バイデンの矛盾に矛盾を重ねた石油政策
バイデンの石油政策の矛盾ぶりが露呈し、米国ではエネルギー政策の論客が批判を強めている。
バイデンは、温暖化対策の名の下に、米国の石油・ガス生産者を妨害するためにあらゆることを行ってきた。党内の左派を満足させるためだ。
バイデンは大統領に就任した当日に、カナダからメキシコ湾岸の精製業者に石油を輸送するためのキーストーンXLパイプラインの許可を取り消し、石油・ガス生産のための連邦政府の土地の新規リースを停止した。
ところが一方で、サウジアラビアやロシアなどに対しては、価格を下げるために石油を増産するよう口説いていた。
しかし今月初め、石油生産者のカルテルであるオペックは、世界市場への原油放出の要請をあっさりと拒否し、バイデン政権は屈辱を味わうことになった。
米国のジェイク・サリバン国家安全保障顧問は、サウジアラビアやロシアを含むオペック・プラス(拡大したオペック)に対して、「世界的な景気回復の重要な時期に不十分な原油生産レベル」であると不満を述べていた。だがオペック・プラスは、現状の生産計画で十分に需要が賄える、として応じなかった。
米国では医療(メディケア)、税額控除、気候変動対策などに関する3.5兆ドルの予算案が上院で承認された。だが足元ではインフレ懸念が高まりつつあり、野党共和党の攻撃材料にもなって、バイデン政権も神経質になっている。
中でもガソリン価格の高騰は、庶民の目に最も公然と判るだけに、厄介な問題である。折しも米国のガソリン価格は今夏、2014年以来の高水準を記録している。
それにしてもタイミングが悪かった。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が第6次評価報告書を発表し、アントニオ・グテーレス国連事務総長が「世界の気候が危機にある」と訴えた僅か2日後に、米国がオペック・プラスに石油増産を要請したのは、まったく矛盾している。
のみならず、バイデン政権は、世界最大の石油・ガス生産国である自国の石油・ガス産業を全力で妨害する一方で、ガソリン価格が上がることで政権が批判されるのを回避すべく、サウジアラビアやロシアなどの必ずしも友好的ではない石油大国には増産を求める、というこれまた矛盾したことをやってきた。
まるきりチグハグで、国益を損なうものだ。
■
関連記事
-
菅首相が昨年11月の所信表明演説で2050年にCO2をゼロにする、脱炭素をする、と宣言して以来、日本中「脱炭素祭り」になってしまった。 日本の同調圧力というのはかくも強いものなのかと、ほとほと嫌になる。政府が首相に従うの
-
高まる国際競争力への懸念欧州各国がエネルギーコストに神経を尖らせているもう一つの理由は、シェールガス革命に沸く米国とのエネルギーコスト差、国際競争力格差の広がりである。IEAの2013年版の「世界エネルギー展望」によれば、2012年時点で欧州のガス輸入価格は米国の国内ガス価格の4倍以上、電力料金は米国の2-2.5倍になっており、このままでは欧州から米国への産業移転が生ずるのではないかとの懸念が高まっている。
-
東京都知事選投票日の翌朝、テレビ取材のインタビューに小泉純一郎氏が晴れ晴れとして応えていた。この歳になってもやれると実感したと笑みをこぼしていた。なんだ、やっぱり寂しい老人の御遊びだったのか。インタビューの随所からそんな気配が読み取れた。
-
高速増殖炉もんじゅ(福井県敦賀市) 政府は、高速増殖炉(FBR)「もんじゅ」を廃炉にする方針を明らかにした。これはGEPR(記事「「もんじゅ」は研究開発施設として出直せ」)でもかねてから提言した通りで、これ以外の道はなか
-
「カスリーン台風の再来」から東京を守ったのは八ッ場ダム 東日本台風(=当初は令和元年台風19号と呼ばれた)に伴う豪雨は、ほぼカスリーン台風の再来だった、と日本気象学会の論文誌「天気」10月号で藤部教授が報告した。 東日本
-
注目されてきたのがカーボンプライシング(Carbon Pricing)である。カーボンプライシングとは炭素(CO2)の排出に価格付けを行うことで、企業などにCO2排出を「費用」と認識させ、費用削減のインセンティブを通じて、CO2排出抑制への取り組みを促すことを狙ったものである。
-
原発事故に直面して2年が経過した福島の復興をめぐって、何ができるのか。それを考える前提として、まず現状を知る事ではないでしょうか。
-
途上国の勝利 前回投稿で述べたとおり、COP27で先進国は「緩和作業計画」を重視し、途上国はロス&ダメージ基金の設立を含む資金援助を重視していた。 COP27では全体決定「シャルム・エル・シェイク実施計画」、2030年ま
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間