ジェフ・ベゾスの野望:人類1兆人計画
7月21日(日本時間)、Amazonの創始者ジェフ・ベゾスと3人の同乗者が民間初の宇宙飛行を成功させたとして、世界中をニュースが駆け巡った。ベゾス氏の新たな野望への第一歩は実に華々しく報じられ、あたかもめでたい未来への一歩のように映る。しかし、ベゾスのパフォーマンスを単にナイーブに祝福してよいのだろうか。彼の言動の背景には、人類の未来を蒙くさせるといっても過言ではない思想がある。
(TBS NEWS YouTubeチャンネルより)
宇宙飛行とは
地球の外を宇宙とすると、地球に暮らす私たちから見てどこまで上空に行けば宇宙に出たことになるのだろうか?それに対しては、いくつかの定義があるが、国際航空連盟は高度100キロメートルから先を宇宙と定義している。海面上100キロメートルの仮想ラインをカルマン・ライン(カーマン・ライン)というが、これはハンガリーの天才科学者フォン・カルマンが、飛行体が自らの重さを揚力によって支えることができるだけの大気があるギリギリの線としたことに由来している。
今回、ベゾスらが乗った弾道飛行ロケット「ニュー・シェパード」は、このカルマン・ラインあたりまで到達した模様である。弾道飛行なので、スペースシャトルのように地球を周回する軌道には乗っていない。また、スペースシャトルは、海面から約400キロメートル上空を周回し、より分厚い大気の層を突き抜けて再突入するので無事に帰還する難易度が高い。その点でも、ニュー・シェパードは宇宙飛行でありながら、再突入の難易度が最も低い層を狙ったといえる。
人類1兆人計画―テラフォーミング
〝民間初の宇宙飛行〟と聞けば、誰でも宇宙旅行ができる時代――ただし金さえ出せばとか、ジュール・ベルヌの『月世界旅行』を思い浮かべたりする。しかし、ベゾスの狙いはそのような生半可なものではない。野望はもっとその先にある。ベゾスは、人類が地球をはみ出して生存していく未来を開拓しようと目論んでいるのである。人類の総人口がこの先100億人を超え、さらに1000億人、1兆人となるためには・・・当然地球をはみ出していかざるを得ない。
地球外に地球と同じように人が生存していける環境を作る。つまり、テラフォーミングの未来を見込んでいるのである。テラとは地球のことである。テラフォーミングは文字通り『地球形成』の意味である。人類が移住し、様々な動植物を移植できるように、月や火星のみならず太陽系外惑星をも地球と同じように改造(形成)することだ。テラフォーミングを実現するためには、大規模なエンジニアリングが必要不可欠である。それは、地球のような惑星規模のエンジニアリングから、太陽系、さらには銀河系全体の規模の人工物を造ることもありうる。例えば、金星をテラフォーミングするには、500℃にもなる大気温度を下げる必要ある。そのために、金星の大気圏外に金星の一部を覆うような巨大な日傘を造るというアイデアがある。日傘に太陽光パネルを貼り付ければ、それは宇宙太陽光発電所にもなる。
しかしながら、ベゾス氏の言動は、まさに宇宙規模に拡大されたコロニアリズム(植民地主義)の表れである。
新たなる苦悩―環境問題は宇宙へ
このように宇宙旅行からその先を目指す起業家はベゾスのみならず、リチャード・ブランソンや日本ではホリエモンなどがいる。
今回のベゾス氏のパフォーマンスには、多額の資金を無駄遣いせず、足元の環境問題やSDGsの普及促進のために使うべきだという批判がある。私たちは、気候変動、貧困、格差、分断、紛争、戦争などなかなか容易には解決できない問題に日々直面している。
これに対して、ベゾス氏の言い分は「すべての重工業、すべての公害産業を宇宙に移し、地球を美しい宝石のような惑星に保つ必要がある」という注1)。しかし、それは問題を地球の外へと押し出すだけであって、本質的な問題解決にはなんら貢献するところがない。
今先進国が享受している豊かさは、環境負荷の増強や劣悪な労働環境という犠牲の上に成り立ってっている。つまり、環境問題も安価な労働力も途上国に押しつけて外部化する植民地主義で成り立ってきた。それを宇宙規模に拡大して外部化していいのか?地球さえ「美しい宝石のような惑星」に保てば、宇宙の他の星々を人類の都合で改変して汚していいのだろうか。
関連記事
-
経済学者は、気候変動の問題に冷淡だ。環境経済学の専門家ノードハウス(書評『気候変動カジノ』)も、温室効果ガス抑制の費用と便益をよく考えようというだけで、あまり具体的な政策には踏み込まない。
-
1.はじめに 雑誌「選択」の2019年11月号の巻頭インタビューで、田中俊一氏(前原子力規制委員会(NRA)委員長)は『日本の原発はこのまま「消滅」へ』と題した見解を示した。そのなかで、日本の原子力政策について以下のよう
-
チェルノブイリ原発事故によって放射性物質が北半球に拡散し、北欧のスウェーデンにもそれらが降下して放射能汚染が発生した。同国の土壌の事故直後の汚染状況の推計では、一番汚染された地域で1平方メートル当たり40?70ベクレル程度の汚染だった。福島第一原発事故では、福島県の中通り、浜通り地区では、同程度の汚染の場所が多かった。
-
リスク情報伝達の視点から注目した事例がある。それ は「イタリアにおいて複数の地震学者が、地震に対する警告の失敗により有罪判決を受けた」との報道(2012年 10月)である。
-
米朝首脳会談の直前に、アメリカが「プルトニウム削減」を要求したという報道が出たことは偶然とは思えない。北朝鮮の非核化を進める上でも、日本の核武装を牽制する必要があったのだろう。しかし日本は核武装できるのだろうか。 もちろ
-
ちょっとした不注意・・・なのか 大林ミカさん(自然エネルギー財団事務局長)が一躍時の人となっている。中国企業の透かしロゴ入り資料が問題化されて深刻度を増しているという。 大林さんは再生可能エネルギーの普及拡大を目指して規
-
福島第一原発事故をめぐり、社会の中に冷静に問題に対処しようという動きが広がっています。その動きをGEPRは今週紹介します。
-
マサチューセッツ工科大学(MIT)の科学者たちによる新しい研究では、米国政府が原子力事故の際に人々が避難すること決める指標について、あまりにも保守的ではないかという考えを示している。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間