今週のアップデート — 福島の低線量の放射線量で健康被害は起こるのか?(2012年2月20日)
今週のコラム
1)福島第1原発事故から間もなく1年が経過しようとしています。しかしそれだけの時間が経過しているにもかかわらず、放射能をめぐる不正確な情報が流通し、福島県と東日本での放射性物質に対する健康被害への懸念が今でも社会に根強く残っています。
札幌医科大学の高田純教授(放射線防護学)に「福島はチェルノブイリにも広島にもならなかった」を寄稿いただきました。高田氏は世界各国の核災害の研究を進めてきた科学者です。福島での調査を踏まえた上で、「県民に放射線由来の健康被害は発生しないと判断する」と分析しています。
2)GEPRは、低線量被曝の問題について、正確な情報を日本社会に提供しています。低線量の放射線を長期にわたって体に浴びた累積被曝の場合に、人体にどのような影響が出るのかについて、編集部で研究論文の調査を行いました。
記事「低線量の放射線を長期間浴びると健康被害が起こるのか? — パイロット、放射線技師など医学調査のリサーチ — 被害見当たらず」を提供します。パイロット、世界各国での自然放射線による高線量地域の住民の調査では、健康被害が確認されていません。
3)GEPRを運営するアゴラ研究所は「ニコ生アゴラ」という番組をウェブテレビの「ニコニコ生放送」で月に1回提供しています。今年1月19日の第1回放送は「放射能はそんなに危険?原発のリスクを考える」(映像、ポッドキャスト)でした。
これを「放射能、福島に健康被害の可能性はない — ニコ生・アゴラ「放射能はそんなに危険?原発のリスクを考える」報告」の形で記事化しました。「重要なのは、すでに起こった事故の被害を最小化すること。福島に健康被害がないことを前提に復興を考えなければならない」と、アゴラ研究所の池田信夫氏が発言。参加者はその意見に一致しています。
今週の紹介論文
1) スタンフォード大学名誉教授の青木昌彦氏が、日本経済新聞に昨年8月4日に寄稿した論文「原発事故に学ぶ—危機に強い産業組織築け」を、青木氏のご厚意で掲載します。青木氏は開放型の組織が、危機にも社会の変化にも対応しやすいことを指摘し、電力改革で組織のあり方に配慮する提言をしています。
2)長期にわたる健康に即座の被害のない低線量の累積被曝について各種の研究があります。航空機パイロットは、一般人よりも飛行中に強い放射線を浴びます。「航空機パイロットのがん死亡率:ヨーロッパ疫学調査から」
という論文では、航空機1万9184例の男性パイロットを調査しました。彼らにがんなどの健康被害のリスク増加は観察されていません。
3)微量放射線はむしろ死亡率を低下させるという説があります。例えばラドン温泉などが健康にいいとされるもので「ホルミシス効果の仮説」と呼ばれます。「電子放射線の生物学的効果:日本に送る一視点」というアメリカの科学者の書いた論文で、この説を紹介しています。
この仮説は、現在のところ科学的には証明されていません。もちろん、その効果はあったとしても限定的です。
関連記事
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPRはサイトを更新しました。また8月2日の更新はお休みさせていただきます。 今週のアップデート 1)福島県双葉町の復興に向けたまちづくり-「荒廃した農地の再生モ
-
今回も前回に続いて英国シンクタンクの動画から。 大手の環境雑誌ナショナル・ジオグラフィックが、飢えてやせ細った、ショッキングなシロクマの映像を見せて、気候変動の影響だ、気候緊急事態だ、とした。この映像は25億回も再生され
-
原油価格は年末に向けて1バレル=60ドルを目指すだろう。ただし、そのハードルは決して低くはないと考えている。
-
前回、前々回の記事で、企業の脱炭素の取り組みが、法令(の精神)や自社の行動指針など本来順守すべき様々な事項に反すると指摘しました。サプライヤーへの脱炭素要請が優越的地位の濫用にあたり、中国製太陽光パネルの利用が強制労働へ
-
熊本県、大分県など、九州で14日から大規模地震が続いている。1日も早い復旧と被災者の方の生活の回復を祈りたい。この地震でインフラの復旧の面で日本の底力に改めて感銘を受けた。災害発生1週間後の20日に、電力はほぼ全戸に復旧、熊本県内では都市ガス、水道は9割以上が復旧した。
-
G20では野心的合意に失敗 COP26直前の10月31日に「COP26議長国英国の狙いと見通し」という記事を書いた。 その後、COP26の2週目に参加し、今、日本に戻ってCOP26直前の自分の見通しと現実を比較してみると
-
IPCCは10月に出した1.5℃特別報告書で、2030年から2052年までに地球の平均気温は工業化前から1.5℃上がると警告した。これは従来の報告の延長線上だが、「パリ協定でこれを防ぐことはできない」と断定したことが注目
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間