飽食した欧州が途上国に石炭を禁止する「偽善の祭典」
COP26が閉幕した。最終文書は「パリ協定の2℃目標と1.5℃の努力目標を再確認する」という表現になり、それほど大きく変わらなかった。1日延長された原因は、土壇場で「石炭火力を”phase out”させる」という表現にインド代表が反対し、”phase down”という表現に修正したためだ。
BBCニュース - 【COP26】 合意採択前に議長、謝罪し涙ぐむ 石炭めぐりhttps://t.co/d0TOc9kYEk pic.twitter.com/qFfYyb5aLn
— BBC News Japan (@bbcnewsjapan) November 14, 2021
これにシャーマ議長が謝罪して言葉を詰まらせたが、泣きたいのは途上国だろう。彼の生まれたインドでは、今も2億人が電力なしで暮らしている。世界では30億人が薪や木炭を料理や暖房に使い、毎年380万人が木材の煙による室内汚染で死亡しているのだ。
COPでは先進国が「途上国はもっと再エネを導入しろ」と要求したが、再エネは電力インフラの整備された先進国で初めて導入できるオマケである。石炭火力もない最貧国に太陽光発電所を導入して、夜は薪で暮らすのか。
最大の脅威は石炭ではなく森林破壊
石炭火力の禁止は、室内汚染を増やして命を奪うだけではない。木材の伐採は森林破壊の原因となり、その脅威は石炭火力よりはるかに大きい。
かつて先進国でも、森林破壊は脅威だった。日本でも江戸時代末期には、全国の山がはげ山になって燃料がなくなった。森林破壊で南米では87%、東南アジアでは67%の動物が失われた。その最大の原因は森林破壊による生息地の喪失である。
今もアフリカでは、燃料の90%は木材である。安価な石炭で電力を供給して木材の伐採を減らすことが室内汚染を減らして命を救い、森林破壊を減らして野生動物を救うのだ。
ところがパリ協定の「2020年までに年1000億ドルの開発援助」という約束は守られなかった。これについてグラスゴー協定は「深く遺憾だ」と書いているが、COP26は先進国の政治家が国内の人気取りをするための「偽善の祭典」なので、途上国の危機には関心がない。
エネルギー基本計画を見直して製造業を建て直せ
今回のCOPの特徴は、2℃目標を1.5℃に強めろという圧力が強まったことだ。これは国際金融資本などが(1.5℃目標と同義の)2050年ネットゼロを見込んだ設備投資計画に合わせて、水素やアンモニアなどへの補助金を各国政府から巻き上げようとしたためだろう。
しかしヨーロッパのもくろみは実現しなかった。1.5℃は努力目標にとどまり、法的拘束力がない。これから各国が自主的にNDC(国内削減目標)をつくるが、条約で義務づけられていない石炭火力の禁止は不可能である。
ただ長期的には石炭火力が禁止されて座礁資産になる確率が高まったので、設備投資は困難になった。火力の償却期間は20年程度なので、長期的な投資計画が立てられない。それが化石燃料への過小投資をもたらし、資源インフレの原因になっている。
消去法で考えると、非化石電源として原子力を見直す時期が来ている。日本は小型原子炉の技術をもっているが、3・11以降のマス・ヒステリーで実用化できない。エネルギー基本計画を見直し、製造業を建て直す必要がある。
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