デマ拡散者は何をしたか-福島への呪いを解く

2015年03月09日 15:00
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経済ジャーナリスト

(写真)事故直後に避難所になった、郡山市の「ふくしまビッグパレット」。混乱状況において、おかしな情報を流したデマ拡散者は日本を破壊する意図があったとしか思えない。

混乱を楽しむ異常な人々

東日本大震災と福島原発事故から4年が経過した。その対応では日本社会の強み、素晴らしさを示す一方で、社会に内在する問題も明らかにした。一つはデマ、流言飛語による社会混乱だ。

「福島の原発事故で出た放射性物質による健康被害の可能性は極小であり、日本でこれを理由にがんなどの病気が増える可能性はほぼない」。直後から日本政府と内外の有識者は、一致してこの趣旨の認識を示した。

ところが特に原発事故と健康の関係で、デマ情報が拡散した。放射能という見えない脅威がやってきて、しかも私たちの大半には知識がなかった。当初の動揺は当然だっただろう。しかし、それが続いてしまった。

拡散した人は、社会を混乱させようと悪意を持たずに行った人もいただろう。しかし観察すると、常識外の発言を繰り返すおかしな人、社会混乱を楽しんでいる人、売名行為をする人もいた。4年の時間があれば事実認識の誤りは普通の知性があれば修正できる。それなのに、デマを拡散した大半の人は誤りを修正していない。

彼らは一体何をしたのか。再確認したい。(敬称略)

【参考として、以下のデマをめぐる小論を書いた。
「メディアが醸成する放射能ストレス」
特集「プロメテウスの罠」を批判した「朝日新聞は原発事故報道の誤りを認めよ」
上杉隆のデマで踊り、訴訟騒ぎになった群馬県吉岡中学校教諭の話「「放射能測定、この人は嘘つきだ」–郡山市民に訴えられた中学校教師」

上杉、武田、広瀬、岩上の「四天王」の行動

以下の4人はデマ番付の「横綱クラス」だろう。

ジャーナリスト、上杉隆、岩上安身は11年ごろメディア批判を繰り返していた。事故が起こると、その延長で彼らは福島原発問題のすべてを、「メディア・東電・政府は誤った情報を流している」という趣旨で語った。情報を信用しなくなった一部の人が踊ってしまった。彼らは自分たちの作った、「自由報道協会」、「IWJ」というメディアで、間違いを拡散し続けた。

上杉隆は原発事故、放射能問題、エネルギー政策の発言で、膨大な間違いを指摘されている。(Wiki)多すぎる凄まじいデマの中の一つは「ニューヨーク・タイムズ記者が「福島・郡山に人は住めない。人が生活できる数値ではない」と言ったと言及したというのに、そんな事実はないと謝罪を出し、後から原稿を全面削除した。(ツイッター記録)

岩上安身は11年12月に次の暴言を吐いた(現在削除)。「お待たせしました。福島の新生児の中から先天的な異常を抱えて生まれてきたケースについてスペシャルリポート&インタビューします。スクープです!!(ツイッター記録)一定数で「障がい」は発生する。何を楽しそうに語っているのか、人権侵害もはなはだしい。筆者は、これを見てもし妊娠中絶が日本に広がったら、世間の耳目を集めるために彼らに訴訟を起こしておかしさを認めさせようとさえ思った。

反原発運動で知られる広瀬隆「原発事故の拡大はもう止められない。このままでは大量死が出るが、うちの娘のサプリでなおる」(記録)という発言はひどい。福島事故で、金儲けをしようとしているのか。そして11年7月に、科学的に正しいことを言った学者を、東京地検に刑事告発した。(記録)この行為によって、専門家は当時、本当に萎縮した。言論の自由、科学への冒涜であり、「魔女狩り」行為である。

中部大学教授の武田邦彦は、タレントとして知られる。この人はテレビ出演で「危険だ」と繰り返した。そして自分のブログに12年4月、放射能汚染によって「あと3年、2015年3月31日、日本に住めなくなる」と書いた。(ブログ)この妄想はいうまでもなく大外れだ。

見栄えする肩書きにいたデマ拡散者たち

その他、政治家から有識者まで、今読み返すと、滑稽であるものの、その人の知的水準を疑う発言がたくさんあった。どの国でも、肩書きのある人は人を騙しやすい。それゆえに、この人らの妄言は罪深い。

群馬大学教育教授の早川由紀夫。11年当時は福島の田植えに「殺意があったと解する」「貧乏人は福島の米を食って死ね」と妄言を繰り返した。(ツイッター記録)彼は別に放射線の専門家ではなく、火山学の研究者にすぎない。間違いだらけの汚染拡大マップを自作しただけだ。

東京大学東洋文化研究所教授の安富歩は「2.68人Svで一人死ぬ」という意味不明の発言で、福島の死亡が増えると繰り返した。「集団線量」という50年前の放射線防護の考えを間違って使っている。(解説記事)

新潟県の泉田裕彦知事。放射性物質の管理基準の抑制による瓦礫処理について13年2月、「亡くなる方が出れば傷害致死と言いたいところですが、わかっていてやったら殺人に近い」(新潟県記録)と述べた。当然、何も起こっていない。彼は東京電力に感情的な批判を続けるが、その認識はこうした奇妙な恐怖感から出ているのかもしれない。権力者が非科学知識に振り回されるのは恐ろしいことだ。

許されないメディアの暴走

狂気の拡散にメディアが加担したのも、福島デマ問題の深刻な点だ。健全な民主主義は健全な報道が前提になる。メディアが冷静な報道を流さないということだ。

朝日新聞特集「プロメテウスの罠」は12年ごろまで連日、週刊誌見出しのようなおどろおどろしい見出しと内容の記事を書き続けた。「放射能を体から抜く」という危ない民間療法を紹介。「福島原発の影響で子供に鼻血」という、「美味しんぼ」騒動で批判されたデマも、11年12月に掲載している。(記事) プロメテウスの罠は12年の新聞協会賞を受賞した。新聞業界が「私たちはおかしい」と歴史に向かって宣言したと言える。

トンデモ情報を拡散し続けるので有名になった東京新聞特報部「鼻血」を11年8月に大きく取り上げた。美味しんぼに行われたような社会的批判が両社に加えられないのはおかしい。テレビ報道はひどいものが多い。テレビ朝日報道ステーションは「甲状腺がんが増えている」というトンデモ報道を、13年3月にしている。(記事)

メディアが正確な情報を流さず、社会混乱と人権侵害の源泉になっている。そしてそれは現在も続いている。

社会の規範を壊した嘘情報

デマの拡散によって、何が起こったか。一番の問題は、社会の「判断の物差し」が壊れてしまったことにあると思う。科学の物差しが社会に適用されず、人々が拠り所とする基準があいまいになった。その結果、人々の行動が、合理性に基づかず、政策がゆがみ、社会が混乱した。

現状は過剰ともいえる放射線防護対策が、福島の除染で、また原発事故現場で行われている。除染をしなくても、また現状程度の微量の汚染水の漏えいでも、健康被害の発生の可能性は日本にない。しかし東電・政府の支払った事故対策コストは11兆円。一連の対策を「健康被害を起こさないようにする」という合理的な目的に限定すれば、もっと減額できたはずだ。

さらに金銭には置き換えられない社会関係にも悪影響を与えた。福島では「遺伝への悪影響」を懸念する声が広がるなど、社会不安が根強く残る。地域の復興も遅れ、悪しきイメージが拡散した。

デマは住民の健康にも悪影響を与えている。福島原発事故で、放射能で死者は出ていない。しかしストレス、避難の長期化で災害関連死として昨年3月時点で福島県で1691人が亡くなった。デマ拡散者は、この死に、責任の一端がある。

この混乱で第一義的に批判されるべきは事故を起こした政府・東電である。しかし不必要な二次災害と言える混乱を引き起こした責任の一部は、デマ情報の拡散者が負うべきだ。上記の著名人たちは、自分たちの行動の責任を取ることなく、福島やエネルギーに関する発言を続けている。これは不正義である。

国家危機である東日本大震災、そして福島第一原発事故の際に、誤った情報を流した人は、反省をしなければならない。そしてそれを行わない限り、福島復興、放射性物質の安全管理、エネルギー政策などの諸問題に、口を出す資格はない。特に著名人の責任は重い。訂正、謝罪、本なら絶版などがない限り発言を許すべきではない。

もちろん福島事故で広がった恐怖はデマだけによるものではない。人間の心理的バイアスなど複雑な理由によっても成長し、社会現象と結びついて、なかなか是正できない状況になっている。また筆者は、法に基づかない私闘、私的制裁は好ましいことと思わない。社会の混乱を生むからだ。

しかし、今回に限っては、デマ拡散者の責任を合法的に追及し続けるべきであると思う。「呪い」をかけた人が自らの誤りを認める、もしくは社会的な制裁を受ければ、それに反応した多くの人が目を覚ますきっかけになるはずだ。デマを流した人に過去の発言を突きつけ、「なぜしたのか」と、責任を問うべきだ。

(2015年3月9日掲載)

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