電気自動車(EV)は本当に環境にやさしいのか

2021年11月08日 07:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

自動車メーカーのボルボが電気自動車C40のライフサイクルCO2排出量を報告した。(ニュース記事

ライフサイクルCO2排出量とは、自動車の製造時から運転・廃棄時までを含めて計算したCO2の量のこと。

図1がその結果で、縦軸が20万キロ走行時のCO2排出量。一番左が同等な内燃機関車(ICE)。残り3つがEVであるC40で、発電の構成によって結果が変わる。左から順に、世界平均(Global electricity mix)、EU平均(EU electricity mix)、そして全て風力で賄った(wind electricity)場合、としている。

EVは製造時(Matrials..およびLi-ion battery..)のCO2排出量がICEの倍近くになっていることが注目される。

図2 はCO2排出量が走行距離と共にどう変わるかを示したもの。EVは走行時のCO2は少ないが製造時のCO2が多いので、ICEを逆転するにはかなり走らないといけない。計算結果は風力発電で49000キロ、EU平均で77000キロ、世界平均だと110000キロになっている。

都会をちょこちょこ走るぐらいであれば、10万キロも走るには何年もかかるから、EVの方がかえってCO2が多い、なんてこともなりかねない。

ボルボは、今後はゼロエミッション電力の調達などで製造時のCO2を減らすとしている。

今回のレポートは、あまりEVに有利なデータとは言えないが、率直にデータを公開した姿勢は大いに評価したい。

しかしこれまた率直に思うのだが、これしかCO2削減のメリットが無いなら、高い費用をかけて慌てて政策的にEVを導入する必要も感じない。

それに問題はCO2だけではない。

EVの製造時には多量の鉱物資源を必要とするが、この生産・精錬は、水質汚染や土壌汚染などの環境問題を抱える

そして人権問題も深刻だ。バッテリーに使用するコバルトの主要産地はコンゴだが、これは児童労働の疑いがもたれている。モーターに使用するレアアース(ネオジム)は中国の内モンゴル自治区で主に生産されているが、同地では文化的ジェノサイドが起きている

EVについては、まずは環境問題や人権問題をクリアしたレアアースなどの鉱物資源の供給体制を確立することが先決ではなかろうか。

クリックするとリンクに飛びます。

「脱炭素」は嘘だらけ

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 2015年6月2日放送。出演は澤昭裕氏(国際環境経済研究所所長、21世紀政策研究所研究主幹)、池田信夫氏(アゴラ研究所所長)、司会はGEPR編集者であるジャーナリストの石井孝明が務めた。5月にエネルギーミックス案、そして温室効果ガス削減目標案が政府から示された。その妥当性を分析した。
  • COP26におけるグラスゴー気候合意は石炭発電にとって「死の鐘」となったと英国ボリス・ジョンソン首相は述べたが、これに反論して、オーストラリアのスコット・モリソン首相は、石炭産業は今後も何十年も事業を続ける、と述べた。
  • IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 IPCC報告では、産業革命が始まる1850年ごろまでは、
  • 九州電力の川内原発の運転差し止めを求めた仮処分申請で、原告は最高裁への抗告をあきらめた。先日の記事でも書いたように、最高裁でも原告が敗訴することは確実だからである。これは確定判決と同じ重みをもつので、関西電力の高浜原発の訴訟も必敗だ。
  • 4月8日、マーガレット・サッチャー元首相が亡くなった。それから4月17日の葬儀まで英国の新聞、テレビ、ラジオは彼女の生涯、業績についての報道であふれかえった。評者の立場によって彼女の評価は大きく異なるが、ウィンストン・チャーチルと並ぶ、英国の大宰相であったことは誰も異存のないところだろう。
  • 2015年2月3日に、福島県伊達市霊山町のりょうぜん里山がっこうにて、第2回地域シンポジウム「」を開催したのでこの詳細を報告する。その前に第2回地域シンポジウムに対して頂いた率直な意見の例である。『食べる楽しみや、郷土の食文化を失ってしまった地元民の悲しみや憤りは察してあまりある。しかし、その気持ちにつけこんで、わざわざシンポジウムで、子供に汚染食品を食べるように仕向ける意図は何なのか?』
  • エネルギーで考えなければならない問題は、原子力だけではありません。温暖化、原発の安全管理、エネルギー供給体制など、さまざまな課題があります。
  • アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。毎週月曜日更新ですが、編集の事情で今回水曜日としたことをお詫びします。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑