2022年に大洪水のバングラデシュでも死亡数は激減してきた
以前、世界全体で死亡数が劇的に減少した、という話を書いた。今回は、1つ具体的な例を見てみよう。
2022年で世界でよく報道された災害の一つに、バングラデシュでの洪水があった。
Sky Newは「専門家によると、気候変動が洪水の頻度、激しさ、予測不可能性を高めている」と報道した。
BBCも「専門家によると、気候変動が、世界中でこのような事象が起きる可能性を高めている」とした。
何れも”experts say…”と言っていて、どの専門家なのか全く分からないのは困ったものだが・・・。
まず知るべきことは、バングラデシュは、もともと洪水が頻発する国だということだ。バングラデシュはガンジス川下流のデルタ地帯に位置する。国土の80%以上が氾濫原であり、75%は海抜10メートル以下である。平均的な年で国土の18%が浸水する。1988年にはじつに75%が浸水した。
これは日本人にとっては想像を絶する。筆者も自分で訪れるまで、どうも半信半疑だったが、飛行機から見ると本当に広大な地域が水に漬かっていてびっくりしたのを覚えている。
さて、次に統計を見てみよう。雨量は増えているのだろうか。下記の世銀のデータを見ると、バングラデシュの雨量には特段のトレンドはないようだ。それにしても、年による変動がかなり大きいことが分かる。
次に、死者数はどうなっているか。これは世界全体のトレンドと同じく、激減してきた。バングラデシュでは、19世紀に6回、20世紀には18回の壊滅的な洪水が記録された。一度の洪水による死亡者数は数十万人に及ぶこともあった。
下図は、バングラデシュにおける、自然災害による死者数である。縦軸は10年間の平均値で、例えば1970とあるのは1970年から1979年の10年間の平均である。ほとんどがextreme weather とfloodsとなっているが、これはサイクロンと洪水を指す。
歴史上、とくに酷い被害が出たのは、1970年のボーラ・サイクロンだった。じつに20万人から50万人が亡くなったと推計されている。
近年ではこのようなことは無くなり、2000年代以降の死者数はかつてに比べると極めて少なくなっている。
経済成長を遂げ、堤防などのインフラを作り、予報・警報などのシステムを整えてきたおかげだ。
ロンボルグが言うように、このグラフも、「我々の富の増大によって自然災害に対する適応能力が向上しており、それが気候変動による潜在的なマイナスの影響を大きく上回っている」ということを示している。
メディアは、徒に気候危機と煽り立てるのではなく、このようなデータを冷静に見せるべきではないか。
■
『キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志』のチャンネル登録をお願いします。
関連記事
-
先日、和歌山県海南市にある関西電力海南発電所を見学させていただいた。原発再稼働がままならない中で、火力発電所の重要性が高まっている。しかし、一旦長期計画停止運用とした火力発電ユニットは、設備の劣化が激しいため、再度戦列に復帰させることは非常に難しい。
-
先日、日本の原子力関連産業が集合する原産会議の年次大会が催され、そのうちの一つのセッションで次のようなスピーチをしてきた。官民の原子力コミュニティの住人が、原子力の必要性の陰に隠れて、福島事故がもたらした原因を真剣に究明せず、対策もおざなりのまま行動パターンがまるで変化せず、では原子力技術に対する信頼回復は望むべくもない、という内容だ。
-
3月11日に行われた日本自動車工業会の記者会見で、豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は「今のまま2050年カーボンニュートラルが実施されると、国内で自動車は生産できなくなる」と指摘した。キーワードはライフサイクルアセスメン
-
「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか」については分厚い本を通読する人は少ないと思うので、多少ネタバラシの感は拭えないが、敢えて内容紹介と論評を試みたい。1回では紹介しきれないので、複数回にわたることをお許
-
スマートジャパン 3月3日記事。原子力発電によって生まれる高レベルの放射性廃棄物は数万年かけてリスクを低減させなくてならない。現在のところ地下300メートルよりも深い地層の中に閉じ込める方法が有力で、日本でも候補地の選定に向けた作業が進んでいる。要件と基準は固まってきたが、最終決定は20年以上も先になる。
-
2050年にCO2ゼロという昨年末の所信表明演説での宣言に続いて、この4月の米国主催の気候サミットで、菅首相は「日本は2030年までにCO2を46%削減する」ことを目指す、と宣言した。 これでEU、米国・カナダ、日本とい
-
以前書いたように、再生可能エネルギー賦課金の実績を見ると、1%のCO2削減に1兆円かかっていた。 菅政権が26%から46%に数値目標を20%深堀りしたので、これは年間20兆円の追加負担を意味する。 20兆円の追加負担は現
-
次にくる問題は、国際関係の中での核燃料サイクル政策の在り方の問題である。すなわち、日本の核燃料サイクル政策が、日本国内だけの独立した問題であり得るかという問題である。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間