意見募集に対する当社意見」。東京電力のスマートメーターに対する反対意見として5月に行われたパブリックコメント募集に応じてつくられた。図表の多さと、分かりやすさゆえに、一般向けにも参考になります。
GEPRはパブリックコメントを公開、解説記事(問題だらけの東電スマートメーター発注—独占延命を図る「トロイの木馬」? — 方針転換の意見広がる)を提供しています。
4)「ドイツのエネルギー転換 — 未来のための共同事業」。ドイツ連邦政府は脱原発について、倫理委員会を設置し、多様な意見を集めて決定をしました。その報告書の妙訳を経産省が資料として公開しています。
GEPRでインタビューを行った末吉竹二郎さんが、参考にするべき政策決定の姿として取り上げています。「脱原発は国民の総意、道筋を考えよう — 自然エネルギーによる社会変革への期待(上)― UNEP・FI顧問末吉竹二郎氏に聞く」
関連記事
-
今年も冷え込むようになってきた。 けれども昔に比べると、冬はすっかり過ごしやすくなっている。都市熱のおかげだ。 下図は、東京での年最低気温の変化である。青の実線は長期的傾向、 青の破線は数十年に1回の頻度で発生する極低温
-
再生可能エネルギーの先行きについて、さまざまな考えがあります。原子力と化石燃料から脱却する手段との期待が一部にある一方で、そのコスト高と発電の不安定性から基幹電源にはまだならないという考えが、世界のエネルギーの専門家の一般的な考えです。
-
国際環境経済研究所のサイトに杉山大志氏が「開発途上国から化石燃料を奪うのは不正義の極みだ」という論考を、山本隆三氏がWedge Onlineに「途上国を停電と飢えに追いやる先進国の脱化石燃料」という論考を相次いで発表され
-
今回は、最近日本語では滅多にお目にかからない、エネルギー問題を真正面から直視した論文を紹介する。 原題は「燃焼やエンジン燃焼の研究は終わりなのか?終わらせるべきなのか?」、著者はGautam Kalghatgi博士、英国
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
-
昨年3月11日以降、福島第一原子力発電所の事故を受け、「リスクコミュニケーション」という言葉を耳にする機会が増えた。
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 IPCC報告では地球温暖化はCO2等の温室効果(とエアロ
-
パリ協定を受けて、炭素税をめぐる議論が活発になってきた。3月に日本政府に招かれたスティグリッツは「消費税より炭素税が望ましい」と提言した。他方、ベイカー元国務長官などの創立した共和党系のシンクタンクも、アメリカ政府が炭素
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間