環境危機を警告する人達が見過ごしていること:『地球温暖化で人類は絶滅しない』

2022年08月03日 07:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

HowardPerry/iStock

最近出たお勧めの本です。

著者のマイケル・シェレンバーガーは初めは環境運動家だったが、やがてその欺瞞に気づき、いまでは最も環境に優しいエネルギーとして原子力を熱心に推進している。

地球温暖化に関しては小生とほぼ意見は同じだ。CO2は増えていて気温は緩やかに上昇した。だが経済成長のお陰で自然災害による被害は激減した。気候危機というほどの兆候などない。急進的な温暖化対策の悪影響の方がよほど大きい。再生可能エネルギーはコストが高く、不安定で、広い面積を使うなど環境にも優しいとはいえない。

さらにこの本の面白いところは、シェレンバーガー自身がコンゴやブラジルに行き、貧しい人々と共に暮らしたことだ。そこで、先進国の環境運動の押し付けによって、いかに経済開発の芽が奪われ、また環境がかえって悪化しているかを体験に基づいて書いている。

コンゴでは、水力発電の建設が阻止され、エネルギー不足の中、人々の薪炭利用が続いた。炭が焼かれ、都市に出荷される。これによってゴリラの生息域が失われ、時に人々とトラブルを起こして射殺される。ブラジルでは、セラードと呼ばれる生産性の高い土地での大豆生産が制限され森林保全を強要される。この代わりに生産性の低いアマゾンの森林地帯が開墾されて、かえって森林が多く失われる。

シェレンバーガーは技術進歩が環境保全に果たした役割を強調している。プラスチックによって象牙、亀の甲羅、クジラのヒゲなどの天然起源の材料が代替されたことは動物保護のために決定的に重要だった。人工的だから環境に悪いなどという思い込みは間違っている。

経済成長によって繁栄し、技術進歩の恩恵を受けることで、災害にも強く、また環境とも調和して生きて行けるようになる。これから豊かになりたいという貧しい人々を否定するような環境運動ではなく、「環境ヒューマニズム」が必要だと著者は説く。

 

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 「インフレ抑止法」成立の米国・脱炭素の現状 8月16日、米国のバイデン大統領は、政権の看板政策である気候変動対策を具体化する「インフレ抑止法」に署名し、同法は成立した。 この政策パッケージは、政権発足当初、気候変動対策に
  • 以前、2021年の3月に世界の気温が劇的に低下したことを書いたが、4月は更に低下した。 データは前回同様、人工衛星からの観測。報告したのは、アラバマ大学ハンツビル校(UAH)のグループ。元NASAで、人工衛星による気温観
  • エネルギーをめぐる現実派的な見方を提供する、国際環境経済研究所(IEEI)所長の澤昭裕氏、東京工業大学助教の澤田哲生氏、アゴラ研究所所長の池田信夫氏によるネット放送番組「言論アリーナ」の議論は、今後何がエネルギー問題で必要かの議論に移った。
  • 従来から本コラムで情報を追っている「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」だが2月22日に第三回の会合が開催され、非常に多くの課題とその対策の方向性が議論された。事務局としては再エネ発電事業者の不満
  • 先日、デンマークの政治学者ビョルン・ロンボルクが来日し、東京大学、経団連、キャノングローバル戦略研究所、日本エネルギー経済研究所、国際協力機構等においてプレゼンテーションを行った。 ロンボルクはシンクタンク「コペンハーゲ
  • 12月にドバイで開催されたCOP28はパリ協定発効後、最初のグローバル・ストックテイクが行われる「節目のCOP」であった。 グローバル・ストックテイクは、パリ協定の目標達成に向けた世界全体での実施状況をレビューし、目標達
  • 「2030年までにCO2を概ね半減し、2050年にはCO2をゼロつまり脱炭素にする」という目標の下、日米欧の政府は規制や税を導入し、欧米の大手企業は新たな金融商品を売っている。その様子を観察すると、この「脱炭素ブーム」は
  • 「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか」については分厚い本を通読する人は少ないと思うので、多少ネタバラシの感は拭えないが、敢えて内容紹介と論評を試みたい。1回では紹介しきれないので、複数回にわたることをお許

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑