中国、インド、ロシア、豪州・・炭鉱開発は止まらない

2021年06月11日 07:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

CO2を多く排出するとして、ここのところ先進国ではバッシングを受けている石炭事業だが、世界には多くの炭鉱開発計画がある。

erlucho/iStock

最近出た環境団体グローバル・エナジー・モニターの報告によると、世界で提案されている新しい炭鉱開発事業は合計で年間22億トンの産出量に上り、これがすべて実現するとなると、現在の世界の石炭生産量から30%の増加になるという。(解説記事

図は、国ごとに、2019年現在の石炭産出量を青で、現在提案されている炭鉱開発事業をオレンジで書いたもの。

炭鉱開発事業は432件に上り、中国、ロシア、インド、オーストラリアの少数の州が新規開発事業の77% (年間17億トン) を担っていることがわかった。

州ごとのランキングでは以下の図のようになる:

1位は豪州北東部のクイーンズランドで約350mtpa。mtpa(=mega ton per annumの略)とは年間100万トンの意味だから、実現すれば年間3.5億トンの生産量、ということになる。日本の年間消費量は1.88億トンだから、その2倍近くとなる。

豪州からは9位にニューサウスウェールズもランクインしている。

2位以下には中国から内モンゴル、新疆、陝西、山西と、4つの省・自治区の名前が見える。

インドからは3位のジャルカンド、5位のオディーシャー(旧名オリッサ)がある。

6位にはロシア、10位には南アフリカからランクインしている。

同報告によると、提案されている炭鉱のうち年間生産量にして4分の3(年間16億トン) は計画の初期段階にあり、キャンセルされる可能性があるけれども、4分の1(年間6億トン)はすでに建設中である、としている。

さて今後どうなるか。先進国では石炭バッシングの動きがあるので、豪州の炭鉱開発には影響があるかもしれない。

その一方で、新興国である中国、インド、ロシア、南アフリカでは、経済開発はもちろん重要であるから、そう簡単に止める訳にはいかないだろう。特に中国・インドでは事業の担い手は国営企業であり、民営企業が運営する先進国の事業よりも環境運動の影響を受けにくい。

石炭は国際的に貿易されているから、豪州の炭鉱開発が止まると、中国やロシアの炭鉱事業者はライバルが減って喜ぶことになるだろう。

中国・ロシアと先進国環境運動家には、奇妙な同盟関係が成立している訳だ。

地球温暖化のファクトフルネス

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 電力自由化は、送電・配電のネットワークを共通インフラとして第三者に開放し、発電・小売部門への新規参入を促す、という形態が一般的な進め方だ。電気の発電・小売事業を行うには、送配電ネットワークの利用が不可欠であるので、規制者は、送配電ネットワークを保有する事業者に「全ての事業者に同条件で送配電ネットワーク利用を可能とすること」を義務付けるとともに、これが貫徹するよう規制を運用することとなる。これがいわゆる発送電分離である。一口に発送電分離と言ってもいくつかの形態があるが、経産省の電力システム改革専門委員会では、以下の4類型に大別している。
  • 私は翻訳を仕事にしている主婦だ。そうした「普通の人」がはじめた取り組み「福島おうえん勉強会・ふくしまの話を聞こう」第一回、第二回を紹介したい。
  • 鹿児島県知事選で当選し、今年7月28日に就任する三反園訓(みたぞの・さとし)氏が、稼動中の九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)について、メディア各社に8月下旬に停止を要請する方針を明らかにした。そして安全性、さらに周辺住民の避難計画について、有識者らによる委員会を設置して検討するとした。この行動が実現可能なのか、妥当なのか事実を整理してみる。
  • 国連総会の一般討論演説において、中国の習近平国家主席は「2060 年迄にCO2 排出量をゼロ」ように努める、と述べた。これは孤立気味であった国際社会へのアピールであるのみならず、日米欧を分断し、弱体化させるという地政学的
  • 鈴木達治郎 猿田佐世 [編] 岩波ブックレット 岩波書店/520円(本体) 「なぜ日本は使いもしないプルトニウムをため続けるのか」。 米国のエネルギー政策、原子力関係者に話を聞くと、この質問を筆者らは頻繁に受けるという。
  • 共同通信PRワイヤー
    新たな調査により、低酸素の未来に向けた動きが加速するエネルギー部門において優先事項が変化していることが明らかになりました。再生可能エネルギーやエネルギー効率などの破壊的ともいえる新技術が、2017年の世界のエネルギーリーダーにとっての行動の優先順位にインパクトを与えているのです。
  • 日米のニュースメディアが報じる気候変動関連の記事に、基本的な差異があるようなので簡単に触れてみたい。日本のメディアの詳細は割愛し、米国の記事に焦点を当ててみる。 1. 脱炭素技術の利用面について まず、日米ともに、再生可
  • 去る6月23日に筆者は、IPCC(国連気候変動政府間パネル)の議長ホーセン・リー博士を招いて経団連会館で開催された、日本エネルギー経済研究所主催の国際シンポジウムに、産業界からのコメンテーターとして登壇させていただいた。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑