日本における核燃料再処理の終わり--日本の使用済み核燃料の管理とプルトニウムの分離に対しての代替案(要約)
2013年11月
【ノート・GEPR編集部】
2006年に発足したIPFM(International Panel on Fissile Materials:核物質をめぐる国際パネル)の提言の一部として、日本の使用済み核燃料の再処理政策について提言した論文の要約を紹介する。同パネルは18カ国29人の専門家が集い、核物質管理の適切な手法を検討している。フォン・ヒッペル氏は外交、安全保障の研究者でこの議長をしている。
同提言集は「徹底検証・使用済み核燃料 再処理か乾式貯蔵か–最終処分への道を世界の経験から探る」(合同出版)にまとめられている。
使用済み核燃料については、核燃料サイクルを行ってプルトニウムを取り出し、それを原料にして動かす高速炉を実用化しようという国がある。日本に加え、仏、中国などがその政策を採用している。現在はロシアが高速炉の商業運転を開始した。英国は高速炉の開発を断念し、再処理だけを行っている。そして韓国も政策の開始を検討している。発電に使うことでプルトニウムを減らして、核兵器や放射性物質の拡散による軍事利用(ダーティーボムと呼ばれる)のリスクを減らそうというものだ。
一方で、米国はカーター政権の時に、核燃料サイクル、高速炉、高速増殖炉の研究を中止した。そして使用済み核燃料は、そのまま地層処分する直接処分方式を採用している。米民主党の政治家に直接処分を支持する人は多い。米国はテロや第3国への核物質、プルトニウムの拡散を警戒している。核燃料サイクルは、プルトニウムを減らせる一方で、その過程でそれの盗難、拡散のリスクがある。また途上国が原子力発電を行う場合に、直接処分を米国は推奨している。
また各国の物理学者の間では、反核・平和運動に熱心な人たちが、プルトニウムの利用に反対し、直接処分を求めた。感情的な傾向のある日本の反原発運動で、珍しく理性的な活動をした故・高木仁三郞氏も、プルトニウムの利用を否定した。
しかし、直接処分するにしても、再処理するにしても、フィンランド以外では先進国で最終処分地は決まっていない。
以下の論文は、費用と危険性、また容易さの点から、再処理を断念して原発内の保管と直接処分を訴える。
しかし反論できる点も多い。日本では青森県むつ市に中間貯蔵施設が完成した。ここは核燃料サイクルを想定した施設だが、直接処分のための暫定保管にも使える。また再処理は使用済み核燃料の容積が5分の1以下になり、保管のスペースが減る。また仮に高速増殖炉が実用化できれば、再処理によって原料の供給ができる。
さらに日本は、プルトニウムを発電に使って減らすことを国際公約にしている。そして44トンのプルトニウムを持つ。再処理を断念すれば、国際的な波紋を広げるかもしれない。
再処理を停止して直接処分を目指すにしても、再処理を断行するにしても、日本には厳しい道が待っている。
【以下要約本文】
使用済み燃料の再処理政策は、あまり重要ではない資源の保全を行い、放射性廃棄物の管理によってもそれほど利益を得られない。時間を経るごとに効率的ではなく、危険で、費用のかかるものとなっている。日本はそれが政治的に罠に陥ったものになったということを、理解している。この論文はこの再処理政策の泥沼から抜け出し、日本の保有しているプルトニウムの処理について、代わりの方法を提案するものだ。(原論文注・原発を放棄するかどうかの問題は、この論文の考察する範囲を超えている。)
再処理政策は、不必要であり、原子力発電のためにも有害である。六カ所再処理工場を操業させると、工場の設計寿命に当たる40年間に渡って、それを動かさず単に貯蔵するときよりも、日本国民は8兆円以上の追加負担をすることになると見込まれる。
フル稼働時に六ケ所再処理工場は年間でプルトニウムの約8トンを使用済み核燃料から分離するように設計されている。現在の計画では、原子力規制委員会(NRA)が許可を与えると、すぐに稼働を開始することになっている。しかし、日本はすでに保有している44トンのプルトニウムを廃棄するための、明確な道筋を持っていない。この量は5000発以上の長崎に投下されたプルトニウムを原料とする原子爆弾をつくるのに十分な量だ。
核燃料を再処理する国の中で唯一の核兵器を保有しない国となっている日本は、核不拡散体制を脅かしかけない国となっている。日本は特例の地位を占めており、核兵器保有の選択肢を獲得しようと関心を持つ国が、正当な国際的に認められた再処理の実施国として日本の存在を示すことができるためだ。分離されたプルトニウムは、核兵器、核物質によるテロを引き起こそうとする者たちが獲得しようとするものだ。
他の工業化された先進国と同様に、日本は軽水炉で使われた使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、ウランを効率的に使って冷却剤にナトリウムを用いてプルトニウムを増やす高速増殖炉の燃料にしようとしていた。国際的な原子力コミュニティは、世界的に高速増殖炉が広がると予想し、この種類の原子炉が1980年代までに何千も各国に置かれると見込んでいた。
しかしナトリウム冷却炉は、水冷式の原子炉より、はるかにコストがかかり、信頼性が欠ける。日本は、原型炉である高速増殖炉「もんじゅ」の失敗から学んだ。インドとロシアは研究を試みているが、どの国もまだ、増殖炉の実用化に成功していない。(訳注・高速炉はロシアが商業運転を15年中に開始の予定。)
高速増殖炉の商業化計画の失敗で、日本はフランスの先例に従って、軽水炉用のウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料に、保管されている分離されたプルトニウムを再利用することを決めた。この計画はMOX燃料が、使われる原子炉の安全性に与える影響について懸念が生じ、実施される原子炉のある自治体での反対運動が高まったために、これまで失敗している。(訳注・これは事実と違って、2010年までに日本ではMOX燃料を使った発電が4原発で行われている。また現在建設中の電源開発大間原発では、MOX燃料の使用が最初から想定されている。)
それにもかかわらず今日において六ケ所再処理工場を運営する計画が継続されている。日本では今、原発が原子力規制委委員会の稼働許可を待っている。政府には稼働後に使用済燃料のための原発内に保管される以外の処理先を持っていたいという願望がある。
原子力発電所を運営する米国と他の国の大半は、原発内の使用済燃料プールが満杯の際には、原発内での空冷式の乾式貯蔵容器(ドライキャスク)に古い使用済み燃料を移し、再処理のコストとリスクを避けようとしている。しかし日本では、中央政府と原子力の事業会社が同時にいくつもの困難な決定をしなければならないので、その再処理政策を変更することはできない。(訳注・試行的にいくつかの原発で、使用済み核燃料の乾式貯蔵は行われている。福島第一原発でも、行われていたが津波でも被害は受けなかった。)
日本は次の政策を採用するべきである。
1・日本の原子力発電の事業者は、立地する各県、そして地域自治体と、原発構内において、乾式貯蔵の交渉を真剣に始めるべきだ。原発内の使用済み核燃料の冷却プールで保管した後に、再処理のために原発の外に運び出されるとして、原発構内に使用済み核燃料が蓄積することは「ない」と、中央政府と事業者が何十年にもわたって行ってきた保証の恥ずかしい転換が、このことによって必要になるであろう。
実際には、使用済み核燃料の搬出は、大幅に遅れている。六ケ所再処理工場は、本来は1997年に稼働を始める予定だった。しかし完成が遅れて、その延期を繰り返している。したがって、原子力の事業者は原子力発電所の構内のプールに、設計段階で想定した以上の使用済み核燃料を保管してきた。これこそ発電所の構内で、乾式貯蔵容器による安全で緊急の保存が必要な理由となる。
2・政府は青森県と六ケ所村と協議を行うべきである。これらの地域は、六ケ所再処理工場で使用済み核燃料を受け入れる代わりに、その代償としての補助金、工場の建設とMOX燃料の製造にかかわる仕事を得てきた。そして再処理とプロトニウムの再使用は必要であって、可能であると、認識してきた。
交渉の取り組みは難しいものになるだろうが、日本の原子力産業と青森県の間の依存状態を、成熟したものに変えるだろう。そして日本の原子力発電所を立地する自治体が、発電所構内に再処理の代替策として使用済み核燃料を保存するようになれば、青森県はそれによる利益を維持するべきか、再交渉をうながされることになるだろう。これまで同県は、再処理の結果生まれる放射性廃棄物と六ケ所村の保管所にある使用済み核燃料の暫定的な貯蔵を受け入れてきた。
3・政府は、再処理をめぐる基金についての関連法規を見直すべきだ。この制度によって、商業運転が開始されていないにもかかわらず六ケ所再処理施設の金融支援が続いてしまった。最新の法規では、この基金が六ケ所工場を運営する日本原燃がこの工場を建設して操業をできるようになるまで、銀行への返済と低利貸付ができるようになってしまった。
4・経済産業省のこれまでの主張とはまったく違うが、軽水炉燃料について、分離され、再処理されたプルトニウムを作らない政策を採用するべきである。直接処分の方が、より危険性が少なく、容易である。
5・中央政府は、原子力事業者と日本原燃の代わりに、使用済み核燃料の最終処分の責任を持つべきである。使用済み核燃料の処分の責任をめぐる米英両政府の決定では、原子力事業者が、再処理を断念することによって可能になった。アレクサンダー大王が「ゴルディアスの結び目」を切断したように(訳注・こじれた問題を単純な方法で解決する欧米の逸話)、日本の再処理政策はあまりにも複雑すぎて、ますます制御できない状況になってしまうだろう。
6・分離されたプルトニウム44トンは直接処分をするべきである。MOX燃料の使用を社会的に受け入れさせようとするべきではない。
(翻訳・構成 石井孝明 アゴラ研究所フェロー、ジャーナリスト)
(2015年2月23日掲載)
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