温暖化問題に関するG7、G20、BRICSのメッセージ②
(前回:温暖化問題に関するG7、G20、BRICSのメッセージ①)
新興国・途上国の本音が盛り込まれたBRICS共同声明
新興国の本音がはっきりわかるのは10月23日にロシア・カザンで開催されたBRICS首脳声明である。
BRICSは2009年に開催されたブラジル、ロシア、インド、中国4か国(BRIC)首脳会合に2011年から南アが加わって発足した。2023年の首脳会議において、2024年1月よりアルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、UAEが正式加盟し、11か国体制となることが承認されたが、直前にアルゼンチンが加盟を撤回し、サウジアラビアは引き続き加盟を検討中なので、今回は9か国体制となる。
23日に発表した共同宣言ではこれまでの加盟国に加えて、新たにトルコ、インドネシア、アルジェリア、ベラルーシ、キューバ、ボリビア、マレーシア、ウズベキスタン、カザフスタン、タイ、ベトナム、ナイジェリア、ウガンダの13か国をパートナー国とすることが合意された。
先進国、新興国両方が参加し、共同声明も妥協の産物となるG20と異なり、BRICSは新興国・途上国のみのフォーラムである。このためエネルギー・温暖化問題に関してもG7との違いがG20以上に際立つ。
首脳声明における気候変動・エネルギー関連のメッセージの主要なポイントは下のとおりである。
- 気候変動枠組み条約の「共通だが差異のある責任」原則を強調。GHGsの削減及び除去に貢献する、あらゆる解決策及び技術に関する協力を強化。適応の重要性、資金、技術移転、能力構築の適切な提供の必要性を強調。
- UNFCCCが、気候変動問題をあらゆる側面から議論する主要かつ正当な国際フォーラムであり、安全保障を気候変動のアジェンダと結びつけようとする動きに深い懸念。2022年のCOP27におけるロス&ダメージ基金の設立、2023年のCOP28における第1回グローバルストックテーク決定、気候レジリエンスのためのUAEフレームワークを歓迎。途上国への気候資金に関する強力な成果を期待し、アゼルバイジャンでのCOP29の成功にコミット。2025年のCOP30開催におけるブラジルのリーダーシップを支持し、2028年のCOP33開催に向けたインドの立候補を歓迎。
- SDGsの達成に向けたエネルギーへのアクセスの基本的な役割を強調するとともに、エネルギー安全保障に対する概略的なリスクに留意しつつ、公平、包括的、持続可能、衡平かつ公正なエネルギー転換に向けて、エネルギー製品・サービスの主要な生産者・消費者であるBRICS諸国間の協力強化の必要性を強調。
- エネルギー安全保障、アクセス、エネルギー転換は重要であり、UNFCCCとパリ協定の完全かつ効果的な実施を考慮しつつ、バランスをとることが必要。自由で、開放的で、公正で、無差別的で、透明性があり、包摂的で、予測可能な国際的なエネルギー貿易・投資環境の醸成が重要。
- 安価で信頼性が高く、持続可能で近代的なエネルギー源への普遍的なアクセスを提供するとともに、国内、世界及び地域のエネルギー安全保障を確保するため、弾力的なグローバル・サプライチェーン及び安定的で予測可能なエネルギー需要の必要性を強調。
- 国境を越えた重要なエネルギー・インフラに対するテロ攻撃を非難。このような事件の調査に対するオープンで公平なアプローチを要求。
- 公正なエネルギー転換を達成するために、気候や自然条件、国民経済の構造、エネルギーミックス、また、経済が化石燃料や関連エネルギー集約型製品の収入や消費に大きく依存している途上国特有の状況を含む、各国の事情を考慮する必要性を再確認。GHGの削減のために削減・除去技術を備えた化石燃料、バイオ燃料、天然ガス、LPG、水素、アンモニアを含むその派生物、原子力、再生可能エネルギー等、利用可能なすべての燃料、エネルギー源、技術を利用。
- 共通だが差異のある責任の原則に則り、正当なエネルギー転換のために、先進国から途上国へ、適切で予測可能かつアクセス可能な資金を配分することを要請。
- 環境問題を口実にした、一方的で差別的な炭素国境調整メカニズム(CBAMs)、税、その他の措置等、国際法に沿わない、懲罰的で差別的な保護主義的措置を拒否し、気候や環境に基づく一方的な貿易措置の回避に関するCOP28での呼びかけへの全面的な支持を再確認。グローバルな供給・生産チェーンを意図的に混乱させ、競争を歪める一方的な保護主義的措置にも反対。
- BRICS諸国間のパリ協定第6条の下でのBRICS域内の潜在的な協力についての議論を目的にBRICS炭素市場パートナーシップを設立。
一読すればわかるようにG7サミットに必ず出てくる1.5℃目標、2025年ピークアウト、2035年▲60%、2050年カーボンニュートラル、化石燃料フェーズアウト等の野心的なメッセージは一切登場しない。第一に強調されるのは先進国と途上国の間の「共通だが差異のある責任」である。
またG7のように脱化石燃料、なかんずく石炭フェーズアウトを唱道するのではなく、化石燃料のクリーンな利用や天然ガスも含め、全てのオプションを追求するとしている。
他方、EUで導入準備の進む炭素国境調整メカニズムを拒絶し、中国産パネルやEVへの高関税を念頭に「グローバルなサプライチェーンを意図的に混乱させ、競争を歪曲する一方的保護措置」を強く批判する等、先進国への舌鋒は鋭い。
またCOP29の主要課題である途上国への資金援助についてはG7サミットが自分たちが主要なドナーであることを認めつつも、「公的資金動員への貢献が可能な国々も含まれること」を主張し、中国、サウジ等の資金貢献を期待しているのに対し、BRICSサミットは専ら先進国の責任を強調している。
このようにG7とBRICSとではエネルギー、温暖化に関する見方が大きく異なる。問題は今後の世界のエネルギー需給の相当部分をBRICS及びパートナー国が占めることとは明らかなことだ。
中国の習近平国家主席はBRICSの勢力を拡大し、西側諸国に対する「防波堤」とすべく、「世界は新たな激動と変革の時代に入った。BRICSをグローバルサウスの団結と協力を促す主要な推進力へと育てるべきだ」と強調した。
資金力と豊富なエネルギー資源を武器にBRICSサウスを取り込む動きは更に強まるだろう。BRICSパートナー国の中には日本が主導するAZECに参加するインドネシア、ベトナム、タイ、マレーシアも含まれている。
G7が脱炭素でいかに野心的なメッセージを盛り込み、他国に同調を求めても、独り相撲に終わるだけであり、BRICSの味方を増やしてしまう可能性もある。途上国の現状を踏まえた現実的なエネルギー転換、温暖化議論の必要性がますます高まっている。本稿執筆時点では結果が見えないが米大統領選の結果も大きな影響を与えるだろう。
関連記事
-
再生可能エネルギーの導入拡大に向けてさまざまな取組みが行われているが、これまでの取組みは十分なものといえるのだろうかというのが、今回、問題提起したいことです。そのポイントは以下のようになります。
-
福島県で被災した北村俊郎氏は、関係者向けに被災地をめぐる問題をエッセイにしている。そのうち3月に公開された「東電宝くじ」「放射能より生活ごみ」の二編を紹介する。補償と除染の問題を現地の人の声から考えたい。現在の被災者対策は、意義あるものになっているのだろうか。以下本文。
-
前回に続いて、環境影響(impact)を取り扱っている第2部会報告を読む。 今回は人間の健康への気候変動の影響。 ナマの観測の統計として図示されていたのはこの図Box 7.2.1だけで、(気候に関連する)全要因、デング熱
-
以前も書いたが、北極のシロクマが増えていることは、最新の報告書でも再確認された(報告書、記事)。 今回の報告書では新しい知見もあった。 少なくとも2004年以降、ハドソン湾西部のホッキョクグマの数には統計的に有意な傾向が
-
原子力発電の先行きについて、コストが問題になっています。その資金を供給する金融界に、原発に反対する市民グループが意見を表明するようになっています。国際環境NGOのA SEED JAPANで活動する土谷和之さんに「原発への投融資をどう考えるか?--市民から金融機関への働きかけ」を寄稿いただきました。反原発運動というと、過激さなどが注目されがちです。しかし冷静な市民運動は、原発をめぐる議論の深化へ役立つかもしれません。
-
日本のすべての原発は現在、法的根拠なしに止まっている。それを確認するために、原子力規制委員会・規制庁への書面取材を行ったが、不思議でいいかげんな解答をしてきた。それを紹介する。
-
20世紀後半から、人間は莫大量の淡水を農工業で利用するようになった。そのうち少なからぬ量は海に還ることなく蒸発して大気中に放出される。それが降水となることで、観測されてきた北半球の陸地における2%程度の雨量増加を説明でき
-
再生可能エネルギーの先行きについて、さまざまな考えがあります。原子力と化石燃料から脱却する手段との期待が一部にある一方で、そのコスト高と発電の不安定性から基幹電源にはまだならないという考えが、世界のエネルギーの専門家の一般的な考えです。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間