非在来型ウランの埋蔵量について
きのうのG1サミットの内容が関係者にいろいろな反響を呼んでいるので、少し補足説明をしておく。
放送でもいったことだが、核燃料サイクルの問題は技術ではない。高速増殖炉の技術に大きな問題があるわけではない。もんじゅの事故は単なる配管の破断であり、原子炉そのものに欠陥があるわけではない。致命的な問題は、採算性である。
河野太郎氏も指摘したように、もんじゅや六ヶ所村のプラントには想定をはるかに超えるコストがかかって実用化が40年後に遅れているばかりでなく、そもそも再処理の目的である高速増殖炉(FBR)が経済的に意味をなさないのだ。
FBRはプルトニウムを燃料にしてそれより多くのプルトニウムを生み出す「夢の原子炉」といわれているが、1970年代に核燃料サイクルの計画が始まったときは、ウランの埋蔵量が数十年しかなく、世界で原子力開発が進んだら枯渇してしまうという危機感があった。このため、国内でエネルギーを生産できる「準国産エネルギー」としてFBRが期待されたのだ。
しかし最近の「非在来型エネルギー」の開発によって、この根本前提がゆらいできた。OECDの報告書はこう書いている:
1980年代以来、ウラン探鉱は限定的にしか行われてこなかったが、2002年以降はウラン価格の上昇を受け、探鉱活動は以前の3倍以上に増加した。近年の探鉱活動が活発でなかったにも関わらず、現在の消費量に対する既知のウラン資源の割合(=可採年数)は、他の鉱物エネルギー資源とほぼ同等で、約100年である。さらに現在の地質学的情報に基づいて発見が見込まれる資源を加えると、可採年数は300年分近くになる。また、「非在来型」資源、具体的にはリン鉱石中に含まれるウランも加えると、この数字は約700年にまで延びる。
通常のウラン(価格130ドル/kg以下)の埋蔵量は、世界全体で630万トン程度と推定され、これは世界のウラン消費量(約6.3万トン)の100年分ぐらいだが、それ以上のコストで採掘可能な非在来型ウランの埋蔵量は、IAEAによれば3500万トンある。これは世界の消費量の550年分である。OECDは2200万トンという数字を「きわめて保守的な推定」として紹介しているが、これでも350年分である。
さらに海水中にはほぼ無尽蔵のウランが含まれているが、その精製コストも下がり、日本の原子力委員会の報告によれば25000円/kgまで下げられる。これは通常のウランの価格基準(130ドル)の2倍程度で、今後の技術進歩で在来型のウランと競争できる可能性もあり、そのコストは核燃料サイクルよりはるかに低い。
そういうわけで、たとえFBRが完璧で安全な技術だとしても必要ないのだ。使用ずみ核燃料を直接処分したほうが安いからである。そしてFBRが必要なくなると、核燃料サイクルは宙に浮いてしまう。プルサーマルは核燃料サイクルを延命するための技術で、再処理から撤退すれば必要ない。こういう事実認識は、河野太郎氏から電力会社に至るまでほぼ同じだ。必要なのは政治的な決断だけである。
(2013年2月12日掲載)
関連記事
-
原発は「トイレのないマンション」とされてきました。使用済みの核燃料について放射能の点で無害化する方法が現時点ではないためです。この問題について「核燃料サイクル政策」で対応しようというのが、日本政府のこれまでの方針でした。ところが、福島第一原発事故の後で続く、エネルギーと原子力政策の見直しの中でこの政策も再検討が始まりました。
-
2023年12月にドバイで開催されたCOP28はパリ協定後、初めてのグローバルストックテイクを採択して閉幕した。 COP28での最大の争点は化石燃料フェーズアウト(段階的廃止)を盛り込むか否かであったが、最終的に「科学に
-
処理水の放出は、いろいろな意味で福島第一原発の事故処理の一つの区切りだった。それは廃炉という大事業の第1段階にすぎないが、そこで10年も空費したことは、今後の廃炉作業の見通しに大きな影響を与える。 本丸は「デブリの取り出
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
-
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 「2050年二酸化炭素排出実質ゼロ」を「カーボンニュートラル」と呼ぶ習慣が流行っているようだが、筆者には種々の誤解を含んだ表現に思える。 この言葉は本来、バイオマス(生物資源:
-
日本で大きく報道されることはなかったが、2012年10月末に米国東海岸に上陸したハリケーン・サンディは、ニューヨーク市を含め合計850万軒という過去最大規模の停電を引き起こした。ニューヨークでも計画停電の実施に加え、ほぼ1カ月間停電の続いた地域があったなど、被害の全貌が明らかになりつつある。
-
筆者は現役を退いた研究者で昭和19年生まれの現在68歳です。退職後に東工大発ベンチャー第55号となるベンチャー企業のNuSACを立ち上げました。原子力技術の調査を行い、現在は福島県での除染技術の提案をしています。老研究者の一人というところでしょうか。
-
昨年9月から定期的にドイツのエネルギー専門家と「エネルギー転換」について議論する場に参加している。福島第一原子力発電所事故以降、脱原発と再エネ推進をかかげるドイツを「日本が見習うべきモデル」として礼賛する議論が目立つよう
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間