EVには莫大な鉱物資源が必要になる
前回に続いてルパート・ダーウオールらによる国際エネルギー機関(IEA)の脱炭素シナリオ(Net Zero Scenario, NZE)批判の論文からの紹介。
脱炭素のためとしてEVを大量導入するにはバッテリー製造のための金属原料が大量に必要になる。下図は2020年から2040年までの20年間でどれだけ供給量が増えなければならないかを示したもの。バッテリー材料であるリチウムは4089%の伸び、つまり40倍増となっている。他にも、グラファイト、コバルト、ニッケルは軒並み20倍増程度となっている。
現在のEV用のバッテリーは金属資源の塊である。下図は、バッテリーのタイプごとに、それぞれの金属が何キログラム必要か、60kWhのリチウムイオン電池について示したもの。これだけで150ないし200キログラムに達することが分かる。
ここ1年、EVが欧州や中国などで導入されるようになった結果、原料とくにリチウムの価格が高騰した。この結果、テスラのバッテリーのコストは1台あたり7000ドル近くに達した。日本円でいえば100万円以上である。今後、ますますEVが大量導入されるとなると、このコストはどこまで高くなるのだろうか。
EVのバッテリーが大きくて重いのは、性能が低いためだ。下図は、化石燃料とリチウムイオン電池のエネルギー密度(リットル当たりメガジュール、縦軸)と重量あたりエネルギー(キログラムあたりメガジュール)を示したもの。ガソリンはリチウムイオン電池よりも100倍もエネルギー密度が高い。
以上、バッテリーの現在の実力はこの程度だ。
先日、トヨタが革命的な全個体電池自動車を2027年に市場に投入するというアナウンスがあった。急速充電で10分以下(充電率:10%→80%)、航続距離1200km超を目指して2027~2028年の実用化を目指すという。まだバッテリーにはさまざまな技術的可能性がある。
政府は、今ある電気自動車(往々にして中国製、とくにバッテリーやその材料は)を補助金漬けで性急に大量に導入するよりも、基礎的な研究開発を支援したほうがよいのではないか。
■
関連記事
-
GEPRフェロー 諸葛宗男 はじめに 米国の核の傘があてにならないから、日本は核武装すべきだとの意見がある。米国トランプ大統領は、日本は米国の核の傘を当てにして大丈夫だと言いつつ日本の核武装を肯定している。国内でも核武装
-
経済産業省において「エネルギー情勢懇談会」の提言が4月13日にまとめられた。現在政府が策定した長期のエネルギー政策としては、2014年に策定したエネルギー基本計画があり、ここでは主として2030年のエネルギーミックス目標
-
(前回:温室効果ガス排出量の目標達成は困難①) 田中 雄三 トレンドで見る発展途上国のGHG削減 世界銀行の所得分類 GHG排出量に関するレポートは、排出量が多い国に着目したものが一般的ですが、本稿では、国の豊かさとの関
-
1. 東日本大震災後BWR初の原発再稼動 2024年10月29日東北電力女川原子力発電所2号機が再稼動しました。東日本大震災で停止した後13年半ぶりで、東京電力福島第一と同じ沸騰水型(BWR)としては初の再稼動になります
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
-
不正のデパート・関電 6月28日、今年の関西電力の株主総会は、予想された通り大荒れ模様となった。 その理由は、電力商売の競争相手である新電力の顧客情報ののぞき見(不正閲覧)や、同業他社3社とのカルテルを結んでいたことにあ
-
東京都は5月24日、都環境審議会で、2030年のカーボンハーフ実現に向けた政策の中間とりまとめをまとめた。 そこには新築住宅など中小規模の建築物に太陽光パネルを設置することを条例で義務化することが盛り込まれており、具体的
-
福島第一原発の後で、エネルギーと原発をめぐる議論が盛り上がった。当初、筆者はすばらしいことと受け止めた。エネルギーは重要な問題であり、人々のライフライン(生命線)である。それにもかかわらず、人々は積極的に関心を示さなかったためだ。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間