「大躍進」式の温暖化対策は国家破綻への道だ

2020年11月28日 17:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

英国の研究所GWPFのコンスタブルは、同国の急進的な温暖化対策を、毛沢東の大躍進政策になぞらえて警鐘を鳴らしている。

Boris’s “Green Industrial Revolution” is Economic Lockdown, for ever…

大躍進とは、毛沢東が1957年から3年間に亘り実施した、破滅的な政策のことだ。

  • 「大製鉄・製鋼運動」では、専門知識なしの人民による製鉄が大規模に行われたが、品質が悪く使い物にならなかった。
  • 「四害駆除運動」では、スズメ等を大量に駆除したが、かえって虫害が増えて農業生産が低下した。
  • 「密植・深耕運動」では、伝統農法も近代農法も無視して、ダーウィン進化論を否定するルイセンコ進化論に従った農法を用いて失敗した。

これらの運動では、3年で英米に追いつくといった野心的な(=無謀な)農工業の生産量数値目標が掲げられ、虚偽報告が横行した。その結末は経済破綻であり、飢饉による死亡者は3000万人とも7000万人とも言われる。

失敗の理由は明らかだ。それは、

  • 科学、技術、経済の現実を無視した実現不可能な目標と政策、
  • 熱狂的・排他的な教義、思想統制、
  • 計画経済、統制経済

であった。

コンスタブルは英国の温暖化対策もかかる状態に陥っているという。

英国は「2050年CO2ゼロ」を達成するためとして、「2030年洋上風力4000万kW」等の再生可能エネルギー大量導入目標を立てている。これで電力価格の高騰が確実な一方で、その電気を消費する電気自動車を大量導入し、家庭はヒートポンプの大量導入等で電化しようとしており、これを規制・税・補助金で実現しようとしている。

GWPFはこのコストは世帯当たり1000万円を大きく超えるもので、経済の破綻は確実だとする。国民がどの技術を使うべきかを政府が決定する統制経済な方法は、大躍進と同様に必ず失敗する、とコンスタブルは指摘する。

さて日本では、菅首相が2050年CO2ゼロを「目指す」と宣言した。

RITEの試算に基づけば、2050年におけるCO2ゼロのコストは国家予算に匹敵することは以前述べた

もしも数値目標を国内企業に割り当て、規制・税による強制や、補助金のばらまきによってCO2ゼロを達成することを目指すならば、経済破綻は必定となる。

日本の温暖化対策が「大躍進」の如き結末を迎えない為にはどうすれば良いか。

次回は処方箋を述べる。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • Trusted Flaggersとは何か? EUでは、「安全で予測可能で信頼できるオンライン環境」を確保するために、加盟国各国がTrusted Flaggersを導入しなければならないと定めた法律が、すでに2024年2月
  • 小泉純一郎元総理が4/14に「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」なる団体を立ち上げて、脱原発運動を本格化させる動きを見せている。またこれに呼応した動きかわからないが、民進党内部でも有志による脱原発に向けた政策の検討が活発
  • 3月上旬に英国、ベルギー、フランスを訪問し、エネルギー・温暖化関連の専門家と意見交換する機会があった。コロナもあり、久しぶりの欧州訪問であり、やはりオンライン会議よりも対面の方が皮膚感覚で現地の状況が感じられる。 ウクラ
  • 田中 雄三 国際エネルギー機関(IEA)が公表した、世界のCO2排出量を実質ゼロとするIEAロードマップ(以下IEA-NZEと略)は高い関心を集めています。しかし、必要なのは世界のロードマップではなく、日本のロードマップ
  • 4月30日に、筆者もメンバーとして参加する約束草案検討ワーキングにおいて、日本の温暖化目標の要綱が示され、大筋で了承された。
  • スティーブン・クーニン著の「Unsettled」がアマゾンの総合ランキングで23位とベストセラーになっている。 Unsettledとは、(温暖化の科学は)決着していない、という意味だ。 本の見解は 気候は自然変動が大きい
  • 今年も3・11がやってきた。アゴラでは8年前から原発をめぐる動きを追跡してきたが、予想できたことと意外だったことがある。予想できたのは、福島第一原発事故の被害が実際よりはるかに大きく報道され、人々がパニックに陥ることだ。
  • 「必要なエネルギーを安く、大量に、安全に使えるようにするにはどうすればよいのか」。エネルギー問題では、このような全体像を考える問いが必要だ。それなのに論点の一つにすぎない原発の是非にばかり関心が向く。そして原子力規制委員会は原発の安全を考える際に、考慮の対象の一つにすぎない活断層のみに注目する規制を進めている。部分ごとしか見ない、最近のエネルギー政策の議論の姿は適切なのだろうか。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑