志賀原発で一体なにが起き、なにが隠されているのか?
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大竹まことの注文
1月18日の文化放送「大竹まことのゴールデンタイム」で、能登半島地震で影響を受けた志賀原発について、いろいろとどうなっているのかよくわからないと不安をぶちまけ、内部をちゃんと映させよと注文をつけた。新聞やTV報道による情報を受けてのことだ。
例えば、ラジオ番組のなかで次のように投げかけている。
大竹まこと:ひとつ気になってるのはさ、今までテレビのニュースとかで、人から原発を映して一箇所にビニールシートが張られててっていうのは何回か見てるの。じゃあ内部はどうなってるんだと。あれ、内部映してるとこ見たことないぞ? なんでだろう、と。
大久保佳代子:ああ確かに、見たことないですね。
大竹:やっぱり志賀原発が「こういう風になってます」って発表するのを、みんなが信じる形になってるの?
砂山アナ:北陸電力が小出しにする情報で、数値が大きくなっていく……というのがあって、初めはそれに批判もありました。確かに新聞なんかでも文字は見ますけど、実際の内部の写真や映像は一緒にはなってないですよね。
大竹:メディアの人も、内部を映させてくれーとか(言わないのか)
ビニールシート張られていることに疑問を呈しているが、これは油漏れを起こした変圧器を養生しているのである。内部には破損した変圧器があるにすぎない。
外部電源は系統が確保されているし、非常用の電源もあるのでこの変圧器の損傷が今の所重大な事故を引き起こす可能性は極めて低い。つまり、炉心の事故やひいては放射性物質の環境放出を直接的に引き起こすことはない。
また今は内部の仔細な点検や、監督官庁である原子力規制庁への報告などの対応が忙しく、メディアの取材要請は後回しになっているのが実情である。規制対応が最優先なので、私たち専門家であってもよほどのことがない限り今のところ内部を視察する機会はない。
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志賀原子力発電所
原子力規制委員会HPより
誤解を誘発する日経新聞記事——地震の揺れの影響はどうだったのか?
私は下記の日経新聞の記事、
を読んで、おやおやっと思った。
とりわけ想定超えという見出しは福島第一原発のケースを想起させるので気にかかる。
この記事については、原子力に関心の高い市民から、規制における「基準地震動」の設定が甘すぎるのでないかという問いかけが私のところに届いた。
SNSなどでは、地震を専門とする大学教授や、〝大飯原発を止めた〟裁判官として英雄視され今や原発反対派から引っ張りだこの樋口英明さんらが『規制上の地震動の扱いは甘すぎる』『原発よりも一般住宅の耐震設計の方が厳しい』などという主張がまかり通りかけない事態だ。
このことに応えたいと思う。
【ポイント1】基準地震動
- まず今再稼働を目指して新しい規制基準のもとで審査が行われている原子力発電所は、志賀原子力発電所の2号機のみである。1号機は申請すらされていない(日本の原子力発電所 稼働状況一覧:電気事業連合会)。
- 新規制基準が適用される以前の基準地震動は、1、2号機ともに600ガルである。
- 2号機を対象とした、新規制基準の基準地震動は1000ガルに上方修整されている。
- しかし、1000ガルを想定した際の設備の揺れの評価などについては公表されているものがない。
さて、日経新聞の記事は次のように説いている。
原発には施設や設備ごとに考えられる最大の揺れがあり、構造物ごとに揺れの大きさを示す加速度(ガル)を想定する。1、2号機の原子炉建屋の基礎部分で揺れが想定を上回った。1号機では東西方向の0.47秒の周期で918ガルの想定に対し957ガルだった。規制庁は原子炉建屋などに異常はないと説明している。
この記事では2号機の揺れの具体値に触れていないが、846ガルの想定に対して871ガルであった(東西方向の周期0.47秒)。以下の図がそれを表したものである。
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図1 志賀原発2号機の地震における揺れ
出典:原子力規制庁(別紙2, P. 46)
図1の破線は旧基準地震動600ガルによる設計上の「揺れの推定値」、一方実線は観測記録から算出された搖れである。赤矢印で示した周期(0.47秒)においてのみ実測記録に基づいて算出された揺れの大きさ(871ガル)が600ガルの“旧”基準地震動に基づいて算出された値(846ガル)をわずかに上回っているとされた。
なによりも着目するべき重要な点は、この周波数域には安全上重要な機器がなにもないということである。
ところで、この加速度を表すガルという単位がわかりにくいといわれる。例えば自動車レースのF1でカーブではかなりの横G(ジー)がかかるなどといわれる。この横Gというのは横方向への揺れを表す加速度で、1Gは980ガルである。また980ガル(1G)は、私たちの日常で物を落とした時の加速度である。
なお、地震の揺れは水平2方向(南北方向、東西方向)と垂直方向で評価される。今回観測記録から算出された値が推定値を上回ったのは東西方向についてのみであり、南北方向と垂直方向には問題はなかった。
【ポイント2】“新”基準地震動は1000ガル
さて、今審査中の2号機の新基準地震動は、1000ガルに設定されている。基準地震動1000ガルを想定して審査が進行中なのである。
ポイントは、この1000ガルという新しい基準地震動のもとでの設備の揺れがどのような値になるのかである。
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図2 新基準地震動1000ガルでの設備の揺れのイメージ
図2には新しい基準地震動として1000ガルを設定した際に設備の揺れがどのようになるかそのイメージを赤線で書き込んで見た。これはあくまでイメージであって正確なものではないことを断っておく。繰り返すが、1000ガルでの設備機器の揺れのデータはまだ公表されていない。
地震の専門でない素人目には、基準地震動が600ガルから1000ガルに引き上げられれば、新しい「揺れの推定値」は今回の観測記録による算定値を余裕で上回りカバーされるのではないかと思う。
しかし、地震の専門家によれば、それはきちんとした評価をしない限り軽々な物言いはできないとのことである。
一般住宅の耐震は2000ガル以上!?
私がこれまで関わった公開討論の場で出会った地震が専門だと称する学者や、先の「止めた裁判官」の樋口さんなどがしばしば引き合いに出すのが、一般住宅は2000ガルの揺れにさえ耐える。それを考えれば、600ガルや1000ガルでは全く物足りない甘すぎる——すなわち原発は巨大地震で壊れる!という理屈である。
実際、例えば、セキスイハイムは2,112ガルの耐震試験に200回耐えたとされる。住友林業は3,406ガル、三井ホームに至ってはなんと5,115ガルに耐えたという実験結果があることになっている。
また、日本でこれまでに観測された最大地震動は4,022ガル(2008年6月、岩手・宮城内陸地震)である。
【ポイント3】基準地震動(基盤の揺れ)と住宅・設備の揺れ
原子力発電所は強固な岩盤に直付けされて設置されている。一方、一般の住宅は岩盤に直付けされてはおらず、住宅とその地下深くにある岩盤との間には表層地盤がある。表層地盤は地層面近くに堆積した地層(土、砂利、石など)であり岩盤に比べて柔らかい。地震の波は固い岩盤から柔らかい表層地盤に伝わった時に増幅され地震動が大きくなる(図3)。
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図3 一般の建物と原子力発電所の地震の揺れの構造的違い
出典:電気事業連合会
つまり、震源が同じであっても原発と一般の建物では実際の揺れの強さ、つまりガル数が大きく異なることがあるのである。
例えば、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では、宮城県築館町で2,933ガルが観測された。対して、女川原子力発電所では1号機の原子炉建屋地下2階(図3のBの岩盤にくっ付いている箇所)で観測された地震動、つまり基盤の揺れは567ガルであった。
【間違えてはいけない2つのポイント】
以上で見てきたことから、「地震によって原発は壊れる」だろう!と声高に主張する方達の盲点は、二つあるといえる。
- 一般の建物の耐震強度と原発の耐震強度(基準地震動)は直接比較できない
- 原発の基準地震動と原発の機器や設備の揺れは別物である
志賀原発——なにが隠されているのか
日本各地で地震が頻発している。日本は地震活動期に入ったとも言われる。大きな地震が起こるたびに原発の安全性が問われる。原子力規制当局そして事業者はその都度所掌範囲内での説明責任を果たそうとしている。今やなにも隠されていないし、隠す必要もない。
しかし、いかんせん情報発信をしていても、なかなかそれは善意ある人々に届いていないケースが多い。それは冒頭で触れた大竹まこと氏のラジオ番組でも明らかだ。原子力規制庁の発表したデータや電気事業連合会が今回開設した特設サイトまではなかなか目が届かないのである。
なかでもここで触れたような地震の問題は、真っ当な解釈をするにはなかなか手強いところがある。その結果生半可な解釈や、場合によっては意図的な都合の良い解釈が流布しまかり通るケースがある。
関係者は「丁寧」で粘り強い説明を続けて行くことが求められている。その意味では、ことさら地震の専門家、原子力の専門家の責任は重大である。専門家がだんまりを決め込んでいると〝何か隠しているのでは?〟と憶測を呼ぶ。
能登半島地震を契機に、メディアでは慎重派の学者や専門家が次から次へと〝原発は危険だ〟との発信を重ねているのであるから。
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