太陽光バブルの崩壊(下)政策目的不明に【アゴラチャンネル報告】
「(上)なぜ混乱?」から続く。
再エネ振興策の目的が明確でない
澤・FITの問題は、目的が明確ではない点です。「再エネを増やすため」と誰もがいいます。しかし「何のために増やすのか」という問いに、答えは人によって違います。「脱原発のため」という人もいれば「エネルギーの安全保障のため」と言う人もいます。始まりは先ほど述べたように、温暖化対策だった。共通の目標がありません。これはよくない。
福島原発事故前は、世界でも日本でも、気候変動に向き合うための脱二酸化炭素の電源として原発と再エネは同じカテゴリーで語られてきました。世界では今もそうです。ところが日本だけ原発と再エネは対立するものと受け止められて、その実行が政治的イシューになっているわけです。
また、再エネ支援策にはいろんな目的が詰め込まれすぎました。地方再生のために遊休地や農地を再エネに使うとか、そういう意図も組み込まれました。けれども、そのマイナスが検証されなかったし、目的が多すぎるために、その意味が曖昧になっているのです。
例えば20年経過して、エネ支援が行われなくなったとき、メガソーラーを撤去するのは大変です。廃棄物の処理の問題も出てきます。
宇佐美・確かに目的が明確ではなく、インセンティブの付け方が間違ったと思います。ベース、ミドル、ピークと電源を分けるなら、再エネは、ピーク時の調整用に使うべき電源です。比較をする電源は石油火力であるべきでした。化石燃料を使わないことによって得る利益、「回避可能費用」を考えるべきなのに、それをしなかったんです。
再エネには可能性があります。私は再エネコンサルを始めたときに、小型水力を増やすべきと、思いましたし、その支援をやりたかったのです。日本ではできる余地がたくさんありますから。しかし保護が太陽光に手厚すぎて、仕事はそちらにシフトしてしまいました。太陽光はつくりやすいというメリットがありますが、それだけが有利になりすぎました。
また太陽光でも、シリコンと非シリコンの支援を分けるべきでした。シリコンに太陽光のパネルが大半ですが、CIGSという素材では、発電効率や形状でイノベーションの可能性があります。今のFITでは、数を増やすだけで、技術開発を支援しないのです。
池田・私は、そもそもこのFITそのものに、やるべきか疑問があるわけです。マイクロソフトの創業者のビルゲイツと話したのですが、彼もFITを評価していませんでした。彼は気候変動への対応を重視していて、いろいろ再エネを調べたそうです。しかし自然条件で発電が左右され、規模が小さいために、再エネで発電した電気をためる蓄電池の劇的な技術革新がない限り、再エネの普及は難しいと述べていました。
またFITは、今の技術で作られた発電設備の量を増やす仕組みです。しかし新しい技術のイノベーションの方に、公的支援は使われるべきと、述べていました。彼はビジネスとして回ることを考えている。私も彼の意見に同意します。
そしてFITは欧州諸国で失敗しているわけです。先行してFITを実施したドイツはヒトラーを生んだ国民性か、考え尽くして間違えるわけですよね。電気代が2倍になってようやく止めようとしています。なぜ日本太陽光に支援が片寄ったのでしょうか。
澤・産業政策の面、また太陽光が他の再エネと比べて作りやすいという点などが考えられます。しかしロビイングの成果でしょうね。エネルギー分野が解放されるということで、新しい人々が入ってきたわけです。
ただし温暖化対策としても、再エネはそんなに効果のあるものではないのです。米国のオバマ大統領では、中間選挙で敗北しましたが、残り2年の任期で気候変動対策を最後の仕事にしようとしているようです。かつては再エネを重視していたのですが、今は原子力発電に政権は注目しています。
環境面でも雇用面でもそれほど効果がないのです。例えば、太陽光発電でCO2を1トン削減すると5万円ぐらいかかります。しかし今、排出権1トンは400-500円で買えます。太陽光発電は雇用を生むという説があります。しかし、ドイツでは研究が出ていて1500万円の補助金を再エネに投入して、500万円の仕事が一つできる程度の効果しかありませんでした。
宇佐美・太陽光は、つくりやすく、資産運用の対象になりました。日本でうまくいけば10%超で回ったわけです。またグリーン投資減税も行われていて、税の控除でも優遇されました。メガソーラー事業の資金の出し手は、航空機のリースなどをやっていた金融機関です。企業です。金融機関が動きやすい仕組みになったために、この急拡大があったのでしょう。
けれども優遇のしすぎの面がありました。1年半ぐらい前に、太陽光事業者の会合に出ました。そのとき「国がバブルをつくってくれる。バブル万歳」と、乾杯の音頭があったのです。みんなこうなることは分かっていたんですね。
抜本的見直しは難しい
池田・それでは、どのように直せばいいでしょうか。有識者会議では、見直し論がかなり出ています。
澤・行政では、新しいことを始めるときに、数年後に終わる時限立法にすることが多いのです。ところが、再エネ支援法これは20年の買い取り義務を加えてしまい、恒久法になってしまいました。そして多くの人が制度に参加してしまった。これはなかなかやめられない。もしやめるとしたら、廃止法をつくらなければならないでしょう。
また再エネをやめるということは、今の政治情勢では、原発推進というレッテルを貼られ、野党と世論に攻撃されるリスクがある。なかなか踏み込めないでしょうね。
宇佐美・経産省は増加を抑制しようとしています。今は事業者にアンケートを取り、認定後に発電をなかなか開始しないと、認定を取り消すなどの措置をしています。これでかなり件数は減るでしょう。
澤・行政訴訟は起こりそうでしょうか。
宇佐美・起こるとは思います。ただし国に勝てるかどうかは分かりません。最近のメディアは、「投資家が気の毒」という報道をしていますが、大半の参加者は、こうしたことが起こることを分かっていました。電力会社に激しく抗議している人は最近になって参入したり、ブローカーにもうかるという話を聞いて信じたりした人が多いように思えます。
ただし今後買い取り価格は下がっていくでしょう。接続のための電力会社からの要望も増えています。もちろん協議で主張を述べることはできるのですが、かつてと違ってすぐに接続できなくなりました。北海道での再エネは、接続に際して北電が蓄電池をつける要請をしています。そのためにFITでは40円前後の買い取り価格がないと、採算が難しくなっています。
澤・今後、再エネは注目されていくでしょう。中間選挙で敗北したオバマ大統領は、気候変動対策をまとめて残りの任期をまっとうしたがっているようです。中国も気候変動対策での国際的な枠組みに向き合おうとしています。
日本では、先ほど述べたベストミックスの観点や、気候変動の観点から、再エネのメリット、デメリットテーブルにのせた上で、そのメリットデメリットを並べ、何のために再エネをするのか、検討した方がいいでしょう。
日本で不思議なのは、この制度で負担を受ける人から、反対の声が上がらないのです。消費者団体などです。ドイツではFITの開始は市民運動が影響しましたが、同時に取りやめの運動をしたのは消費者団体なんです。今ドイツは、FITの支出を補うために、石炭火力を増やしています。これは本末転倒な状況です。
私は個人的にはRPSという、FIT導入前の制度という、導入目標を決め、それに併せて再エネ間で競争させる仕組みの方がいいと考えています。
池田・再エネで問題が出たことを契機として、エネルギーの未来を考えるべきでしょう。ありがとうございました。
【番組終了後にニコニコ生放送でアンケートを取った。「太陽光発電に歯止めをかけるべきと思いますか」というというに、閲覧数1500、母数不明ながら「そう思う」が80.2%、「思わない」の19.8%を大きく上回った】
(編集 石井孝明 アゴラ研究所フェロー)
(2014年11月10日掲載)
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