トランプ再選は「脱炭素化」という幻想から常識への回帰

2024年07月16日 15:00
アバター画像
アゴラ研究所所長

アメリカ共和党の大会が開かれ、トランプを大統領に指名するとともに綱領を採択した。トランプ暗殺未遂事件で彼の支持率は上がり、共和党の結束も強まった。彼が大統領に再選されることはほぼ確実だから、これは来年以降のアメリカの政策と考えてもいいだろう。

産経新聞より

世界最大の資源国アメリカの成長という常識への回帰

綱領のタイトルは「アメリカ・ファースト:常識への回帰」。エネルギー政策についてはこう書かれている。

常識によれば、アメリカのエネルギーを解き放たなければならないことは明らかだ。それはインフレを破壊して価格を急速に引き下げ、史上最大の経済を構築して防衛産業基盤を復活させ、新産業を振興し、アメリカを製造業超大国として確立するために必要なのだ。

アメリカは世界最大の資源輸出国になったが、バイデン政権は化石燃料を廃止してエネルギー供給を削減し、インフレをまねいた。トランプはこれをリセットし、アメリカの製造業を復活させるという。

トランプ大統領のもと、アメリカは世界最大の石油と天然ガスの生産国となったが、アメリカのエネルギー生産に対する制限を解除し、社会主義的なグリーン・ニューディールを終了することで、間もなく再び世界最大の生産国に戻るだろう。

共和党は、原子力を含むあらゆる資源からのエネルギー生産を解き放ち、インフレを即座に抑制し、信頼性が高く、豊富で手頃な価格のエネルギーをアメリカの家庭、自動車、工場に供給する予定である。

「グリーン・ニューディール」とは、バイデン政権の化石燃料規制や補助金のことだ。具体的には「電気自動車の義務づけなどコストのかかる規制を廃止する」と明記している。パリ協定については何も書いてないが、これは大統領令だけで離脱できるので、トランプが当選したらまた離脱するだろう。つまり1.5℃目標も無視するということだ。

エネルギー危機で化石燃料を減らすのは非常識

トランプもいうように世界のエネルギー供給が危機的な状況にあるとき、化石燃料をなくせというバイデン政権は非常識である。まずエネルギーを十分供給するために化石燃料の供給を増やし、原子力を含む資源を開発することが最優先である。

この綱領には「脱炭素化」も「気候変動」も出てこない。そんな遠い未来の話より、今のアメリカ人の生活と製造業の復活が大事だ。少なくともトランプ政権の4年間は、アメリカは化石燃料の採掘を増やし、世界に輸出するだろう。

世界のCO2排出の15%を占めるアメリカが排出を増やしたら、域内全体で7%しか排出していないEUが何をしても意味がない。3%しか排出していない日本が排出を削減しても、地球の気温は0.01℃も下がらない。

「2050年カーボンニュートラル」を棚上げするとき

これが新しい常識である。トランプの政策は孤立主義や保護主義の色彩が強く問題が多いが、エネルギー政策についてはEUの「2050年カーボンニュートラル」という目標が非常識である。日本政府は世界の空気を読んでいるつもりだろうが、これはEUの政治的スローガンにすぎない。

化石燃料をすべて廃止すると、人類は莫大なコストを負担しなければならない。それは世界のGDPの4%であり、そのほとんどは先進国が負担するので、日本の負担は10%を超えるだろう。毎年60兆円を25年後の気温を0.01℃下げるために使うのか?

そういう費用対効果をまったく考えないで進めてきた日本のエネルギー政策も非常識であり、すでに破綻している。エネルギー基本計画の見通しは大きく外れ、今後エネルギー需要は4割増ともいわれている。それを完全に行き詰まった再エネで供給することは不可能だ。

日本も常識に立ち返るべきだ。2050年カーボンニュートラルという非常識な国際公約を棚上げし、石炭火力を復活させ、原発の再稼動を(安全審査とは独立に)進めてエネルギー供給を増やすべきだ。日本が見習うべきなのは衰退するEUではなく、超大国アメリカである。

This page as PDF

関連記事

  • 第1回「放射線の正しい知識を普及する研究会」(SAMRAI、有馬朗人大会会長)が3月24日に衆議院議員会館で行われ、傍聴する機会があった。
  • ポルトガルで今月7日午前6時45分から11日午後5時45分までの4日半の間、ソーラー、風力、水力、バイオマスを合わせた再生可能エネルギーによる発電比率が全電力消費量の100%を達成した。
  • ドイツ東部の都市、ライプツィヒに引っ越して、すでに4年半が過ぎた。それまで38年間も暮らしたシュトゥットガルトは典型的な西ドイツの都市で、戦後、メルセデスやポルシェなど自動車産業のおかげで急速に発展し、裕福になった。 一
  • 既にお知らせした「非政府エネルギー基本計画」の11項目の提言について、3回にわたって掲載する。今回は第2回目。 (前回:非政府エネ基本計画①:電気代は14円、原子力は5割に) なお報告書の正式名称は「エネルギードミナンス
  • これが日本の産業界における気候リーダーたちのご認識です。 太陽光、屋根上に拡大余地…温室ガス削減加速へ、企業グループからの提言 245社が参加する企業グループ、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)は7月、GH
  • 女児の健やかな成長を願う桃の節句に、いささか衝撃的な報道があった。甲府地方法務局によれば、福島県から山梨県内に避難した女性が昨年6月、原発事故の風評被害により県内保育園に子の入園を拒否されたとして救済を申し立てたという。保育園側から「ほかの保護者から原発に対する不安の声が出た場合、保育園として対応できない」というのが入園拒否理由である。また女性が避難先近くの公園で子を遊ばせていた際に、「子を公園で遊ばせるのを自粛してほしい」と要請されたという。結果、女性は山梨県外で生活している(詳細は、『山梨日日新聞』、小菅信子@nobuko_kosuge氏のツイートによる)。
  • 80万トンともいわれる廃棄ソーラーパネルの2040年問題 「有害物質によって土壌や地下水汚染が起きるのではないか?」についての懸念について、実際のところ、太陽光パネルのほとんどは中国製であるため、パネル性状の特定、必要な
  • 東電は叩かれてきた。昨年の福島第一原発事故以降、東電は「悪の権化」であるかのように叩かれてきた。旧来のメディアはもちろん、ネット上や地域地域の現場でも、叩かれてきた。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑