トヨタの豊田章男会長が「人々はEVの現実に目覚めた」と語る
10月26日(木)から11月5日(日)まで、東京ビッグサイトにて、「ジャパンモビリティショー2023」が開催されている。
1. ジャパンモビリティショーでのEV発言
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トヨタ自動車・佐藤浩二社長(左)と豊田章男会長(右)
トヨタイズムより
日本のメディアでは報じられていないが、海外のニュースメディアでは、トヨタ自動車の豊田章男会長兼前CEOが記者団に対して、「EVの需要が減少しているのは、EVがよく言われるようなCO2排出の悪弊に対する特効薬ではなく、誇大宣伝され欠点があるという現実に、人々が目覚めていることの表れだ」と語ったと報じられていた。
また、「気候変動憂慮論者がEVを台座に乗せ、その欠点を軽視して利点を誇張しながら推進している夢物語から、消費者がようやく目覚めたのだ」と触れながら、「カーボンニュートラルの山を攻略する方法は色々ある」と語ったということである。
豊田氏の発言は、世界市場においてEV需要の伸びが鈍化し、一部の企業が電動化計画を縮小する事態を見つめてのことだろう。
仮に、CO2が悪者だという想念の下に、EVをLCA的に見れば、製造段階までで大量のCO2が発生するため、10万キロ以上走らなければ、そのCO2は相殺されない。不幸にもバッテリーが不調で新しいものと交換しなければならない場合は、新たなバッテリーを製造する過程で発生したCO2がさらに上乗せされる。さらに中国で野ざらし(EVの墓場)になっている廃棄EVのことを考えると、「EVが環境にやさしい」というのは、大いなる幻想である。
中国に“電気自動車の墓場” 空き地に大量の車両を放置 急速な普及も…競争激化で“廃業”相次ぐ
遡って2020年10月26日、菅首相は、「2050年迄にはネットゼロ、カーボンニュートラル」を発表した。それに対して豊田氏は、同年12月、急激な電動化に反対する旨の記者会見を行い、「電動化の問題点は、車だけ議論していても始まらないのであり、我が国のエネルギーの在り方、電源構成、グリッド、社会インフラなどを総合的に議論、対策に取り組んでいかなければならない」と語った。
EUのEV化戦略:炭素と水素から成る合成燃料(e-fuel)を容認
しかし、豊田氏は、トヨタがバッテリー駆動車の早期導入に本腰を入れていないとの批判もあってか、2023年4月1日、社長職を佐藤恒治氏に譲り、自らは代表取締役会長に退いた。
トヨタの社長に就任した佐藤浩二氏は10月25日、ジャパンモビリティショーのプレスブリーフィングで講演し、EVを宣伝するプレゼンテーションを行った。
佐藤氏は、「EVによる将来の生活は環境にやさしいだけではなく、スパイスの利いた運転の楽しさを味合わせてくれるものだ。そのビジョンを実行するためには、航続距離の制限といったEVの欠点を克服しなければならない。そのために、トヨタは、クルマづくりの基本原理を再検討する」と述べている。
また、EVのメリットとして、低重心化と室内の広さを挙げたが、低重心でより広々としたインテリアは一部のドライバーに歓迎されても、航続距離に不安が存続するようでは消費者に歓迎されない。航続距離の不安を克服する方法を見つけない限り、EVの採用はさらに衰退する可能性がある。
JAPAN MOBILITY SHOW 2023 Toyota Press Briefing
両氏の発言は対照的な感じもするが、我が国のメディアが主張や宣伝するほど、EVは普及していないという点で一致している。
2. 米国におけるEV需要の衰退
米国の市場調査によれば、今年上半期におけるEVの世界販売台数は49%増加したが、昨年の63%の成長ペースから低下したという。
たとえば、ホンダとGMは、EVを共同開発する50億ドルの計画を破棄すると発表し、GMは火曜日に電動化戦略を遅らせると発表した。GMは「価格を守り、需要の短期的な伸びの鈍化を調整し、利益を強化するエンジニアリングの変更を実施するため、EVの生産を抑制的にしている」と述べ、数週間に及ぶ自動車労組のストライキにより、すでに8億ドル以上のコストがかかってしまったことを明らかにしている。
フォードは、7月にEVの立ち上げを遅らせた後、先月には、EVピックアップトラック、F-150ライトニングを製造する工場の3シフトのうち1シフトを一時的に削減すると発表した。韓国バッテリーメーカーのLGは、「来年のEV需要は予想より低くなる可能性がある」と述べている。
More alarm bells sound on slowing demand for electric vehicles
3. 航続距離の不安
EVへの乗り換えを検討しているアメリカ人の間で大きな懸念となっているのが、航続距離の不安である。これは、EVを運転していて充電ポートが見つからずに電力が不足し、道端で立ち往生することになるのではないかという不安である。
アメリカ自動車協会(AAA)による最近の調査によると、重い荷物を運ぶ車両の場合、EVの航続距離は最大4分の1に低下する可能性があるという。航続距離の不安は、消費者がガソリン車からEVへの切り替えを躊躇する最大の理由である。
また、Ernst & Youngらの調査によれば、公共充電ステーションの問題はEVへの切り替えを遅らせている最大の理由であり、航続距離が2番目だという。EV化を加速するためには、2035年までに米国とカナダ全体で6890万台の充電器が必要だとも発表されている。
4. 最後に
こうした海外のニュースをみると、我が国のメディアが主張・宣伝するような、「海外ではEVの普及が進んでいる。我が国ではトヨタをはじめとして劣後している」という状態にないことがわかる。
トヨタは、「2050年までにカーボンニュートラルを目指す」ことを強調しながら、技術とインフラが未成熟なEVに一辺倒になるのではなく、市場や現場の声を聞き、各種技術の特徴を活かして、水素車、ハイブリッド車などのエネルギーオプション車の開発と実現に取り組んでいくことを発表している。
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