今週のアップデート — 日本のエネルギー技術研究の成果(2013年6月3日)
今週のアップデート
福島原発事故以来、日本のエネルギー政策には世論から批判を集めます。確かに、事故の大失態は批判されるべきですが、過去の業績をすべて否定する必要はありません。GEPRの編集に関わる経済・環境ジャーナリストの石井孝明氏が、過去のエネルギー政策で評価する例を紹介します。
2)「福島原発事故で差し迫った健康リスクはない」福島原発事故で国連機関が評価
原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR: United Nations Scientific Committee on the Effect of Atomic Radiation)の福島事故をめぐる調査報告の草案について討議し、その内容がプレスリリース(英語)の形で翻訳されました。「福島第一原発事故の放射線被曝は、即座の健康被害を引き起こさなかった。そして将来に渡って一般市民、原発事故作業員の大半の健康に影響をおよぼす可能性はほとんどないだろう」としています。
提携する国際環境経済研究所(IEEI)のサイトに掲載された主席研究員、常葉大学経営学部教授の山本隆三さんの論考です。英国では、電力自由化の後で慢性的な電源不足が生じています。欧州では、発電所建設では「社会主義のように国の関与が必要」という意見が登場しています。
今週のリンク
1)緊急節電—電力不足を乗り切るための、節電情報ポータルサイト
以前掲載しましたが、東京大学岩船由美子准教授が2011年の節電の分析、節電方法の紹介をしたホームページです。(現在は更新停止中)夏前に原発の稼動停止による電力不足が懸念されます。現在は更新停止中。一部の人が「電力が足りた。原発がなくても大丈夫」と主張しています。ところが統計を見ると、「電力が足りない状況を足らしてしまった」という、かなり無理をした状況で電力不足を乗り切りました。この現実から教訓を引き出さなければなりません。
2)エネルギー産業が再生の鍵—『日本企業は何で食っていくのか』
池田信夫アゴラ研究所所長のコラム。伊丹敬之一橋大学名誉教授の本の書評です。日本の産業を分析してきた伊丹氏は、エネルギーの技術力に注目しています。日本の産業界の力の低下が懸念されています。エネルギー産業は原発事故後に停滞しましたが、期待の分野として再評価されるべきでしょう。
3)「政府エネルギー技術開発プロジェクトの分析−サンシャイン・ムーンライト・ニューサンシャイン計画に対する費用効果分析と事例分析−」
電力中央研究所の研究論文。今回、取り上げたコラムで引用されています。2007年と古い研究ですが、日本のエネルギー支援について検証をしています。大規模な取り組みは、投下費用に見合う効果も出たと試算しています。
NHK5月28日報道。福島原発事故をめぐる「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」(UNSCEAR)の結論案が5月28日公表されました。以前から検討されていたように「健康影響は考えにくい」という方向に、結論がまとまると思われます。
5)廃炉の損失を分割処理 経産省方針、決断へ環境整備 料金上乗せの恐れも
朝日新聞6月2日記事。構想段階の記事で経産省側が世論をうかがう「観測気球」の意味があるかもしれません。原子力規制委員会が、一部の原発の廃炉をうながす中で、その対応策を経産省が考え始めたとも読めます。
日本経済新聞5月31日記事。原子力規制委員会は7月に原発の新安全基準を公表・実施の予定です。しかし、それによりさらに稼動が遅れます。原発の停止によるLNG の輸入増加は年間3−4兆円の見込みです。一連の原発を止める政策が妥当であるとは思えません。
関連記事
-
金融庁、ESG投信普及の協議会 新NISAの柱に育成 金融庁はESG(環境・社会・企業統治)投資信託やグリーンボンド(環境債)の普及に向けて、運用会社や販売会社、企業、投資家が課題や改善策を話し合う協議会を立ち上げた。
-
米国農業探訪取材・第3回・全4回 第1回「社会に貢献する米国科学界-遺伝子組み換え作物を例に」 第2回「農業技術で世界を変えるモンサント-本当の姿は?」 技術導入が農業を成長させた 米国は世界のトウモロコシ、大豆の生産で
-
太陽光や風力など、再生可能エネルギー(以下再エネ)を国の定めた価格で買い取る「固定価格買取制度」(FIT)が7月に始まり、政府の振興策が本格化している。福島原発事故の後で「脱原発」の手段として再エネには全国民の期待が集まる。一方で早急な振興策やFITによって国民負担が増える懸念も根強い。
-
調達価格算定委員会で平成30年度以降の固定価格買取制度(FIT)の見直しに関する議論が始まった。今年は特に輸入材を利用したバイオマス発電に関する制度見直しが主要なテーマとなりそうだ。 議論のはじめにエネルギーミックスにお
-
アゴラ研究所では、NHNジャパン、ニコニコ生放送を運営するドワンゴとともに第一線の専門家、政策担当者を集めてシンポジウム「エネルギー政策・新政権への提言」を2日間かけて行います。
-
自民党萩生田光一政調会長の発言が猛批判を受けています。 トリガー条項、税調で議論しないことを確認 自公国3党協議(2023年11月30日付毎日新聞) 「今こういう制度をやっているのは日本ぐらいだ。脱炭素などを考えれば、あ
-
田中 雄三 国際エネルギー機関(IEA)が公表した、世界のCO2排出量を実質ゼロとするIEAロードマップ(以下IEA-NZEと略)は高い関心を集めています。しかし、必要なのは世界のロードマップではなく、日本のロードマップ
-
米ホワイトハウスは、中国などCO2規制の緩い国からの輸入品に事実上の関税を課す「国境炭素税」について、支持を見合わせている(ロイター英文記事、同抄訳記事)。(国境炭素税について詳しくは手塚氏記事を参照) バイデン大統領は
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間