消費税倍増に匹敵する温暖化対策の9年後の負担
以前書いたように、再生可能エネルギー賦課金の実績を見ると、1%のCO2削減に1兆円かかっていた。
菅政権が26%から46%に数値目標を20%深堀りしたので、これは年間20兆円の追加負担を意味する。
20兆円の追加負担は現在の消費税20兆円の倍増に匹敵する。
これを全額家庭の電気料金から徴収するならば、3人世帯の電気料金は現在の5倍で年間60万円になる。
多くの人々は、電気代が5倍になったら、冷暖房を止めるだろう。日本でも昔は電気代が高くて冷暖房をしない人がいたが、またそのころに戻るということだ。
以下、少し詳しく書こう。
菅政権はこれまで「2013年比で26%削減」だった目標を「46%削減」まで深堀りしてしまった。これはどれだけの国民負担になるか。
20%の深堀りだから、以前説明した「1%イコール1兆円」を適用すると年間20兆円になる。
20兆円というのは現在の消費税の総額に奇しくも等しい注1)。つまり20%の目標深堀りの国民負担は消費税の倍増に匹敵するのだ。
さて2030年の日本の人口は1億2千万人と予測されている。年間20兆円なら、一人あたりだと約16万円になる。世帯人数が3人なら、48万円だ。
普通の家庭の電気料金が毎月1万円、つまり年間12万円程度とすると、それに48万円が上乗せされて、電気代は5倍、合計約60万円になる。
もちろん実際には、これは家庭の電気料金だけでなく、企業の電気料金からも徴収されるだろう。しかし全ては結局は国民が負担する。それに、企業は国際競争に晒されているから、その負担は軽減される代わりに、家庭に重くのしかかることは十分に予想される。
政府としては、「太陽光発電はもう安くなったから、今後はコストはあまりかからない」、と言うかもしれない。
だが、どうだろうか。太陽光発電の置きやすい場所は減っていく一方であるし、晴れた時しか発電しないという不安定さがあるために、導入が進むほど送電線の増強やバッテリーの導入などの対策費用がかさむ。晴天時に一斉に発電する場合には余った電気は捨てなければならない。
それに「新築住宅への太陽光発電義務付け」「公用車の電気自動車化」など、政府はわざわざコストのかかる政策を選択して実行することが得意だ。「政府の失敗」に陥りやすいのは相変わらずだ。
そして、近年太陽光パネルが安くなった最大の理由は、中国の新疆ウイグル自治区で生産された製品を輸入してきたことだ。これには強制労働の関与が疑われている注2)。米国シンクタンクCSISの報告では、不正な貿易慣行を理由に中国製太陽光パネルの輸入を止めた米国では太陽光パネルの値段は約2倍になった注3)という。
そして何より、2030年といえば今からあと僅か9年しかない。2019年の温室効果ガス排出量は14.0%減だったから注4)、そこから一気に32%も減らすことになる。短期間に無理をするので、相当に高くつく対策ばかりになるだろう。
多くの人々は、電気代が5倍になったら、冷暖房を止めるだろう。日本でも昔は電気代が高くて冷暖房をしない人がいたが、またそのころに戻るということだ。
英国ではenergy poverty (エネルギー貧困)という言葉がある。電気やガスの値段が高いので、暖房をつけず、マフラーや帽子をして布団にくるまって寒さをしのぐお年寄りがまだたくさんいる。(映画「チャーリーとチョコレート工場」に出てくる少年チャーリーの家もそうだ)。
「脱炭素」で電気代がどこまで上がるのか。いま政府では「46%」に辻褄を合わせるための具体的な政策の検討が進んでいる。国民は、ご無体な負担が降りかかってくることの無いよう、よく動向を注視し、声を上げねばならない。
さもなければ、9年後には寒さに凍えるか、あるいは反乱でも起こすしかなくなるかもしれない。
注1)財務省、一般会計税収の推移
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/010.pdf
注2)杉山大志「太陽光発電」推進はウイグル人権侵害への加担か、Daily WiLL Online(デイリー ウィルオンライン)
https://web-willmagazine.com/energy-environment/8Rhc7
注3)A Dark Spot for the Solar Energy Industry: Forced Labor in Xinjiang、Center for Strategic and International Studies
https://www.csis.org/analysis/dark-spot-solar-energy-industry-forced-labor-xinjiang
注4)2019年度(令和元年度)の温室効果ガス排出量(確報値)について
https://www.env.go.jp/press/109480.html
■
関連記事
-
従来から本コラムで情報を追っている「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」だが2月22日に第三回の会合が開催され、非常に多くの課題とその対策の方向性が議論された。事務局としては再エネ発電事業者の不満
-
以前、世界全体で死亡数が劇的に減少した、という話を書いた。今回は、1つ具体的な例を見てみよう。 2022年で世界でよく報道された災害の一つに、バングラデシュでの洪水があった。 Sky Newは「専門家によると、気候変動が
-
停電の原因になった火災現場と東電の点検(同社ホームページより) ケーブル火災の概要 東京電力の管内で10月12日の午後3時ごろ停電が発生した。東京都の豊島区、練馬区を中心に約58万6000戸が停電。また停電は、中央官庁の
-
GEPRフェロー 諸葛宗男 今、本州最北端の青森県六ケ所村に分離プルトニウム[注1] が3.6トン貯蔵されている。日本全体の約3分の1だ。再処理工場が稼働すれば分離プルトニウムが毎年約8トン生産される。それらは一体どのよ
-
不正のデパート・関電 6月28日、今年の関西電力の株主総会は、予想された通り大荒れ模様となった。 その理由は、電力商売の競争相手である新電力の顧客情報ののぞき見(不正閲覧)や、同業他社3社とのカルテルを結んでいたことにあ
-
菅首相が「2050年にカーボンニュートラル」(CO2排出実質ゼロ)という目標を打ち出したのを受けて、自動車についても「脱ガソリン車」の流れが強まってきた。政府は年内に「2030年代なかばまでに電動車以外の新車販売禁止」と
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンク「GEPR」(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
-
米国のウィリアム・ハッパー博士(プリンストン大学物理学名誉教授)とリチャード・リンゼン博士(MIT大気科学名誉教授)が、広範なデータを引用しながら、大気中のCO2は ”heavily saturated”だとして、米国環
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間