世界の開発途上国は石炭増産へ:日本は支援すべきだ

cozyta/iStock
ロシアへのエネルギー依存を脱却すべく、欧州が世界中からエネルギーを買い漁っている。この影響で世界のエネルギー価格は暴騰した。これに耐えかねて、開発途上国では石炭の増産と石炭火力発電の利用計画が次々と発表されている。
ニュースは次々と飛び込んでくるが、以下にいくつかまとめておこう。
1. 欧州は、ボツワナから年間100万トンの石炭の調達を検討している。
ボツワナには欧州への石炭供給の引き合いが殺到しており、欧米諸国からの需要は年間100万トンを超えると推定していると、モクグウェティ・マシジ大統領が10日、明らかにした。
2. インド政府は、電力危機への対応のため、石炭火力発電所に対し、フル稼働を命じた。
インドでは、電力不足に見舞われて、停電や電力供給制限が頻発している。電力不足の原因は、電力需要の増大と、石炭生産の不足、そして輸入石炭の価格高騰である。
世界的に石炭価格が高騰し、供給が逼迫しているため、輸入燃料を使用している発電所は逆ザヤによる損失を抑えるために稼働率を下げており、状況が悪化している。
アジアのベンチマークであるニューキャッスル石炭先物価格は、今年に入ってから145%以上も上昇している。
インド電力省によると、輸入石炭を使用するように設計されたインドの1760万キロワットの発電能力のうち、現在稼働しているのはわずか1000万キロワットだという。ほとんどの発電所は、燃料費の上昇を転嫁できないような契約を買い手と交わしているという。
そこでインド政府は、輸入石炭による発電所にフル稼働を命じる代わりに、石炭価格の高騰による発電所への費用負担を軽減するための措置をとるとされている。
3. さらにインドは、100以上の炭鉱を再稼働する。
インドは、電力危機により、これまで財政的に維持できないとされてきた100以上の炭鉱を再開する予定であると、政府が6日に発表した。
インドは、再開された鉱山から今後2~3年で7500万トンから1億トンの石炭の追加生産を見込んでいる。
4. さらにインドは、炭鉱の環境規制も緩和した。
石炭の生産量を増やすために、炭鉱拡張にあたっての環境規制を緩和した。具体的には環境影響評価の免除や、住民との協議義務の緩和などである。
ベトナム国営石炭採掘会社ビナコミンは、世界価格が急騰する中で、化石燃料の需要増に対応するため、国内生産を強化すると、産業貿易省が11日に発表した。
東南アジアの製造業大国である同国は、今年初め、石炭供給の逼迫による夏場の電力不足を警戒していた。
6. そして中国は、年間3億トンの石炭生産能力を増強すると発表した。ちなみに日本の石炭消費は年間1.8億トンだから、その倍近くということになる。
■
このように、エネルギー価格の高騰の最中にあって、開発途上国はみなエネルギー安定供給に必死になっている。石炭を増産し、あるいは石炭火力発電を増強するのは当然だ。
ところがいま、先進国の政府や金融機関は、脱炭素のためとして、化石燃料事業には投融資をしなくなっている。
その一方で、先進国自身、就中、欧州が化石燃料の調達に奔走しているのは、完全に偽善だとの批判がある。まったくその通りだ。
米国上院のエネルギー資源委員会のジョー・マンチン委員長(民主党)や有力メンバーであるジョン・バラッソ議員(共和党)は、現在の世界のエネルギー危機を救いロシアに対抗するために、米国はエネルギーを増産するべきだと述べている。
日本も、世界中の開発途上国の経済開発に資するため、石炭資源開発を支援すべきだ。それは日本への安定供給にもつながるだろう。
そして、日本の持つ最高水準の石炭火力発電技術によって、大気汚染などが極めて少ない形での電力供給を世界で実現してゆくべきだ。
■

関連記事
-
地震・津波に関わる新安全設計基準について原子力規制委員会の検討チームで論議が進められ、その骨子が発表された。
-
「2050年のカーボンニュートラル実現には程遠い」 現実感のあるシナリオが発表された。日本エネルギー経済研究所による「IEEJ アウトルック 2023」だ。(プレスリリース、本文) 何しろここ数年、2050年のカーボンニ
-
従来から本コラムで情報を追っている「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」だが2月22日に第三回の会合が開催され、非常に多くの課題とその対策の方向性が議論された。事務局としては再エネ発電事業者の不満
-
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 筆者は毎日、大量に届くエネルギー関連記事を目にするわけだが、相も変わらず科学的根拠のない暴論が世に蔓延するのを見て、この国の未来に対し暗澹たる気持ちに襲われる。また、これらの暴
-
連日の猛暑で「地球温暖化の影響ですか?」という質問にウンザリしている毎日だ。 最新の衛星観測データを見ると、6月の地球の気温は1991-2020年の30年間の平年値と比べて僅かにプラス0.06℃。0.06℃を体感できる人
-
IPCCの報告が昨年8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 米国オバマ政権の科学次官を務めたスティーブ・クーニンの講
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 地球温暖化による大雨の激甚化など起きていない。 今回のI
-
シンクタンクのアゴラ研究所(所長・池田信夫、東京都千代田区)の運営するエネルギー調査機関GEPR(グローバルエネルギー・ポリシーリサーチ)は、NPO法人の国際環境経済研究所と3月から提携します。共同の研究と調査、そしてコンテンツの共有を行います。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間