震災がれき問題、なぜ深刻になったのか? — 放射能と原発をめぐる知識不足のもたらした混乱
東日本大震災で発生した災害廃棄物(がれき)の広域処理が進んでいない。現在受け入れているのは東京都と山形県だけで、検討を表明した自治体は、福島第1原発事故に伴う放射性物質が一緒に持ち込まれると懸念する住民の強い反発が生じた。放射能の影響はありえないが、東日本大震災からの復興を遅らせかねない。混乱した現状を紹介する。
被災地宮城県に19年分のがれき
2月10日に日本政府は復興庁を設置し、野田佳彦首相は会見を行った。その中の当面の課題の一つに、被災地のがれきの広域処理を挙げた。「仮置き場に集められているがれきを被災地で処理する能力は限界がある。安全ながれきを全国で分かち合う広域処理が不可欠だ。これまで東京都や山形県など積極的に協力いただいているところもあるが、すべての閣僚で各自治体に幅広く協力呼びかけをしていきたい」。全国の自治体に対して、がれき処理の協力を呼びかけた。
しかしその処理はなかなか進まない。野田総理の発言のようにがれき処理への協力を2月10日までに決めたのは東京都と山形県のみ。受け入れに前向きな姿勢を示している自治体は、神奈川県、埼玉県、千葉県、石川県、静岡県などにすぎない。環境省が2月に公表した資料によると、今回被災地域で臨時に発生した震災がれきの発生量は2600万トン。2009年度の全国の処理実績は4625万トンだから、膨大な量だ。
岩手県のがれき推定量は約476万トン、宮城県は約1569万トンに上る。これは宮城県の一般廃棄物の19年分、岩手県でも11年分に相当する。福島県は約260万トンと推定されているが、原発事故による立ち入りの制限区域が3月までに設定されているために、当面は県内で処理をする予定だ。環境省は2014年3月末までをめどに処理を完了するとしているが、遅れる可能性もある。
少数者の反対が感情的に
処理を遅らせているのは、反対論だ。ありえない放射能汚染の拡散を懸念し、反対を繰り返す人々が少数ながらいる。昨年夏の京都市の大文字焼きで、岩手県の被災地の松を燃やすことが反対によって断念された。それと同種の懸念だ。
受け入れ方針を示している静岡県島田市が、試験焼却するがれきを搬送した。そこで島田市の広報誌に掲載された以下の投書が話題となっている。
「今する支援は避難者の受け入れ、これ以上の放射性物質を増やさないことです。子供は大人の何十倍も放射能の影響を受けてしまうのに、あなたは子供にも強要するなんて瓦礫利権の金目当ての腐った人です」
「もはや、岩手県は日本の敵である。人にお願いをする時は静岡県民一人一人に頭を下げるべきなのに、偉そうな態度で上から目線で当たり前だと思っている。もはや人間のクズである」。
神奈川県の黒岩祐治知事は1月30日、神奈川県庁で、がれき受け入れで県民の理解を求める集会「対話の広場」に臨んだ。集会は3回目で、約220人の参加者でほぼ満席となった会場は異様な雰囲気に包まれた。
黒岩知事は被災地のがれきを受け入れている東京都のデータを基に「がれきの放射線量は低い」と繰り返した。そして「不安というのは想像が膨らんでいきますと、どんどん怖くなっていきます。その不安というものを解消するためには、正しい情報をしっかりとお伝えします」と発言。すると「うそ言うな!」とヤジが繰り返され、会場は騒然となった。反対派は「放射性物質を持ち込まないで」の一点張りだった。
黒岩知事は対話の広場終了後、記者団に対し、「罵声怒号を浴びても被災地を救いたいという私の心は折れていない。理解してもらうためにやり抜く」と話したが、実現への道は多難なようだ。(参考・河北新報記事)
ありえない放射能による障害
しかし被災地からのがれきで騒ぐのはとても非科学的だ。いま瓦礫が問題になっている岩手県釜石市は約260kmで、東京からの距離とほぼ同じ。宮城県、岩手県の空間線量も関東地方と変わらない。
東京二十三区清掃一部事務組合が宮城県女川市での震災がれきの焼却の実験結果について公表している。がれきを普通ごみと2割ほどまぜて燃やしたが。放射性物質は確認されていない。放射性廃棄物の移動は法律によって規制され、移動は100ベクレル/kg以下のものに限定されている。
原発事故後の放射性物質の広がりや放射性セシウム濃度といった科学的なデータを見ると、がれきの放射線量による健康被害はありえない。適正に処理されれば、生活圏で被ばく量は上昇しないということを、反対する人も冷静に理解するべきだ。
神奈川県黒岩知事のように「話し合う」ことを試みる良心的な首長もいる。行政側は情報を粘り強く発信し、不安を信頼に変えていく努力も必要だろう。
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