COP26 はパリ協定の終わりの始まり②
筆者は先月、「COP26はパリ協定の「終わりの始まり」」と題する本サイトに寄稿をしたが、COP26の会議・イベントが進められている中、視点を変えたPart2を論じてみたい。
今回のCOPは、国連の公式発表によれば、交渉官など政府関係者22274人、環境NGOや企業など非政府関係者14124人、メディア関係者3886人の合計40284人が登録・参加しているという。これは国連に正式に登録された参加者であり、この他に会場周辺のサイドイベントやデモ活動などに参加するために集まった人達は、報道によれば10万人を超えるという。
厳しいコロナ対策を解除した英国に、世界中から人がこれだけの人が集まって大規模なイベントが行われているのだから、主催者である英国政府や国連が厳しい対策を実施しているにしても、コロナ感染拡大への影響は気になるところである。
それはさておき、これだけの人を世界中から集めて開かれるCOPというイベント自体の、気候変動問題に対する意味について考えてみる必要があるのではないだろうか。
今回のCOP26の特徴は、これを地球を救う歴史的なCOPにしたいという、イギリス政府、ジョンソン首相の思い入れもあり、期間冒頭の11月1~2日に、世界の首脳を集めた世界リーダーズサミットが行われたことだろう。日本の岸田首相も、総選挙直後という厳しい日程の中で実際に現地入りし、COP会場でスピーチを行い、バイデン米大統領とも対面して言葉を交わしている。
しかしこうした派手な政治イベントの裏で、現地のサンデーメール紙は、開催地であるグラスゴーの空港に各国首脳や企業経営者を運ぶ400機余りの自家用ジェット機が離着陸することになっているとし、トゥデイ・UKニュースによると、こうした自家用ジェットが排出するCO2は1万3千トンにのぼるという。航空会社が定期運航する民間旅客機であれば、政治家や企業トップが搭乗しても、追加的なCO2排出は無視できるほど小さいが、特別に仕立てた自家用ジェットを運行する場合、それによって排出されるCO2はすべて「追加的に」排出されるものとなる。
米バイデン大統領の一行の訪英にあたっては、大統領専用機エアフォース・ワンに加え、代替機や随行員用など、合計4基の大型ジェットが大西洋を渡って飛んでいるという。こうした大陸をまたぐ長距離移動は、岸田首相のとんぼ返り訪問を含めても酌量の余地があるだろう。
しかし地元英国のジョンソン首相も、グラスゴーからロンドンに戻る際に4時間半かかる電車の旅を避けて自家用ジェットと使い、またEUのフォンデアラアイエン欧州委員会委員長も、ブリュッセルとロンドン間を2時間で繋ぐ高速鉄道ではなく、専用機を利用しており、これについては「世界に気候変動対策のために厳しい行動変容を求めながら、自分たちは行動を改めない政治家の偽善そのものだ。」と、環境NGOから厳しく非難する声が上がっていると報道されている。
ましてや、気候変動対策を求めるイベントやデモのため、世界中から何万人もの人が集まるCOPというイベント自体の意味は、今あらためて問われるべきだろう。
COP(正式名:気候変動枠組み条約締約国会議)といっても、実際にパリ協定の実施細則を決めるための国際交渉を行っているのは条約締約国の政府関係参加者に限られ、2万人を超えるNGOや企業などの非政府参加者やメディア関係者は、そうした政府交渉の進捗を外野からフォローして、時には影響を行使するための政府関係者との会合や意見交換を行い、あるいは世界中が注目する中で、様々なテーマについてのサイドイベントや討論会、さらには商品展示会などを行い、それを報道するといった活動のために集まっており、言ってみれば大規模なイベントと見本市が国際交渉と並行して開催されているようなものである。
この4万人もの参加者が毎年集って行われる一大イベントというCOPの建付け自体が、パリ協定の主旨と沿っているものなのかどうか、そろそろ冷静に考え直すべき時なのではないだろうか。
そうした思いを巡らせている中、英国から新たなニュースが入ってきた。この「地球を救うための巨大なイベント」であるCOP26は、英国政府の配慮もあって、会場などイベント全体で使用する電力について、地元スコットランドの風力発電会社グリフィン風力発電と契約し、100% 再エネで賄っているそうである。
ところがリーダーズサミットの当日11月2日はあいにく風が弱く、英国全土の風力発電の稼働率は5%以下に落ち込み、それをバックアップするために石炭火力発電が長時間稼働して何とか供給を支えたということである。
いくら契約上再エネで賄われることになっていても、系統電力に繋がっている以上、COP会場に供給されていた電力も風が吹かなければ火力等の電源でバックアップされていたはずである。(巨大なCOP会場が使用していた電力がどれだけあったかまではわからないが、需要のピークである2日の夕方にその需要がなければ、追加的に焚き増しをした石炭火力発電量はその分だけ抑えられた計算になる。)
公開されている英国の電力需給のデータについて、11月2日の午後から夕方にかけての時間帯の実績を確認すると、風力発電の出力が1GW程度にとどまる一方、石炭火力は2GWとその倍の電力を供給している。夕方18時から18時半の30分間の発電量の電源構成を詳しく見てみると、風力3%、石炭5%、天然ガス発電53%、原子力13%、その他水力、バイオマス等となっており、化石燃料に約6割近く依存した電力が供給されている中で、COP会場では首脳たちが化石燃料の利用制限や石炭火力の廃止を主張するという皮肉が起きていたということになる。
ちなみに同時間帯の英国の電力市場における卸売価格は、風力発電の出力低下の影響が需要のピークである夕方と重なったこともあり、通常の価格の100倍にも上る4000ポンド/MWh(612円/kWh)というべらぼうな価格に跳ね上がっている。
さらに興味深いことに、COP26に電力を供給しているグリフィン風力発電所は、COP開催期間の1週目の7日間(11月1~7日)の累計で、52万ポンド(約8000万円)にのぼる「出力抑制保証金」を受け取ったということである。
首脳会議のあった11月2日はたまたま風が吹かなかったようだが、その週のスコットランド地方はむしろ強風の時間帯が多く、地域の需要を上回る風力発電量が予想され、需給バランスが崩れて停電が発生するリスクが生じたために、グリフィンのような風力発電事業者に発電休止(系統接続解除)の要請が発出され、休止の代償として上記の「出力抑制保証金」が支払われたわけである。
このコストは、もちろん電力消費者が負担することになる。電力消費者は、電力を使ったわけでもなく、ただ風力発電が余剰な発電をしないように「止めていただくため」の費用として8000万円もの電気代の追加負担を消費者は強いられることになる。
これはCOP期間中にたまたま起きた例外的現象ではない。英国のように自然変動する風力や太陽光のような再エネを増やしていくと、再エネ発電量が足りない時には電気代は急騰し、一方余るときにも休止コストを上乗せした電気代が請求されるということが常態化し、電力消費者はダブルパンチを被るということが現実に起きている。
そうした中で、スェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんのように、言いっぱなしの政治ではダメで、今すぐにでもアクションを起こすべしと主張する大勢の人たちが集まり、実施すべきアクションとして、化石燃料を捨て、航空機による移動を制限せよといったこと大声で訴え、またそれを各国の首脳や国連関係者が賛同して盛り立てつつも、それによって実際には化石燃料やジェット機の利用も増えるという、巨大な矛盾をはらんだ政治イベントとしてのCOPを、いままでどおり恒例行事として毎年続けていくことについて、疑念を感じるのは筆者だけだろうか?
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