超過死亡数を見ると地球温暖化は健康に良いとしか思えない

2020年10月30日 10:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

コロナの御蔭で(?)超過死亡という言葉がよく知られるようになった。データを見るとき、ついでに地球温暖化の健康影響についても考えると面白い。温暖化というと、熱中症で死亡率が増えるという話ばかりが喧伝されているが、寒さが和らげば、健康には良いのではないか?

欧州

まずは欧州のデータを見てみよう:

図1 欧州全体の死亡数の推移。データはEuromomo

図1 欧州全体の死亡数の推移。データはEuromomo

横軸は時間、縦軸は欧州全体の死亡数である。2020年前半のピークでは明らかに死亡他の年よりも増えていた。つまり超過死亡がはっきりと存在した。コロナの影響はやはり大きかったと解る。

もう1つ注目すべきは、常に夏の方が冬よりも死亡数が少ないことだ。つまり寒さの方が、暑さよりも怖いのだ。ならば温暖化した方が、健康に良く、長生き出来そうだ。

ところで欧州2018年は猛暑だったとされる。だが死亡数を見ると、全然他の年と区別がつかないし、普通の冬よりもよほど死亡数が少ない。

スペイン

ただし国別にみると、猛暑の影響を見て取れることもある。図2はスペインの例である。

図2 スペインにおける死亡数の推移。データはWikipedia 、Elpais

図2 スペインにおける死亡数の推移。データはWikipedia Elpais

スペインでは2018年夏の猛暑では確かに死亡数が多かったようだ。だがそれでも、毎年の冬の死亡数よりはよほど少ない。普通の冬の方が、猛暑よりもよほど怖いのだ。

けれども、猛暑で死者数が顕著に増えたとなると、地球温暖化のせいだと思った人も多かっただろう。欧州で「2050年までにCO2ゼロ」といった極端な温暖化対策が流行りだした背景にはこのような事情があった

ただし勿論、以前にこのコラムでも述べた様に、猛暑は地球温暖化のせいでは無く、自然変動と都市熱が原因である。

なおスペインでも、コロナによる超過死亡は、2020年前半にはっきり見えている。

日本

では日本はどうだろうか。

図3 日本全国の死亡者数の推移。データ:国立感染症研究所。オレンジ色の線が統計的な期待値、緑色の線は自然変動の範囲(95%信頼区間)

図3 日本全国の死亡者数の推移。データ:国立感染症研究所。オレンジ色の線が統計的な期待値、緑色の線は自然変動の範囲(95%信頼区間)

コロナについて日本では、幸いなことに、この図からは全く超過死亡は読み取れない。あったとしても、欧州に比べるとごく僅かだということだ。

その一方で、毎年夏には死亡数が減り、冬には死亡数が増えているのは、欧州と同じ傾向である。

猛暑だったとされる2018年夏を見ても、他の年と死亡数は変わらないし、その前後の冬よりは明らかに死亡数が少ない。

日本では寒くなると、呼吸器系疾患や循環器系疾患が増えて、死亡数も増える。これは直観的にも納得がいく。 

以上から分かったことをまとめておこう

  • コロナによる超過死亡は、欧州では大幅に増えた。それに比べると、日本では増えたとしても僅かであった。
  • 日本では猛暑の年でも死亡数は殆ど増えていない。
  • 日本でも欧州でも、冬の死亡数の方が、夏よりもかなり多い。これは猛暑でも変わらない。

このように見てくると、地球温暖化や都市熱で気温が上がると、健康に良く、寿命も延びるのではないか、と思えてくる。

なお季節別の超過死亡について、より専門的な分析は、以前にファクトシートとしてまとめたので参照されたい

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 「生物多様性オフセット」COP15で注目 懸念も: 日本経済新聞 生物多様性オフセットは、別名「バイオクレジット」としても知られる。開発で失われる生物多様性を別の場所で再生・復元し、生態系への負の影響を相殺しようとする試
  • 1.太陽光発電業界が震撼したパブリックコメント 7月6日、太陽光発電業界に動揺が走った。 経済産業省が固定価格買取制度(FIT)に関する規則改正案のパブリックコメントを始めたのだが、この内容が非常に過激なものだった。今回
  • 1997年に採択された京都議定書は、主要国の中で日本だけが損をする「敗北」の面があった。2015年の現在の日本では国際制度が年末につくられるために、再び削減数値目標の議論が始まっている。「第一歩」となった協定の成立を振り返り、教訓を探る。
  • 福島第一原発(資源エネルギー庁サイトより)
    ネット上で、この記事が激しい批判を浴びている。朝日新聞福島総局の入社4年目の記者の記事だ。事故の当時は高校生で、新聞も読んでいなかったのだろう。幼稚な事実誤認が満載である。 まず「『原発事故で死亡者は出ていない』と発言し
  • 昨年の震災を機に、発電コストに関する議論が喧(かまびす)しい。昨年12月、内閣府エネルギー・環境会議のコスト等検証委員会が、原子力発電の発電原価を見直したことは既に紹介済み(記事)であるが、ここで重要なのは、全ての電源について「発電に伴い発生するコスト」を公平に評価して、同一テーブル上で比較することである。
  • 太陽光発電の導入は強制労働への加担のおそれ 前回、サプライヤーへの脱炭素要請が自社の行動指針注1)で禁じている優越的地位の濫用にあたる可能性があることを述べました。 (前回:企業の脱炭素は自社の企業行動指針に反する①)
  • 本年5月末に欧州委員会が発表した欧州エネルギー安全保障戦略案の主要なポイントは以下のとおりである。■インフラ(特にネットワーク)の整備を含む域内エネルギー市場の整備 ■ガス供給源とルートの多角化 ■緊急時対応メカニズムの強化 ■自国エネルギー生産の増加 ■対外エネルギー政策のワンボイス化 ■技術開発の促進 ■省エネの促進 この中で注目される点をピックアップしたい。
  • CO2が増えたおかげで、グローバル・グリーニング(地球の緑化、global greening)が進んでいる。このことは以前から知られていたが、最新の論文で更に論証された(英語論文、英語解説記事)。 図1は2000年から2

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑