再生可能エネルギーの出力制御はなぜ必要か③
送電線を増強すれば再生可能エネルギーを拡大できるのか
「同時同量」という言葉は一般にも定着していると思うが、これはコンマ何秒から年単位までのあらゆる時間軸で発電量と需要を一致させねばなないことを表しており、それを実現するのに必要となるのが各種の調整力だ。
送電線の増強は、電源地域から需要地域へ電気を送る道を整備することであり、他の地域で調整力に余裕があれば、広域の運用により不足分をカバーする効果が期待できる。今春には、全国で唯一未実施だった東京電力エリアでも出力制御を行う見通しのことだが、それはこの送電容量に係る問題であると聞いている。
しかし、送電線の増強で調整力自体を増やせるわけではなく、今後全国的に再エネが余剰になる場面も多くなってくることから、送電線の増強だけで対応できるわけではない。送電線の増強は必要であるとしても、それだけで十分というわけではないのだ。
実際、最近行われた国の委員会でも、全国的な再エネ拡大の影響により地域間連系送電線増強の費用対効果の試算値が1を下回る恐れが出てきたことが報告されている。
このように送電線増強による効果に陰りが見えてきたことから、今度は需要面での対策に注目が集まってきており、今後デマンドレスポンス等の活用や新たな料金メニューの提供などが期待されている。
しかし、それらを普及させるには相応の費用と時間が必要であり、すぐに効果を期待するのは困難だ。今のところ、調整力の確保は主に電源側で対処すべき問題なのである。
揚水や蓄電池を活用すれば再生可能エネルギーを拡大できるのか
揚水や蓄電池は有効な調整力であるが、あらかじめ充電した量しか利用することができず、持続時間に制約があるなど火力機と比較して使い勝手に大きな差がある。
季節間の変動や、曇りで風が弱い日が続いたときなど、揚水・蓄電池だけでは対応しきれない。
また、最近ではこれらを「脱炭素化された調整力」と表現されているが、現状再エネが余剰となる時間帯はわずかであり、年間を通してみるとこれらの充電原資は主に火力発電が担っているため無条件で脱炭素電源と言えるわけではない。
将来的に蓄電池が大量に普及し、余剰再エネで十分な電力を充電できるようになれば、調整力としての火力など不要との意見もあるが、昼間しか発電せず、年間の利用率が17%程度の太陽光発電で必要な電力量を賄うためには、今の10倍程度の設備量が必要となる。
また、限られた時間帯で発生する大量の余剰電力を、夜間や曇り日の分も含めてせっせと充電しなければならず、貯め込む量に比例して蓄電池の設備量も莫大なものとなる。さらに、充電には少なからずロスを伴うことも考慮すると、すべての電力を蓄電池に貯めることには相当な無理がある。
さらに、もし再エネと蓄電池の組合せにより電力供給を賄おうとすれば、再エネ余剰が十二分にあることが前提となるが、再エネ、蓄電池ともに莫大な設備費がかかることに加え、再エネを増やそうとすると、先ず調整力が不足し、そのことが安定供給維持の障害となるというジレンマを抱えている。
送電線、揚水発電所、蓄電池、さらにはデマンドレスポンスについても、それぞれの特性を正しく理解し、使いどころをしっかり見極めることがなにより重要だ。
(次回につづく)
関連記事
-
24日、ロシアがついにウクライナに侵攻した。深刻化する欧州エネルギー危機が更に悪化することは確実であろう。とりわけ欧州経済の屋台骨であるドイツは極めて苦しい立場になると思われる。しかしドイツの苦境は自ら蒔いた種であるとも
-
米国における電力自由化の失敗例としては、電力危機を引き起こしたカリフォルニアの事例が有名である。他方、成功例としてテキサス州があげられることがある。
-
米軍のイラク爆撃で、中東情勢が不安定になってきた。ホルムズ海峡が封鎖されると原油供給の80%が止まるが、日本のエネルギー供給はいまだにほとんどの原発が動かない「片肺」状態で大丈夫なのだろうか。 エネルギーは「正義」の問題
-
GEPRを運営するアゴラ研究所は、エネルギーシンポジウムを11月26、27日の両日に渡って開催します。山積する課題を、第一線の専門家を集めて語り合います。詳細は以下の告知記事をご覧ください。ご視聴をよろしくお願いします。
-
日本原子力発電の敦賀発電所2号機の下の破砕帯をめぐる問題の混乱が続いている。原電の追加調査で、問題になった断層が、存在しないことが示された。
-
ロシアのウクライナ侵攻という暴挙の影響で、エネルギー危機が世界を覆っている。エネルギー自給率11%の我が国も、足元だけではなく、中・長期にわたる危機が従前にまして高まっている。 今回のウクライナ侵攻をどう見るか 今回のロ
-
政府エネルギー・環境会議から9月14日に発表された「革新的エネルギー・環境戦略」は2030年代に原子力発電ゼロを目指すものであるが、その中味は矛盾に満ちた、現実からかけ離れたものであり、国家のエネルギー計画と呼ぶには余りに未熟である。
-
はじめに トリチウム問題解決の鍵は風評被害対策である。問題になるのはトリチウムを放出する海で獲れる海産物の汚染である。地元が最も懸念しているのは8年半かけて復興しつつある漁業を風評被害で台無しにされることである。 その対
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間