「50年脱炭素」法に意味はあるのか
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智
5月26日、参議院本会議で「2050年までの脱炭素社会の実現」を明記した改正地球温暖化対策推進法(以下「脱炭素社会法」と略記)が、全会一致で可決、成立した。全会一致と言うことは、国会議員諸氏の誰一人として異論を唱えず、賛成したということだ。全員ハナから、人類の排出するCO2が原因で大気中CO2濃度が上がり、それに伴って気温が上昇すると言う「人為的温暖化説」を信じているから、このような事態になるわけだ。それほどまでに、国連やIPCCの影響力が大きいとも言えよう。しかし、筆者から見ると、この事態は、一種の「集団催眠術」のように思える。
ところが、ハッと目覚めて、改めて振り返ると、たとえ「人為的温暖化説」が正しいとしても、日本が排出しているCO2は、世界の3%程度に過ぎないことに気がつく。すなわち、2050年に「排出ゼロ」が達成できたとしても、世界への貢献度は3%しかない。これを実現するのに必要なお金を考えると、気の遠くなるような金額になる。この点は、麻生財務大臣も触れたようだ。同大臣は「義務教育は小学校までで良い、微分積分や因数分解など義務として習う必要はない」等と述べて物議をかもしたりしているが、この3%の指摘だけは同意できる(小学校までの教育だと、H2とH2Oの区別さえできない人間が輩出することになるが、その点はしばらく措く)。
今この時点で、あれこれよ〜く考えて、我々が検討すべき問題を整理すると次のようになると思う。
① 「人為的温暖化説」は、実際にどの程度正しいのか?
② 脱炭素社会とは、どんな世界なのか?or どんな社会であるべきなのか?
国会議員諸氏は、これらの問題をどの程度真剣に検討して「脱炭素社会法」に賛成したのか、ぜひお考えを伺いたい。まさか「皆がそう言っているから・・」とは言わないですよね?
さて、①の問題はさらに、
- 地球気温は実際に上昇し続けているのか?
- 大気中CO2濃度変化の主な要因は人類の排出するCO2なのか?
- 地球気温と大気中CO2濃度は本当に連動して変化しているのか?
と言った問題に分かれ、それぞれ科学的な測定データに基づく推理と論理の積み重ねで判定されるべきものである。
ここでこれらを詳しく議論する紙幅はないが、例えば地球気温をめぐる種々の問題に関して、GEPRにも幾つも有用な情報が載っている。
「真の地球温暖化の速度を測る:米国と日本の挑戦」
「地球の気温、4月は更に低下」
「「小氷河期」(1300-1917)は寒く異常気象も多かった」
さらに大気中CO2濃度変化データは、気象庁HPその他、どこでも入手出来る。
これらを見れば、大気中CO2濃度は、測定開始以来一貫してほぼ一定速度で増加しているのに対し、地球気温は細かな上下を繰り返しながら、長期的には緩やかに上昇しているのが分かる。その上昇速度は、気象庁データでは100年当り0.72℃、アラバマ大学のロイ・スペンサーによる人工衛星観測データでは同1.4℃(10年当たり0.14℃となっている)である。後者は前者の約2倍大きいが、それでもパリ協定での目標値「今世紀末までに1.5℃以内」と言うのは、今のまま何もしなくても達成できそうだとなる。
すなわち、気温データで見る限り、IPCCや温暖化論者の主張する今世紀末3〜5℃もの上昇は、とても予想できないはずである。国会議員諸氏は、これらのデータをチェックしたのだろうか?このデータ通りだと、脱炭素社会法など不要になるのだが?
折しも、5月27日に、世界気象機関(WMO)が、2025年までに「産業革命前に比べて、平均気温が1.5度以上高い」年が発生する可能性が40%以上あるとの見通しを発表したとのニュースが届いた。
しかしこれは、同機関がIPCC等のプロパガンダ役を果たしていることを、はしなくも示したものと言える。なぜなら、曲がりなりにも世界全球の平均気温を科学的に測定できるようになったのは、1979年の人工衛星観測が始まってからで、産業革命前の地球平均気温が何度だったか、正確には分からないはず(少なくとも0.1℃の精度では無理)だから。「産業革命前から1.5℃」などとは、単なるスローガンであって、科学的根拠に基づく値ではない。
それに、アラバマ大学の観測データ図でも分かるように、地球気温は毎年かなり大きく変動しており、-0.5→+0.6℃など、1年で1℃以上変動することは稀でないから、1.5℃高いからと言って大騒ぎするほどのこともない。気温は、上がったり下がったりし続けている。「可能性が40%以上ある」と言った表現も要注意で、外れても言い訳できるように逃げ道を準備してあるのである。
また、気温と大気中CO2濃度変化データを見比べれば、長期的トレンドでは共に上昇とは言え、細かく見ると両者の変動の仕方は、まるで違う。CO2濃度は、規則正しく上下(これは主に季節変動)しながら、驚くべき一定速度で上昇しているのに対し、気温の方は毎月激しく上下しながら、周期的に揺れ動いている。例えば今年の3月と4月は、データで見る限り気温低下が著しかった。かなり贔屓目に見ても、両者が密接に相関しているとは言い難い。
大気中CO2濃度変化データでもう一つ注目すべきは、その変化の一定さである。人間社会では、リーマンショックやらコロナ禍やらで景気が変動し、化石燃料消費量もそれに伴って上下するのであるが、大気中CO2濃度は何事もなかったかのように規則的に上昇している。「地上では人間どもが何やらワーワー言っているが、オレたち大気中CO2には関係ない話さ」と言っているみたいに。
実は、その理由は、科学的にほぼ説明できる。うんと簡略化して説明するが、地球上で自然界で海・陸と大気間で交換されるCO2量は、年間約200ギガトン(炭素)以上あるのに対し、人類が放出するそれは約10ギガトン(炭素)未満、つまり5%程度に過ぎない(人類放出量は、化石燃料消費と森林消失等を含む)からである。なお、この数字はIPCCの報告書にも記載された値である(ギガは109、すなわち10億の意味)。つまり、大気中CO2変動量の大半は、自然界由来である。
一方、大気中CO2濃度は毎年約1.9 ppmずつ増加しており、これは炭素換算で3〜4ギガトンに相当する。これは、大気の量(表面積×高さ)に炭素濃度を掛けて、計算で求められる。この残留CO2のうち、人類起源がどれだけあるかと言えば、発生量に比例するはずだから、10/(200+10)すなわち4.7%しかないので、0.14〜0.19ギガトンである。人類がCO2発生を全て止めても、この値なのである。日本は、世界の3%しかないから、排出正味ゼロにしても4.7×0.03=0.14%しか減らない。焼け石に水と言おうか、ごまめの歯ぎしりと言おうか、悔しくてもそうなのである。
以上、ここまでで、最初に述べた「人為的温暖化説」の、どれ一つとして成り立っていないことが明らかになる。「脱炭素社会法」の存在意義は、一体どこにあるのか?
なお、本稿では問題①しか扱えなかったが、本当に重要なのは問題②である。これは次回以降に。
■
松田 智
2020年3月まで静岡大学工学部勤務、同月定年退官。専門は化学環境工学。主な研究分野は、応用微生物工学(生ゴミ処理など)、バイオマスなど再生可能エネルギー利用関連
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