米メディアから見る、都市温暖化バイアスとTSIデータがもたらす気候危機

2023年10月25日 06:50
アバター画像
技術士事務所代表

Tero Vesalainen/iStock

日米のニュースメディアが報じる気候変動関連の記事に、基本的な差異があるようなので簡単に触れてみたい。日本のメディアの詳細は割愛し、米国の記事に焦点を当ててみる。

1. 脱炭素技術の利用面について

まず、日米ともに、再生可能エネルギーやEV、カーボンリサイクル、水素などの利用面の記事が多いのは共通している。日本は「明」を報じることが多いが、米国は、少し先行していることもあり、警鐘を鳴らす意味があるのか、比較的「暗」の部分を報じている。

たとえば、風力発電については、

米国で建設中の洋上風力発電所の半数近くを手がけるデンマークのエネルギー企業オーステッド社は、物議を醸しているニュージャージー州沖のプロジェクトを2026年まで延期した。同社は、サプライチェーンの問題、インフレ、金利の上昇などをその理由として挙げた。この発表は再エネ部門に波紋を広げ、このような大規模プロジェクトの実現可能性に対して懸念を抱かせた。また、洋上風力発電に反対する人々にも活力を与えている。

また、EVについては、

2023 Cox Automotive Mid-year Review資料によると、2023年第2四半期に、ディーラーの敷地にある電気自動車の平均在庫は 92,000台を超えた。これは、2022年の第2四半期と比較して342% も増加している

などが報じられている。

トヨタに見るEV化の問題点と米国市場の現状

2. 政治家の発言から

トランプ前大統領が脱炭素運動に反対を表明し、パリ協定から離脱したことはよく知られている。最近、2024年の大統領選に出馬を表明したRFK Jr.も、

COVIDが悪用されたのと同じく、気候変動は、全体主義によって社会を支配しようとする超富裕層によって、社会を締め付ける口実として利用されている。世界経済フォーラムも全体主義社会を生み出すために気候政策を利用している。

などと発言したという記事が掲載されていた。

RFK Jr.の2024年大統領選出馬表明と気候変動発言

3. 気候科学からみたUNIPCCに対する疑念について

これに関する報道については日米で著しい違いがある。

日本では、利用面についての記事は多くみられるが、その根拠となる気候変動の定義、真偽、問題点などはほとんど報じられない。メディアだけをみていると、政治家を筆頭に官僚、財界、学界までが基礎を蔑ろにして、利用面だけを取り組んでいるような感じを受ける。

米国では、この基本となる部分について、気候科学者をはじめとする専門家とUNIPCCとの間で激しいバトルが繰り広げられている。

気候科学者の動向については、

米国プリンストン大学のハッパー博士とMITのリンゼン博士が、広範なデータを引用しながら、大気中のCO2は ”heavily saturated”だとして、米国EPAの気候政策を批判、地球は気候危機にないとの書簡を送った。

などと投稿した。

米国著名2教授「大気はCO2飽和状態にあり気候危機にない」と主張

さらに最近になって、「IPCCがリリースする報告書には、2つの欠陥がある」などという記事を見かける。

The Detection and Attribution of Northern Hemisphere Land Surface Warming (1850–2018) in Terms of Human and Natural Factors: Challenges of Inadequate Data

一つ目の欠陥は、IPCCの報告書では、分析に際して、「都市温暖化バイアスによって汚染された」世界の地表気温データを使用していることである。

都市部は人間の活動やさまざまな構造物の影響を受けて、田舎よりも気温が高い傾向にある。都市部は国土のわずかな割合を占めるに過ぎない(地球陸地表面のわずか4%)が、世界の気温の推定に使われる温度計の記録の大部分は、このような場所で占められている。

次に、IPCCの報告書が、膨大な全太陽放射照度(TSI)データの中の一部しか使用していないため、過去数世紀にわたってTSIにほとんど変化がなかったか、1950年代以降のTSIはわずかに減少しているという2つの間違った結論を導き出した。

つまり、IPCCの報告書は、都市部の気温が上昇し、全太陽放射照度にほとんど変化がないことを示すデータを分析することにより、地球温暖化の原因を人間の活動に求め、その過程における自然要因、特に太陽の役割を過小評価、あるいは否定しているというのだ。

従って、環境研究地球科学センター(CERES)などは、

1850年以降の地球温暖化の原因に関するIPCCの声明は科学的に時期尚早であり、見直す必要がある。さらに、IPCCは、時期尚早の科学的コンセンサスを強制すべきではないのであり、IPCCが、オープンな気持ちで科学的調査により多くの注意を払っていれば、気候変動の原因究明により近づいていただろう。

とも述べている。

また、多くの専門家が、気候アジェンダを推進するために使用されている気候モデルには欠陥があると警告している。

気候モデルには多くの欠点があり、政策ツールとしては、妥当なものではない。これらのモデルは、温室効果ガスの影響を誇張している。CO2濃度が高くなれば、大気は豊かになり有益であるという事実を無視している。

地球物理学者のラズロ・ザルカ氏によれば、気候変動の定義は1992年に科学と両立しない方法で歪められ、過去30年間、国連気候変動枠組条約の定義では、自然の原因が除外されている。「気候変動の古典的な定義が曖昧になったことで、気候のあらゆる変化の原因を人為的な排出だと説明する道が開かれた」とザルカ氏は述べている。

4. さて日本は?

こうした米国での戦いが繰り返されている中で、日本は、CO2が元凶であるという与えられたシナリオ」の儘に、脱炭素社会の実現に一丸となって邁進していくのだろうか?

This page as PDF

関連記事

  • エネルギー政策をどのようにするのか、政府機関から政策提言が行われています。私たちが問題を適切に考えるために、必要な情報をGEPRは提供します。
  • オーストラリアは、1998年に公営の電気事業を発電・送電・小売に分割民営化し、電力市場を導入した。ここで言う電力市場は、全ての発電・小売会社が参加を強制される、強制プールモデルと言われるものである。電気を売りたい発電事業者は、前日の12時30分までに卸電力市場に入札することが求められ、翌日の想定需要に応じて、入札価格の安い順に落札電源が決定する。このとき、最後に落札した電源の入札価格が卸電力市場価格(電力プール価格)となる。(正確に言うと、需給直前まで一旦入札した内容を変更することもできるが、その際は変更理由も付すことが求められ、公正取引委員会が事後検証を行う。)
  • 表面的に沈静化に向かいつつある放射能パニック問題。しかし、がれき受け入れ拒否の理由になるなど、今でも社会に悪影響を与えています。この考えはなぜ生まれるのか。社会学者の加藤晃生氏から「なぜ科学は放射能パニックを説得できないのか — 被害者・加害者になった同胞を救うために社会学的調査が必要」を寄稿いただきました。
  • スマートジャパン
    2017年3月23日記事。先進国29カ国が加盟するOECD/IEA(経済協力開発機構/国際エネルギー機関)と170カ国以上が加盟するIRENA(国際再生可能エネルギー機関)が共同でCO2(二酸化炭素)の長期削減シナリオを策定した。
  • 6月8-9日のG7シャルルボワサミット(カナダ)では米国の保護主義をめぐって米国とそれ以外のG7諸国との見解が大きく対立した。安倍総理の仲介もありようやく首脳声明をまとめたものの、記者会見において米国の保護貿易措置に対す
  • ウォール・ストリート・ジャーナルやフォーブズなど、米国保守系のメディアで、バイデンの脱炭素政策への批判が噴出している。 脱炭素を理由に国内の石油・ガス・石炭産業を痛めつけ、国際的なエネルギー価格を高騰させたことで、エネル
  • 地球が温暖化しているといっても、ごく僅かにすぎない。気温の自然変動は大きい。 以下、MITの気候学の第一人者リチャード・リンゼンと元NASAで気温計測の嚆矢であるアラバマ大学ジョン・クリスティによる解説を紹介する。 我々
  • 前回に続いて、環境影響(impact)を取り扱っている第2部会報告を読む。 ■ 今回は2章「陸域・水域の生態系」。 要約と同様、ナマの観測の統計がとにかく示されていない。 川や湖の水温が上がった、といった図2.2はある(

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑