CO2で米国左派の生贄にされる日本
4月16日の日米首脳会談を皮切りに、11月の国連気候変動枠組み条約の会議(COP26)に至るまで、今年は温暖化に関する国際会議が目白押しになっている。
バイデン政権は温暖化対策に熱心だとされる。日本にも同調を求めてきており、それで浮かれている人々もいる。
だがこれは、深刻な罠だ。日本はバイデン政権に生贄にされようとしているのだ。
バイデンはCO2を減らせない
バイデン政権は、2030年のCO2削減目標などを野心的に宣言してくるだろう。そして、日本にも同調を求めてくる。
けれども、じつはバイデンはCO2を減らせない。議会が阻止するからだ。米国議会は共和・民主が拮抗している。のみならず、米国は世界一の産油国・産ガス国であり、民主党議員であっても地盤のエネルギー産業を守るために、投票では造反する。
従って米国では環境税も排出量取引などの規制も実施されることは無い。
バイデン政権が出来るのはせいぜいインフラ整備である。それで先日8年間で2兆ドル規模のインフラ法案が提出された。そこには多様なインフラが含まれるが、温暖化対策に関係するもの多く、送電線整備や、電気自動車充電スタンドの整備などが列挙されている。だがこれは規制的なものではなく、CO2増になるものもある。大幅なCO2の削減にはなりそうにない。
そしてこの法案ですら、共和党は激しく反対しており、議会では紛糾必至である。法人税増税を財源にするという点も問題視されている。温暖化対策の臭いのする対策を削り、道路建設等の純粋なインフラ整備にして、予算規模を3分の1以下にすべきだとの意見も出ている。
バイデンが左派を満足させるにはダメ元でCO2しかない
それでもバイデン政権は、野心的なCO2の目標を掲げ、日本にも同調を迫るだろう。理由は、それが左派を満足させる唯一の方法だからだ。
米国民主党では、サンダースやオカシオコルテス(AOC)などの左派が台頭し、一大勢力になっている。だがバイデンは彼らを満足させることが出来ていない。
バイデン政権は、難民受け入れに前向きだという期待を安易に高めたため、米国ではいまメキシコとの国境に難民が押し寄せ、大問題になっている。まさか全て受け入れる訳には行かず、バイデン政権は現実的な対応を迫られている。これは難民を寛大に受け入れるべきだとする左派には不評である。
インフラ整備についても、アカシオコルテスを筆頭に、左派は予算規模が少なすぎる、と不満を述べている。議会が紛糾した後の仕上がりではもっと予算規模は減るだろうから、彼らが満足することは無いだろう。
すると、ダメ元であることを承知で、CO2については強硬なことを言い続けることが、左派を満足させる最も安直な方法になる。もしも日本が屈して同調したらバイデン政権の手柄と見做されるかもしれない。
「同盟国重視」の裏の意味
トランプ政権はアメリカ単独で経済制裁を行ったりすることをいとわなかったが、バイデン政権は「同盟国との協調を重視する」と言っている。一見、これは日本にとって良いことのようだが、要注意だ。というのは、これは「同盟国が前線に立ってコストを負担するべし」、ということを意味するからだ。
日本が米国に協調しCO2目標を深掘りすれば、バイデン政権は左派を喜ばせることができる。けれども、米国はCO2を減らせないから、日本は確実に梯子を外される。残った日本は重い足かせを経済に嵌められて、ますます沈んでゆくことになる。
日本の没落は米国の国益にとって、無論、本来は望ましくない。けれども、バイデン政権はそんなことにお構いなしに、自らの短期的な支持基盤確保のために、左派の生贄として日本にCO2削減を迫りかねない。要注意だ。
関連記事
-
ドイツの温室効果ガス排出量、前年比10%減 3月15日、ドイツ連邦政府は2023年の同国の温室効果ガス排出量が前年比10%減少して6億7300万トンになったとの暫定推計を発表した※1。ドイツは温室効果ガス排出削減目標とし
-
6回目の核実験で核先進国に追いついた 日・米・韓の外務次官会合が26日都内で開催され、もし仮に北朝鮮が7回目の核実験を強行すれば『比類ない規模の対応』をすると警告を発した。 北朝鮮は、2017年9月3日正午過ぎに同国の核
-
こちらの記事で、日本政府が企業・自治体・国民を巻き込んだ「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」を展開しており、仮にこれがほとんどの企業に浸透した場合、企業が国民に執拗に「脱炭素」に向けた行動変容を促し、米国
-
茨城大学理学部の高妻孝光教授は、福島第1原発事故以来、放射線量の測定を各地で行い、市民への講演活動を行っています。その回数は110回。その取り組みに、GEPRは深い敬意を抱きます
-
EUの気象情報機関コペルニクス気候変動サービスは、2023年の世界の平均気温が過去最高を記録し、産業革命前より1.48℃高くなったと発表した。 これは気温上昇を1.5℃以内に抑えるというパリ協定の努力目標まであと0.02
-
GEPRフェロー 諸葛宗男 はじめに 本稿は原子力発電の国有化があり得るのかどうかを考える。国有化のメリットについては前報(2018.5.14付GEPR)で述べた。デメリットは国鉄や電電公社の経験で広く国民に知られている
-
北海道はこれから冬を迎えるが、地震で壊れた苫東厚真発電所の全面復旧は10月末になる見通しだ。この冬は老朽火力も総動員しなければならないが、大きな火力が落ちると、また大停電するおそれがある。根本的な問題は泊原発(207万k
-
1.メディアの報道特集で完全欠落している「1ミリシーベルトの呪縛」への反省 事故から10年を迎え、メディアでは様々な事故関連特集記事や報道を流している。その中で、様々な反省や将来に語り継ぐべき事柄が語られているが、一つ、
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間