ESGの旗を振る欧米金融機関が人権抑圧の香港で事業拡大
環境(E)・社会(S)・企業ガバナンス(G)に配慮するというESG金融が流行っている。どこの投資ファンドでもESG投資が花ざかりだ。
もっともESG投資といっても、実態はCO2の一部に偏重しているうえ、本当に環境に優しいものが投資対象になっているのかは疑わしいようだ(藤枝氏記事)。
そしてそのESG投資の旗を振っている欧米の大手金融機関が、人権抑圧にはお構いなしに中国での事業を拡大している。
![](https://agora-web.jp/cms/wp-content/uploads/2021/07/iStock-466733790-660x472.jpg)
cozyta/iStock
いま中国は外資導入を進める政策を実施している(ロイター)。金融機関はこれを儲ける機会だと捉えているようだ。
ゴールドマンサックスは、中国工商銀行と資産運用業務をする合弁企業を設立した(ロイター)。
ブラックストーンは、中国の不動産大手SOHO中国を買収した(東洋経済オンライン)。
人権抑圧が問題になっている香港でも事業拡大が伝えられている。
ゴールドマン・サックス、シティグループ、UBSなど大手銀行は今年、それぞれ香港で数百人規模の採用を行い、陣容を大幅に拡大した。例えばシティは、採用と配置転換により年初来で人員を1500人増強した。採用規模は前年同期の2倍に膨らんだ。香港の人員は約4000人になった(ロイター)。
そして香港取引所では、米金融大手JPモルガン・チェース元幹部のニコラス・アグジン氏が、香港取引所(HKEX)の最高経営責任者(CEO)に就任した(共同)。
以上はいずれもこの5月から6月にかけて起きたことだ。
欧米の大手金融機関は、香港から逃げ出すどころか、逆に香港での事業を拡大している。狙いはもちろん、香港を窓口とした中国との取引きによる利益だ。
中国側もこれで潤っている。今年1-5月に中国本土系を中心とする企業が香港市場の上場で調達した資金は、過去4年間の同期間の合計を突破したという(ロイター)。
米国の制裁はどうなっているかというと、制裁対象になった企業は香港での投資対象からは外されている。しかし中国本土の投資家は、売りに出された制裁対象企業の株を積極的に買っているそうだ(日経)
香港を拠点にする米企業は4割以上が撤退を検討しているという報道もある(Bloomberg)。
しかしながら、大手の欧米金融機関が全然撤退しないどころか事業を拡張するのであれば、今後、香港も中国も経済的に全く困らないだろう。
金融機関はみなESG投資に熱心だ。
ゴールドマンサックスも、JPモルガンもESGファンドに力を入れていて、投資を募っている。
ブラックストーンは、投資先にESG関連での定期報告を要請することになった、と報道されている。
ESG投資は「環境にやさしい」ということで富裕層に人気があるという。
だがその一方で、同じ欧米金融機関が、人権抑圧にはお構いなしに香港に投資を続け、結果として香港における人権抑圧を容認してしまっている。
この欧米金融機関の行動が中国に送っているメッセージは深刻だ。「人権侵害をしても、香港ひいては中国の経済に悪影響は無い」というメッセージを送ってしまっているのだ。
ESGのSは社会であり、人権は当然含まれる。ESGのGは企業ガバナンスであり、企業経営の健全性が問われる。
人権を無視して企業経営を進めることは、本来は大きなリスクをはらむはずだが、欧米金融機関はたいしたリスクではないと踏んでいるのであろう。
欧米の政府はこのような金融機関の行動をどう思っているのだろうか。
「資本主義者は自分の首を吊る縄まで売りに来る」とは金の亡者ぶりを嘲笑ったレーニンの言だ。
いま北京政府はこの言葉を思い出し、笑いが止まらないだろう。
■
![This page as PDF](https://www.gepr.org/wp-content/plugins/wp-mpdf/pdf.png)
関連記事
-
横浜市が市内の小中学校500校のうち65校の屋根にPPAで太陽光発電設備を設置するという報道を見ました。記事からは分かりませんが、この太陽光パネルの製造国はどこなのでしょう。 太陽光発電、初期費用なしPPAが設置促す 補
-
今、世の中で流行っているSDGs(Sustainable Development Goals)を推進する一環として、教育の面からこれをサポートするESD(Education for Sustainable Develop
-
過去10年のエネルギー政策においては、京都議定書のエネルギー起源CO2排出削減の約束水準が大前提の数量制約として君臨してきたと言える。当該約束水準の下では、エネルギー政策の選択肢は「負担の大きい省エネ・新エネ」か「リスクのある原子力発電」か「海外排出権購入」かという3択であった。
-
昨年の地球の平均気温は、観測史上最高だった。これについて「その原因は気候変動だ」という話がマスコミには多い。 気候変動の話をすると、「地球の歴史からするとこの程度は昔もあった」というコメントがつくのだが、現生人類も文明も
-
燃料電池自動車の市場化の目標時期(2015年)が間近に迫ってきて、「水素社会の到来か」などという声をあちこちで耳にするようになりました。燃料電池を始めとする水素技術関係のシンポジウムや展示会なども活況を呈しているようです。
-
日本に先行して無謀な脱炭素目標に邁進する英国政府。「2050年にCO2を実質ゼロにする」という脱炭素(英語ではNet Zeroと言われる)の目標を掲げている。 加えて、2035年の目標は1990年比で78%のCO2削減だ
-
台湾が5月15日から日本からの食品輸入規制を強化した。これに対して日本政府が抗議を申し入れた。しかし、今回の日本は、対応を間違えている。台湾に抗議することでなく、国内の食品基準を見直し、食品への信頼感を取り戻す事である。そのことで、国内の風評被害も減ることと思う。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間