IPCC報告の論点㊸:CO2ゼロは不要。半減で温暖化は止まる
以前、CO2濃度は産業革命前の280ppmに戻りたがっていて、いま人為的なCO2排出量のうち大気中に留まるのは約半分で、残り半分は陸上と海洋に自然に吸収されていること、を書いた。
だとすると、人為的排出を半分にすれば、大気中のCO2濃度増加は止まるはずで、ゼロにまでする必要はない。
じっさいに、ロイ・スペンサーのCO2収支モデルを使うと、このことがエクセルで確認できる。
CO2排出量を図1のように2050年までに半減させると、図2のようにCO2濃度は2050年以降ほぼ一定に抑えられる。
CO2濃度がほぼ一定になれば、気温もほぼ一定になる(厳密に言えば海水の熱吸収が少しずつ鈍化するので気温は少しずつ上がり続けるが、海水の熱容量は大気よりはるかに大きいので、この上昇ペースはごく緩やかなものに留まる)。
そう思ってIPCCの排出シナリオを改めて見ると、ちょうどSSP1-2.6というシナリオが2050年までにCO2を半分にすることになっている(図3)
いま日本は「2050年までにCO2をゼロにする」と言っているが、これは全く非現実的で、それを目指すだけで経済が破壊されてしまう。
だが2050年までにCO2を半減ということであれば、原子力発電を推進して、電化を進めることで手が届きそうだ。
日本のCO2排出は図4のようになっている。エネルギー転換39.1%、家庭4.8%、業務5.8%を足せばほぼ50%になる。これに運輸部門の半分にあたる乗用車を足せばほぼ60%になるから、この8割方をゼロエミッションにすればよい。それならば、原子力の推進と電化(=家庭部門、業務部門、運輸部門の電化)によって2050年に手が届きそうだ。
もちろん、世界全体で同じことが出来る訳では無い。だが、原子力と電化を世界的に推進することで、現状に比べてCO2を半減するというのは、すでに存在している技術とそれに近いものを利用して、経済成長と両立しつつ達成可能な、現実的な目標だ。おとぎ話のようなCO2ゼロ目標とは全く違う。
もしもCO2を半減するところまで出来れば、後はリラックスすればよい。何しろ、もうCO2濃度は殆ど増えず、温暖化はごく緩やかにしか進まなくなるのだから、人類は問題なく適応できる。
もともと、パリ協定の上位にある「気候変動枠組み条約」の文言は、「大気中の温室効果ガス濃度の安定化」だった。これは、濃度を安定化することは温暖化を止めることとほぼ同義だという正しい認識があったからだ。
それがいつのまにか、気温が1.5℃を少しでも超えてはいけないとか、CO2の排出量をゼロにするとか、パリ協定では無理難題になってしまった。これは「極端な脱炭素ほど望ましい」「社会を根本から変革したい」というイデオロギーの表れに過ぎない。人類の合理的なリスク管理とは関係無い。
いま日本はCO2ゼロを目標にしているが、半減に書き換えよう。その達成のために、原子力を推進し、安価で安定した電力供給をすることで電化を進めよう。
2050年以降に向けての様々な技術開発は進めればよい。だが慌てて未熟で高価な技術を導入し、経済を破壊するのは止めよう。
■
1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。
【関連記事】
・IPCC報告の論点①:不吉な被害予測はゴミ箱行きに
・IPCC報告の論点②:太陽活動の変化は無視できない
・IPCC報告の論点③:熱すぎるモデル予測はゴミ箱行きに
・IPCC報告の論点④:海はモデル計算以上にCO2を吸収する
・IPCC報告の論点⑤:山火事で昔は寒かったのではないか
・IPCC報告の論点⑥:温暖化で大雨は激甚化していない
・IPCC報告の論点⑦:大雨は過去の再現も出来ていない
・IPCC報告の論点⑧:大雨の増減は場所によりけり
・IPCC報告の論点⑨:公害対策で日射が増えて雨も増えた
・IPCC報告の論点⑩:猛暑増大以上に酷寒減少という朗報
・IPCC報告の論点⑪:モデルは北極も南極も熱すぎる
・IPCC報告の論点⑫:モデルは大気の気温が熱すぎる
・IPCC報告の論点⑬:モデルはアフリカの旱魃を再現できない
・IPCC報告の論点⑭:モデルはエルニーニョが長すぎる
・IPCC報告の論点⑮:100年規模の気候変動を再現できない
・IPCC報告の論点⑯:京都の桜が早く咲く理由は何か
・IPCC報告の論点⑰:脱炭素で海面上昇はあまり減らない
・IPCC報告の論点⑱:気温は本当に上がるのだろうか
・IPCC報告の論点⑲:僅かに気温が上がって問題があるか?
・IPCC報告の論点⑳:人類は滅びず温暖化で寿命が伸びた
・IPCC報告の論点㉑:書きぶりは怖ろしげだが実態は違う
・IPCC報告の論点㉒:ハリケーンが温暖化で激甚化はウソ
・IPCC報告の論点㉓: ホッケースティックはやはり嘘だ
・IPCC報告の論点㉔:地域の気候は大きく変化してきた
・IPCC報告の論点㉕:日本の気候は大きく変化してきた
・IPCC報告の論点㉖:CO2だけで気温が決まっていた筈が無い
・IPCC報告の論点㉗:温暖化は海洋の振動で起きているのか
・IPCC報告の論点㉘:やはりモデル予測は熱すぎた
・IPCC報告の論点㉙:縄文時代の北極海に氷はあったのか
・IPCC報告の論点㉚:脱炭素で本当にCO2は一定になるのか
・IPCC報告の論点㉛:太陽活動変化が地球の気温に影響した
・IPCC報告の論点㉜:都市熱を取除くと地球温暖化は半分になる
・IPCC報告の論点㉝:CO2に温室効果があるのは本当です
・IPCC報告の論点㉞:海氷は本当に減っているのか
・IPCC報告の論点㉟:欧州の旱魃は自然変動の範囲内
・IPCC報告の論点㊱:自然吸収が増えてCO2濃度は上がらない
・IPCC報告の論点㊲:これは酷い。海面の自然変動を隠蔽
・IPCC報告の論点㊳:ハリケーンと台風は逆・激甚化
・IPCC報告の論点㊴:大雨はむしろ減っているのではないか
・IPCC報告の論点㊵:温暖化した地球の風景も悪くない
・IPCC報告の論点㊶:CO2濃度は昔はもっと高かった
・IPCC報告の論点㊷:メタンによる温暖化はもう飽和状態
■
関連記事
-
四国電力の伊方原発2号機の廃炉が決まった。これは民主党政権の決めた「運転開始40年で廃炉にする」という(科学的根拠のない)ルールによるもので、新規制基準の施行後すでに6基の廃炉が決まった。残る原発は42基だが、今後10年
-
少し前の話になりますが、2016年12月20日に経済産業省に設置されていた「東京電力改革・1F問題委員会」において、「東京電力改革提言」なる報告書がまとめられました。この提言では福島における原発事故の対策費用の全体像が初
-
今度の改造で最大のサプライズは河野太郎外相だろう。世の中では「河野談話」が騒がれているが、あれは外交的には終わった話。きのうの記者会見では、河野氏は「日韓合意に尽きる」と明言している。それより問題は、日米原子力協定だ。彼
-
他方、六ヶ所工場に関連してもう一つ、核不拡散の観点からの問題がある。すなわち、はっきりした使途のない「余剰プルトニウム」の蓄積の問題である。
-
小泉元首相の講演の内容がハフィントンポストに出ている。この問題は、これまで最初から立場が決まっていることが多かったが、彼はまじめに勉強した結果、意見を変えたらしい。それなりに筋は通っているが、ほとんどはよくある錯覚だ。彼は再生可能エネルギーに希望を託しているようだが、「直感の人」だから数字に弱い。
-
混迷と悪あがき ロシアのウクライナ侵攻後、ドイツの過去10年に亘るエネルギー政策「エネルギーヴェンデ(大転換)」が大失敗したことが明々自白になった。大転換の柱は、脱原発と脱石炭(褐炭)である。原発と褐炭を代替するはずだっ
-
アゴラ研究所の運営するネット放送「言論アリーナ」。今回のテーマは「地球温暖化は止まるのか」です。 地球温暖化がこれまでの予想ほど急速には進まないという予測が出ています。温室効果ガスがあまり増えないためです。地球温暖化は止
-
20世紀末の地球大気中の温度上昇が、文明活動の排出する膨大な量のCO2などの温室効果ガス(以下CO2 と略記する)の大気中濃度の増加に起因すると主張するIPCC(気候変動に関する政府間パネル、国連の下部機構)による科学の仮説、いわゆる「地球温暖化のCO2原因説」に基づいて、世界各国のCO2排出削減量を割当てた京都議定書の約束期間が終わって、いま、温暖化対策の新しい枠組みを決めるポスト京都議定書のための国際間交渉が難航している。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間