環境運動に屈し学問の自由を失った大学を憂う叫び
オランダの物理学者が、環境運動の圧力に屈した大学に異議を唱えている。日本でもとても他人事に思えないので、紹介しよう。
執筆したのは、デルフト工科大学地球物理学名誉教授であり、オランダ王立芸術・科学アカデミー会員のグウス・ベルクート博士。「助けてくれ、私たちの大学に何が起こっているのか」という公開書簡が11月22日にオランダの主要日刊紙Da Telegraafに掲載された。
近年、私たちの大学におかしなことが起こっている。
教授たちは、教える内容に細心の注意を払わなければならない。活動家のイデオロギーにそぐわない科学的な結果を発表すると、彼らの生活は困難になり、クビになる危険性さえある。
いわゆる「コンセンサス」に参加することが、圧倒的に安全なのだ。
理事会は教授を守らず、それどころか、活動家の後ろに固まっている。
アムステルダム大学は、すべての学生が 覚醒(”woke “)すべきだと考えている。もはや、才能を伸ばすことは考えていない。代わりに、白人で異性愛者で真面目な学生に、ひたすら罪悪感を抱かせている。なにしろ、彼らの祖先は血にまみれており、彼らは新しい世代を抑圧しているのだから。
ナイメーヘンのラドバウド大学は、気候活動家に屈し、すべての学生に持続可能性の物語を教えなければならないと決めた。気候危機がその中心だ。だが、それが科学的に正しいかどうかは、ここでは問題では無くなった。
私の出身大学であるデルフト工科大学は、最近、「気候大学」というおしゃれなラベルを採用した。この大学でも、太陽電池パネルや風車、バイオマス発電所で解決しなければならない人為的な気候危機があると学生に教え込んでいる。批判は許されない。しかし、私は理事会に言いたいが、大学は偏りのない知識の交換のための聖域でなければならないのではないか? デルフト工科大学では、全員がイデオロギー的な拘束を受けているとしたら、議論はどれほど自由なのか? このような大学に自分の子供を通わせたいと思うか?
更に、デルフト工科大学は、EUのエネルギー政策を主導したとして、Timmermans EU副委員長に名誉博士号を授与した。しかし、氏はそのエネルギー政策で計り知れないダメージを与えている。彼はバイオマス発電所の偉大な擁護者だが、これは大規模な伐採によって長年にわたり固有の生態系を破壊した。氏はまた、風車で持続可能性が達成できると信じている。デルフト工科大学のような技術系大学の人々は、本当は、このような政策が技術的にも科学的にも無意味であることをよく知っている。
大学は、科学の発展にとって不適切な方向に進んでいる。科学と政治の利害関係が強く絡み合っている。その結果、批判的思考や真実の探求は、もう何年も前から、出発点ではなくなってしまった。
理事会が念頭に置くべきことは、大学とは、新しいアイデアが生まれて育つ繁殖地であらねばならぬ、ということだ。そのためには、新しい考え方が歓迎され、学生が才能を発揮できるような、刺激的な研究・教育環境が必要だ。
悪いアイデアを排除するために必要なことは、論を立てること、意見を交わすこと、検証を行うことだ。決して、創造的な心を封じ込めてはいけない。
■
関連記事
-
有馬純 東京大学公共政策大学院教授 今回のCOP25でも化石賞が日本の紙面をにぎわした。その一例が12月12日の共同通信の記事である。 【マドリード=共同】世界の環境団体でつくる「気候行動ネットワーク」は11日、地球温暖
-
9月25日、NHK日曜討論に出演する機会を得た。テーマは「1.5℃の約束―脱炭素社会をどう実現?」である。 その10日ほど前、NHKの担当ディレクターから電話でバックグラウンド取材を受け、出演依頼が来たのは木曜日である。
-
バイデン政権は、米国内の金融機関に化石燃料産業への投資を減らすよう圧力をかけてきた。そして多くの金融機関がこれに応じてポートフォリオを変えつつある。 これに対して、11月22日、15の州の財務長官らが叛旗を翻した。 すな
-
国際環境経済研究所の澤昭裕所長に「核燃料サイクル対策へのアプローチ」を寄稿いただきました。
-
環境税の導入の是非が政府審議会で議論されている。この夏には中間報告が出る予定だ。 もしも導入されるとなると、産業部門は国際競争にさらされているから、家庭部門の負担が大きくならざるを得ないだろう。実際に欧州諸国ではそのよう
-
政府は2030年に2005年比で26%の温室効果ガス削減という数値目標を提示した。だがこれは、コストをあまり考慮せずに積み上げた数字であって、最大限努力した場合の「削減ポテンシャル」と見るべきである。
-
アメリカでは「グリーン・ニューディール」をきっかけに、地球温暖化が次の大統領選挙の争点に浮上してきた。この問題には民主党が積極的で共和党が消極的だが、1月17日のWSJに掲載された炭素の配当についての経済学者の声明は、党
-
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 管政権の目玉政策の一つが「2050年二酸化炭素排出実質ゼロ」であり、日本だけでなく国際的にも「脱炭素」の大合唱しか聞こえないほどである。しかし、どのようにして「脱炭素社会」を実
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間