太陽光発電も強制労働の産物なのか
世界の太陽光発電事業は年率20%で急速に成長しており、2026年までに22兆円の価値があると予測されている。
太陽光発電にはさまざまな方式があるが、いま最も安価で大量に普及しているのは「多結晶シリコン方式」である。この太陽光発電の心臓部は、シリコン鉱石を精錬して出来る多結晶シリコンと呼ばれる金属である。これに太陽光が当たることで電気が発生する。
世界における太陽光発電用の多結晶シリコンの80%は中国製であるという。そして、そのうち半分以上が新疆ウイグル自治区における生産であり、世界に占める新疆ウイグル自治区の生産量のシェアはじつに45%に達すると推計されている。
中国、とりわけ新疆ウイグル自治区での生産量が多い理由は、安価な電力と低い環境基準による。多結晶シリコンの生産には、大量の電力が必要なので、安価な電力が必須である。またその過程では大気・土壌・水質等にさまざまな環境影響が生じうるので、環境基準が厳しいとコスト要因になる。
さて新彊ウイグル自治区では強制労働が国際問題になってきた。ウイグル人が強制的に工場に収容され労働に従事させられている、というものだ。事実が確認されたとして、米国はこの1月にウイグル自治区で生産された綿製品の輸入を禁止した。
「太陽光発電産業も強制労働を用いている可能性あり」とコンサルタントのホライゾンアドバイザリーが今年初めに報告したことが、英語圏のメディアで注目を集めている。
同報告によれば、世界第2位の多結晶シリコン製造事業者GCLPolyおよび同第6位のEastHopeが強制労働の疑いのある「労働者の移動」プログラムに明白に参加している。他にも名前が挙がったのは中国企業「Daqoニュー・エナジー」や、「ジンコソーラー」、「新特能源(シントー)」、さらにはシンガポール企業「LONGIソーラー」などであった。
ホライゾンの共同創設者であるEmilydeLaBruyèreの説明によると、同報告の分析では、地方自治体の公開記事および「労働者の移転」プログラムについてのローカルニュースを用いた、とする。
例えば、GCLPoly社が新疆ウイグル自治区南部からの労働者の異動を受け入れたという記事が2020年3月からあったところに、同社がそれら労働者に対して軍事訓練や労働訓練を実施している写真を見つけた、等である。
EastHope社も、同社の子会社が「新疆ウイグル自治区南部から235人の少数民族の従業員を受け入れた」とインターネットに掲載していた。ただし、この記事は今では削除されているという。
太陽光発電に関係する企業は、米国のウイグル強制労働防止法や、それに追随するであろう諸国の規制への対応を検討している。
すでに、米国の大手電力会社「デューク・エナジー」やフランスの「エンジー」など、175の太陽光発電関係企業が、サプライチェーンに強制労働がないことを保証する誓約書に署名した。
米国を拠点とするウイグル人の人権活動家ジュリー・ミルサップ氏は、新疆ウイグル自治区との関係を直ちに断ち切るよう企業に呼びかけている。「ウイグルで活動しているサプライヤーと関係し続けることは、現代の奴隷制から利益を得ることであり、大量虐殺への加担だ」と彼女は言う。
中国当局によると、新疆ウイグル自治区の収容所は、貧困と分離主義に対応して設立された「職業教育センター」である。中国の外務省は、強制労働という批判を「完全な嘘」と呼んで否定している。
いまのところ焦点は「新彊」とくに「強制労働」だけに当たっている。だが、そもそも人権を侵害する国家と取引して利益を得ること自体が妥当であろうか、という意見も高まるかもしれない。
昨今の環境ブームによってESG投資ということが言われるが、ESGの「S」はSocial=社会であり、人権の擁護はもちろんそこに含まれる。
また問題は太陽光発電に限らない。化石燃料や原子力の利用を止めて、風力発電、電気自動車を用いることは、希少金属であるレアアースへの依存を高める。レアアースも中国および中国系企業が世界全体の7割を生産している。理由は多結晶シリコンと同様、環境規制が緩いためだ。
強制労働等の人権侵害の問題は、温暖化対策に深刻な課題を突き付ける。企業と政府は温暖化対策の在り方をいま根本から再検討しないと、大きな間違いを冒すかもしれない。
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