日本における発送電分離は機能しているか
(GEPR編集部より)GEPRはNPO法人国際環境経済研究所(IEEI)と提携し、相互にコンテンツを共有します。民間有志による電力改革研究会の発送電分離についてのコラムを提供します。
発送電分離とは
電力自由化は、送電・配電のネットワークを共通インフラとして第三者に開放し、発電・小売部門への新規参入を促す、という形態が一般的な進め方だ。電気の発電・小売事業を行うには、送配電ネットワークの利用が不可欠であるので、規制者は、送配電ネットワークを保有する事業者に「全ての事業者に同条件で送配電ネットワーク利用を可能とすること」を義務付けるとともに、これが貫徹するよう規制を運用することとなる。これがいわゆる発送電分離である。一口に発送電分離と言ってもいくつかの形態があるが、経産省の電力システム改革専門委員会では、以下の4類型に大別している。
発送電分離の4類型 | ||
(1) | 会計分離 | 送電部門に関する会計を分離 |
(2) | 法的分離 | 送電会社を分離するが、子会社(持ち株方式)でも可 |
(3) | 機能分離 | ISO※といった中立組織が系統運用を実施 |
(4) | 所有分離 | 送電部門の資産保有も別会社に分離(資本関係を認めない) |
※ISO(Independent System Operator 独立系統運用機関)系統運用機能や託送料金設定、送電線整備計画の策定等を行う。 |
(出典)電力システム改革タスクフォース「論点整理」
日本では会計分離+行為規制を採用
このうち、日本では(1)に該当する、送配電部門の会計分離と情報の目的外利用の禁止・差別的取り扱いの禁止といった行為規制を採用している。また電気事業法第93条に基づき指定された電力系統利用協議会(ESCJ)が、送配電ネットワークの設備形成や系統アクセス、系統運用、情報開示等に関するルール策定、これらルールに基づく送配電ネットワーク利用者と電力会社の送配電部門との間の紛争の斡旋・調停などの業務を行っている。
ESCJの運営においては、電力会社、新電力(PPS)、卸電気事業者・自家発設置者、中立者(学識経験者)の各グループが1/4ずつルール策定・改訂の議決権を持ち、苦情処理は中立者だけで構成された監視委員会で審査するなど、中立性・公平性・透明性が配慮されている。また行政は、事前関与を行わないが、ESCJの業務により公益上の問題が生じる場合には、電力会社への直接の規制、ESCJに対する業務改善命令などの事後措置を発動することとしている。
他方、より中立性・公平性・透明性を高める必要があるとして、「(2)法的分離」、「(3)機能分離」、「(4)所有分離」(中立性・公平性・透明性は段々に高まる)を採用すべし」との意見もある。いずれも民間事業者である電力会社の財産権の処分に行政介入することになるため、強制的に導入する場合は「公益の福祉にかなうのか」といった憲法上の問題を生じる。
つまり電力会社の株主が納得して自らそれを受け入れるか、あるいは行政が、現状に著しい問題があり、財産権を制限することでしか解決できないことを証明する必要がある(欧米においても、「(4)所有分離」を行った事業者は、元々国営であったか、自ら売却したかのいずれかである)。
ESCJは機能していないと言われるが
4月25日の第4回電力システム改革専門委員会では、ESCJが機能していない、その原因は、事務局が電力会社の出向者で占められているからだ、権限がないからだ、との意見があった。しかし、前述の通り、中立性・公平性・透明性を配慮した運営ルールがあり、国の事後措置が可能であることを踏まえると、むしろ、各関係者にESCJを使う、あるいは機能させる努力が不足していたように思える。
当日の事務局資料には「送配電部門の中立性に疑義があるとの指摘(事業者の声)」と題して、新規参入者(新電力)から寄せられた事例が8つ記載されている。詳細は経産省HPに掲載された資料をご確認いただきたいが(リンク先は文末に紹介)、記載されているのは疑義だけではなく、既定のルールに対する不満も混在している。
こうした声は、言いっぱなしにするのではなく、中立性に照らして本当に問題があるのかどうか、関係者の間でしっかり深掘りするべきものだ。新電力もESCJの理事会に名前を連ねており、事務局に人も派遣しているのだから、不満・疑問があるのならESCJに相談するなり、ルールの改正を提案すればよい。電力会社も、自らの行為に問題がないと思うならば、今からでもこれらの事例を自らESCJに持ち込み、調査・解明を依頼するべきだ。
加えてエネ庁も、これらの声が寄せられたのであれば、まず必要なのは、ESCJに調査を依頼するなり、自ら調査をして状況を解明することだ。それをすることなく、寄せられた声をそのまま右から左で資料に記載するだけでは、自ら制定したESCJ等の制度を、エネ庁自らスポイルしていると言えないか。上述のとおり、より強力な発送電分離に踏み切るなら、財産権を制限することでしか解決できない問題の所在を行政が証明して、憲法問題をクリアすることが必要だ。今の行政の対応状況が、その証明に耐えるとは考えにくい。
参考文献:
第4回電力システム改革専門委員会(2012年4月25日)参考資料1-2 事務局提出資料(本文で言及している部分は、P18-20)
関連記事
-
ドイツ政府は社民党、緑の党、自民党の3党連立だが、現在、政府内の亀裂が深刻だ。内輪揉めが激しいため、野党の発する批判など完全に霞んでしまっている。閣僚は目の前の瓦礫の片付けに追われ、長期戦略などまるでなし。それどころか中
-
「ドイツの電力事情3」において、再エネに対する助成が大きな国民負担となり、再生可能エネルギー法の見直しに向かっていることをお伝えした。その後ドイツ産業界および国民の我慢が限界に達していることを伺わせる事例がいくつか出てきたので紹介したい。
-
夏の電力不足の対策として、政府が苦しまぎれに打ち出した節電ポイントが迷走し、集中砲火を浴びている。「原発を再稼動したら終わりだ」という批判が多いが、問題はそう簡単ではない。原発を動かしても電力危機は終わらないのだ。 電力
-
関西電力をめぐる事件の最大の謎は、問題の森山栄治元助役に関電の経営陣が頭が上がらなかったのはなぜかということだ。彼が高浜町役場を定年退職したのは1987年。それから30年たっても、金品を拒否できないというのは異常である。
-
けさの日経新聞の1面に「米、日本にプルトニウム削減要求 」という記事が出ている。内容は7月に期限が切れる日米原子力協定の「自動延長」に際して、アメリカが余剰プルトニウムを消費するよう求めてきたという話で、これ自体はニュー
-
少し前の話になるが2017年12月18日に資源エネルギー庁で「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」と題する委員会が開催された。この委員会は、いわゆる「日本版コネクト&マネージ」(後述)を中心に再生
-
国土交通省の資料「河川砂防技術基準 調査編」を見ていたら印象的な図があった。東京の毎年の1日の降水量の最大値だ。 ダントツに多いのが1958年。狩野川台風によるものだ。気象庁ホームページを見ると372ミリとなっている。図
-
はじめに 国は、CO2排出削減を目的として、再生可能エネルギー(太陽光、風力、他)の普及促進のためFIT制度(固定価格買取制度(※))を導入し、その財源を確保するために2012年から電力料金に再エネ賦課金を組み込んで電力
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間