化石燃料調達に奔走する欧州

2022年05月13日 07:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

Roman Barkov/iStock

ロシアからの化石燃料輸入に依存してきた欧州が、ロシアからの輸入を止める一方で、世界中の化石燃料の調達に奔走している

動きが急で次々に新しいニュースが入り、全貌は明らかではないが、以下の様な情報がある。

● 1週間前、イギリスのマイケル・ゴーブ住宅担当大臣が、同国で30年ぶりとなる新規炭鉱を承認する可能性が高いというニュースが流れた。この炭鉱は製鉄用の石炭を産出するものだ。

原子力発電所の廃止に追われるドイツでは、RWE、ヴァッテンフォール、シュタッグが2030年に予定されていた閉鎖期限をはるかに超えて石炭火力発電所を稼働させる準備を始めている。いまドイツの石炭会社は、ロシアがすべての天然ガスの供給を停止した場合に備えて、全速力で稼働する発電所を準備している。

● さらにドイツは、ワッデン海諸島の北20kmの北海でオランダ企業が行う天然ガスの掘削を許可した。そのために、ドイツ政府は自国領土での石油・ガス掘削に対する態度を緩めることを選択した。

● ドイツでは昨年、電力供給のほぼ30パーセントを2600万キロワット近くの石炭火力発電所から得ていた。しかし、これまで予備としてしか利用できなかった他の石炭火力発電所によって、この合計が3400万キロワットまで引き上げられる可能性がある。さらにそれ以上の送電網から外れている石炭火力発電所もある。

ヨーロッパの電力会社にロシア産の石炭を売れなくなったため、ヨーロッパのバイヤーは南アフリカから石炭を購入している。南アフリカ、コロンビア、そしてアメリカからヨーロッパへの石炭の流れは、ここ数週間で増加している。歴史的に、南アフリカの石炭のほとんどは、インドや他のアジア市場へ流れていた。

● イタリアのドラギ首相は最近、同国の石炭火力発電所を再稼働させる必要があるかもしれないと認めた。

欧州連合(EU)のグリーンニューディール担当上級副総裁兼気候変動対策欧州委員会のフランズ・ティメルマンス氏は、ロシアの天然ガスに代わる石炭燃焼を計画しているとしても、EU諸国はEUの気候目標からは外れていないと発表した。

だが、いま起きていることは、なりふり構わぬ化石燃料の調達であり、それによる世界規模での化石燃料価格の高騰だ。これが現実、ということであろう。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 地球温暖化は米国では党派問題である。民主党支持者は「気候危機だ、今すぐ大規模な対策が必要」とするが、共和党支持者は「たいした脅威ではなく、極端な対策は不要」とする。このことは以前述べた。 さて米国では大手メディアも党派で
  • 今回は英国シンクタンクGWPFの記事と動画からの紹介。 2019年、Netflixのドキュメンタリー番組「Our Planet」の一場面で、数匹のセイウチが高い崖から転落して死亡するというショッキングな映像が映し出された
  • 小泉進次郎環境相(原子力防災担当相)は、就任後の記者会見で「どうやったら(原発を)残せるかではなく、どうやったらなくせるかを考えたい」と語った。小泉純一郎元首相が反原発運動の先頭に立っているのに対して、今まで進次郎氏は慎
  • バイデン政権は温暖化防止を政権の重要政策と位置づけ、発足直後には主要国40ヵ国の首脳による気候サミットを開催し、参加国に2050年カーボンニュートラルへのコミットや、それと整合的な形での2030年目標の引き上げを迫ってき
  • はじめに 日本の放射線利用では不思議なことが起きている。胸部エックス線検査を受けたことが無い人はいないだろうし、CT(Computed Tomography)やPET(陽電子放射断層撮影)も広く知られ実際に利用した人も多
  • IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 IPCC報告には地球の平均気温がぐんぐん上昇しているとい
  • 政策家の石川和男氏へのインタビュー記事です。政府は、発送電分離を柱にする2020年までの電力自由化を打ち出しました。しかし、これは「電力価格を引き下げる」という消費者や企業に必要な効果があるのでしょうか。また原発のことは何も決めていません。整合性の取れる政策は実行されるのでしょうか。
  • 今年のCOP18は、国内外ではあまり注目されていない。その理由は、第一に、日本国内はまだ震災復興が道半ばで、福島原発事故も収束したわけではなく、エネルギー政策は迷走している状態であること。第二に、世界的には、大国での首脳レベルの交代が予想されており、温暖化交渉での大きな進展は望めないこと。最後に、京都議定書第二約束期間にこだわった途上国に対して、EUを除く各国政府の関心が、ポスト京都議定書の枠組みを巡る息の長い交渉をどう進めるかに向いてきたことがある。要は、今年のCOP18はあくまでこれから始まる外交的消耗戦の第一歩であり、2015年の交渉期限目標はまだまだ先だから、燃料消費はセーブしておこうということなのだろう。本稿では、これから始まる交渉において、日本がどのようなスタンスを取っていけばよいかを考えたい。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑