IPCC報告の論点⑰:脱炭素で海面上昇はあまり減らない
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。
地球温暖化が起きると、海水が熱膨張し、また氷河や南極・グリーンランドなどの氷が溶けて、海面上昇が起きると予測されている。
IPCC報告の気候モデルは図1(Figure SPM.8 )のような結果を出している。
これを見ると、海面上昇は2020年には25cmだった(1900年比)。
2100年時点の海面上昇は、2050年の排出ゼロといった極端に脱炭素を進めるシナリオ(SSP1-1.9)では55cmぐらいになっている。
他方で、高い排出の場合はどうか。
SSP5-8.5とSSP3-7.0は、何れも排出量が多すぎて現実的ではないことは論点①で述べた。2019年以降、特段の温暖化対策強化をしなくても、SSP2-4.5とSSP3-7.0の中間ぐらいになる。2100年時点で両者の中間を読むと海面上昇は75cmぐらいになっている。
すると、極端な脱炭素に励むことで、2100年の海面上昇は75cmから55cmへ、20cmばかり抑制される訳だ。
20cmの差というのは僅か過ぎて、脱炭素に伴う莫大なコストを正当化することは出来ない。
なぜなら、我々は海面の高さの変化には慣れており、安価に対応出来るからだ。
海面の高さは毎日干満で何メートルも変わる。エルニーニョの影響などによる海流の変化によっても50cmぐらいは変わる。地盤沈下は世界各地で起きていて、東京では50年で4mに達したところもある。これは事実上の海面上昇だ。また日本では地震もあってそのたびに陸地は1mぐらいは隆起沈降する。(詳しくは拙著「地球温暖化のファクトフルネス」を参照)。台風の時の高潮は数メートル、津波はそれ以上の高さになる。
20cmの差が問題になると思うなら、堤防を高くしたり、陸地を造成してかさ上げすればよい。他の災害に対しても強靭になるだろう。2100年までなら、時間はたっぷりある。
ちなみに、どんなに脱炭素に励んでも海面上昇が止まらないのは、そもそも自然現象として氷河の融解などにより海面が上昇してきたこと、および、過去に人類がCO2等を排出してきたことによる。図2を見ると、CO2排出が遥かに少なかった1950年以前も海面は(主に自然現象として)上昇してきていて、2000年以降はそのペースがやや上がったに過ぎないことが分かる。図1を再び見ると、今後起きることは、このペースが更にやや上がるかもしれない、ということだ。
なお最後に付言すると、論点③で述べた様に、気候モデルは明らかに温暖化を過大評価しているものが多くある。図1にその計算結果は混じっているから、海面上昇も過大評価になっていると思われる。
■
1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。
次回:「IPCC報告の論点⑱」に続く
【関連記事】
・IPCC報告の論点①:不吉な被害予測はゴミ箱行きに
・IPCC報告の論点②:太陽活動の変化は無視できない
・IPCC報告の論点③:熱すぎるモデル予測はゴミ箱行きに
・IPCC報告の論点④:海はモデル計算以上にCO2を吸収する
・IPCC報告の論点⑤:山火事で昔は寒かったのではないか
・IPCC報告の論点⑥:温暖化で大雨は激甚化していない
・IPCC報告の論点⑦:大雨は過去の再現も出来ていない
・IPCC報告の論点⑧:大雨の増減は場所によりけり
・IPCC報告の論点⑨:公害対策で日射が増えて雨も増えた
・IPCC報告の論点⑩:猛暑増大以上に酷寒減少という朗報
・IPCC報告の論点⑪:モデルは北極も南極も熱すぎる
・IPCC報告の論点⑫:モデルは大気の気温が熱すぎる
・IPCC報告の論点⑬:モデルはアフリカの旱魃を再現できない
・IPCC報告の論点⑭:モデルはエルニーニョが長すぎる
・IPCC報告の論点⑮:100年規模の気候変動を再現できない
・IPCC報告の論点⑯:京都の桜が早く咲く理由は何か
・IPCC報告の論点⑰:脱炭素で海面上昇はあまり減らない
・IPCC報告の論点⑱:気温は本当に上がるのだろうか
・IPCC報告の論点⑲:僅かに気温が上がって問題があるか?
・IPCC報告の論点⑳:人類は滅びず温暖化で寿命が伸びた
・IPCC報告の論点㉑:書きぶりは怖ろしげだが実態は違う
・IPCC報告の論点㉒:ハリケーンが温暖化で激甚化はウソ
・IPCC報告の論点㉓: ホッケースティックはやはり嘘だ
・IPCC報告の論点㉔:地域の気候は大きく変化してきた
・IPCC報告の論点㉕:日本の気候は大きく変化してきた
■
関連記事
-
日本の電力系統の特徴にまず挙げられるのは、欧州の国際連系が「メッシュ状」であるのに対し、北海道から 九州の電力系統があたかも団子をくし刺ししたように見える「くし形」に連系していることである。
-
9月29日の自民党総裁選に向け、岸田文雄氏、高市早苗氏、河野太郎氏、野田聖子氏(立候補順)が出そろった。 主要メディアの報道では河野太郎氏がリードしているとされているが、長らくエネルギー温暖化政策に関与してきた身からすれ
-
日本最大級の言論プラットホーム・アゴラが運営するインターネット放送の「言論アリーナ」。6月25日(火曜日)の放送は午後8時から1時間にわたって、「原発はいつ再稼動するのか--精神論抜きの現実的エネルギー論」を放送した。
-
エネルギー基本計画の主要な目的はエネルギーの安定供給のはずだが、3.11以降は脱炭素化が最優先の目的になったようだ。第7次エネ基の事務局資料にもそういうバイアスがあるので、脱炭素化の費用対効果を明確にしておこう。 「20
-
著者はIPCCの統括執筆責任者なので、また「気候変動で地球が滅びる」という類の終末論かと思う人が多いだろうが、中身は冷静だ。
-
1. 寒冷化から温暖化への変節 地球の気候現象について、ざっとお浚いすると、1970~1980年代には、根本順吉氏らが地球寒冷化を予測、温室効果ガスを原因とするのではなく、予測を超えた変化であるといった立場をとっていた。
-
あらゆる手段を使って彼の汚点を探せ!というのが、フェーザー内相(社民党・女・53歳)の極秘命令だったらしい。 彼というのはシェーンボルム氏。2016年より、サイバーセキュリティの監視などを担当するBSI(連邦情報セキュリ
-
2023年からなぜ急に地球の平均気温が上がったのか(図1)については、フンガトンガ火山噴火の影響など諸説ある。 Hunga Tonga volcano: impact on record warming だがこれに加えて
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間