温暖化問題に関するG7、G20、BRICSのメッセージ①
11月11日~22日にアゼルバイジャンのバクーでCOP29が開催される。
COP29の最大のイシューは、途上国への資金援助に関し、これまでの年間1000億ドルに代わる「新たな定量化された集団的な目標(NQCG)」に合意することであり、資金援助拡大に向け、途上国が先進国に攻勢をかける構図となる。
他方、先進国はCOP28におけるグローバル・ストックテイクの成果を踏まえ、1.5℃目標を射程に収めるためのNDCや長期目標の野心レベルの引き上げをプッシュしたいと考えている。
先進国の目論見が奏功するかどうかはG7プロセス、G20プロセス、更には先般のBRICSプロセスで発出されたメッセージを比較すれば明らかである。
野心的メッセージ満載のG7共同声明
本年6月14日にイタリアのプーリアで開催されたG7サミットの首脳声明は、
「世界の気温上昇を1.5℃ に抑制する目標を達成するため、この重要な10年間で、世界の温室効果ガス排出量を2019年比で約43%削減し、2035年までに60%削減する取り組みに大きく貢献する」
「遅くとも2025年までに世界の温室効果ガスをピークに達し、2050年までにネットゼロを達成するためには、これは集団的努力であり、すべての国、特に主要経済国のさらなる行動が必要である」
「野心的な1.5℃に沿ったNDCを提出することを約束する。これは集団的な努力であることを強調し、我々は、全ての国、特にG20や他の主要経済国に対し、同様の努力を行うよう求める」
と述べた。
また発電部門の脱炭素化に関しては、
「2035年までに電力セクターの完全な脱炭素化もしくは大半の脱炭素化を達成し、2030年代前半、もしくは各国のネット・ゼロの道筋に沿って、1.5℃の気温上昇の制限を維持することと整合的なスケジュールで、エネルギーシステムにおける既存の未熱存石炭発電を段階的に廃止(フェーズアウト)するという我々のコミットメントを再確認する。他の国々とパートナーに対し、可能な限り早期に、新規の稼働停止していない石炭火力発電所の許可と建設を終了させるために、我々と共に参加する ことを改めて要請する」
と述べた。
1.5℃、2050年カーボンニュートラルを至高の目標とし、石炭火力のフェーズアウトを謳い、G7のみならず、他国に同様の行動を求めるという点で昨年の広島サミットと同様である。
数値目標のないG20共同声明
G7が脱炭素化やエネルギー転換に前のめりのメッセージを出すのに対し、中国、インド、ブラジル、南ア、サウジ、ロシア等を含むG20のメッセージはトーンが異なる。
G20リオサミット(11月18〜19日)の首脳声明は本稿執筆時は未だ発出されていないが、その内容は10月3日にリオ・デ・ジャネイロで開催された「環境・気候持続可能性大臣会合」(10月3日)、10月4日にフォス・ド・イグアスで開催された「エネルギー転換大臣会合」(10月4日)の閣僚声明を読めば概ね見当はつく。
まず環境・気候持続可能性大臣会合の閣僚声明には「1.5℃目標」「2025年ピークアウト」「2035年60%減」「2050年カーボンニュートラル」への言及は全くない。
あるのは、
- 我々の指導的役割に留意しつつ、UNFCCCの目的を追求し、異なる国情に鑑み、衡平性、共通するが差異ある責任の原則及びそれぞれの能力を反映しつつ、パリ協定及びその気温目標の完全かつ効果的な実施を強化することにより、気候変動に取り組むとの我々の確固たるコミットメントを再確認する
- 入手可能な最善の科学を考慮に入れ、パリ協定の全ての柱について野心的な行動をとることの重要性を強調する
- COP28における野心的でバランスのとれた成果、UAEコンセンサス、パリ協定の下での第1回グローバル・ストックテイク(GST-1)の成果を歓迎し、全面的に賛同する
といった一般論である。
エネルギー転換大臣会合においては、「クリーンで、持続可能で、公正で、手ごろな価格で、包括的なエネルギー転換の加速」や「世界的なエネルギー転換のための資金ギャップを埋めるために、あらゆる資金源とチャネルからの投資を触媒し、拡大する必要性、特に途上国におけるエネルギー転換技術とインフラへの既存投資と追加投資のリスク回避、動員、多様化の緊急性」等が強調される一方、クリーン化石燃料あるいは石炭火力の段階的廃止(フェーズアウト)という文言が全く入っていない。
いつものことであるが数値目標、野心レベル引き上げ、化石燃料フェーズアウトに熱心なG7に対してG20はどこか冷めている。
特に昨年のG20デリーサミットにおいてIPCCのモデル計算の結果としつつも2025年ピークアウトに留意されていたこと、排出削減対策を講じていない石炭火力の段階的削減(フェーズダウン)というCOP26の合意内容が再掲されていたことと比べても、今回のG20のメッセージはG7に比して分量も少なく、内容面でも非常に「あっさりと」した印象を受ける。
(その②につづく)
関連記事
-
欧州の非鉄金属産業のCEO47名は、欧州委員会のウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長、欧州議会のロベルタ・メッツォーラ議長、欧州理事会のチャールズ・ミシェル議長に宛てて、深刻化する欧州のエネルギー危機「存亡の危機」につ
-
「甲状腺異常が全国に広がっている」という記事が報道された。反響が広がったようだが、この記事は統計の解釈が誤っており、いたずらに放射能をめぐる不安を煽るものだ。また記事と同じような論拠で、いつものように不安を煽る一部の人々が現れた。
-
はじめに 12月15日閉幕したCOP24では2020年に始動する「パリ協定」の実施指針(ルールブック)が採択された。 我が国はCO2排出量削減には比較的冷淡だ。例えば、燃料の異なる発電所を比較検討した最新のデータ、201
-
イタリアのトリノで4月28日~30日にG7気候・エネルギー・環境大臣会合が開催され、共同声明を採択した。 最近のG7会合は、実現可能性がない1.5℃目標を前提に現実から遊離した議論を展開する傾向が強いが、トリノの大臣会合
-
20日のニューヨーク原油市場は、国際的な指標WTIの5月物に買い手がつかず、マイナスになった。原油価格がマイナスになったという話を聞いたとき、私は何かの勘違いだと思ったが、次の図のように一時は1バレル当たりマイナス37ド
-
原子力規制委員会は、日本原電敦賀2号機について「重要施設の直下に活断層がある」との「有識者調査」の最終評価書を受け取った。敦賀2号機については、これで運転再開の可能性はなくなり、廃炉が決まった。しかしこの有識者会合なるものは単なるアドバイザーであり、この評価書には法的拘束力がない。
-
EUと自然エネルギー EUは、パリ協定以降、太陽光や風力などの自然エネルギーを普及させようと脱炭素運動を展開している。石炭は悪者であるとして石炭火力の停止を叫び、天然ガスについてはCO2排出量が少ないという理由で、当面の
-
4月16日の日米首脳会談を皮切りに、11月の国連気候変動枠組み条約の会議(COP26)に至るまで、今年は温暖化に関する国際会議が目白押しになっている。 バイデン政権は温暖化対策に熱心だとされる。日本にも同調を求めてきてお
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間