プラスチックごみの「一括回収」に反対する
政府はプラスチックごみの分別を強化するよう法改正する方針だ、と日本経済新聞が報じている。ごみの分別は自治体ごとに違い、多いところでは10種類以上に分別しているが、これを「プラスチック資源」として一括回収する方針だ。分別回収するのはペットボトルだけでなく、バケツや洗面器、キッチン用品などのあらゆるプラスチックを含む。
これは政府のプラスチック資源循環戦略で、2035年までにすべてのプラスチックを有効利用するという目標を掲げ、2030年までにプラごみを25%減らす計画の一環だが、何のためにプラごみを減らすのだろうか?
第一の理由は海洋プラスチック問題である。政府は「世界全体で年間数百万トンを超える陸上から海洋へのプラごみの流出があると推計され、このままでは2050年までに魚の重量を上回るプラスチックが海洋環境に流出することが予測される」というが、これは問題のすり替えだ。
![Scienceより](https://www.gepr.org/ja/cms/wp-content/uploads/2020/07/32211532412_e917b818f4_h-e1530152172898-660x498.jpg)
Scienceより
海洋プラスチックの原因は不法投棄だが、Scienceの記事によると、図のように不法投棄のワーストワンは中国で、全世界の不法投棄(mismanaged)プラスチックの27%以上を占める(2010年)。日本は不法投棄が国内のごみの1%にも満たない優等生である。だから日本でプラスチックごみを分別しても海洋プラスチックごみは減らない。
第二の理由は資源の有効利用だが、アゴラの記事でも書いたようにプラスチックごみの84%は(熱利用を含めて)リサイクルされており、経団連も示すように、日本の有効利用率は世界最高水準である。
![経団連サイトより](https://www.gepr.org/ja/cms/wp-content/uploads/2020/07/02.jpg)
経団連サイトより
第三に環境負荷である。日本のリサイクルのうち「熱・エネルギー回収」が57%を占めることについて「CO2を排出するのでリサイクルとは認めない」と環境団体はいうが、この大部分は発電などの燃料として使う。多くの自治体では、生ごみだけでは発電の温度が足りないため、重油を混ぜて燃やしている。プラスチックを減らすと重油が増えるので、CO2排出量は同じである。
今はペットボトルもキャップを取ったりラベルをはがしたりしているが、それ以外の多種多様なプラスチックごみが出てくると、それを分別して粉末に分解してプラスチックを再成形するコストは、石油からつくるコストよりはるかに高く、エネルギー収支はマイナスになる。したがって環境負荷も増えるのだ。
産業廃棄物も自治体が引き取って燃やせばいい
こんな不合理な分別が続いているのは、1997年にできた容器包装リサイクル法で、消費者には分別、自治体には回収、事業者にはリサイクルと処理費用を負担する責任が規定されたためだ。
これは当時のごみ焼却炉がプラスチックを燃やす高温に耐えられなかったからだが、1999年のダイオキシン特別措置法で有害物質を分解できるように焼却温度が800℃以上に規制されたので、今のごみ焼却炉ではすべてのプラスチックが焼却でき、有害物質の心配もない。
だから家庭のごみは分別しないですべて燃やせるが、問題はプラごみの90%を占める産業廃棄物である。これは一般ごみのように自治体に出せないが、高温焼却炉はコストが高いので、不法投棄が後を絶たない。特に2018年から中国がプラごみの輸入を禁止したため、行き場をなくした産廃で処理場があふれた。
このため森下兼年氏も書いているように、環境省は2019年に自治体が産業廃棄物を受け入れるよう要請した。産業廃棄物を引き取るとき自治体が料金をとれば、高価な焼却炉のコストも一部は回収できる。
要するに日本のプラごみの99%は回収され、焼却炉の耐熱性能は世界最高なので、家庭のごみも産業廃棄物も自治体の焼却場で燃やせばいいのだ。こんな簡単な解決策が実現できないのは、環境団体が1990年代の技術を前提にして騒ぎ、ヨーロッパ各国がプラスチックを禁止した「世界の流れ」にマスコミが流されているからだ。
![日本財団ウェブサイトより](https://www.gepr.org/ja/cms/wp-content/uploads/2020/07/kk.png)
日本財団ウェブサイトより
複雑な規制でプラごみのリサイクル業者や産廃業者などの利権も大きいので、彼らが環境団体と結託して「分解しないプラスチック」を分別回収するキャンペーンを続け、それに政治家が利用されている。マイボトルやマイバッグを持ち歩く小泉進次郎氏は「エコ政治家」の宣伝塔だ。
これは勘違いである。プラスチックの原料は石油だから、燃やせば100%分解するのだ。プラごみが海を汚染するのは分別して不法投棄するからで、分別をやめて産廃もすべて燃やせば、海洋プラスチック問題も解決する。信じられないかもしれないが、これが唯一で最善の解決策である。
![This page as PDF](https://www.gepr.org/wp-content/plugins/wp-mpdf/pdf.png)
関連記事
-
エリートが勝手に決めた「脱炭素」目標の実現のための負担が明らかになるにつれて、庶民の不満が噴出しつつある。 警鐘を鳴らすのはイギリスの右寄りタブロイド紙Daily Mailである(記事、記事)(イギリスの新聞事情について
-
4月の半ばにウエッジ社のウエブマガジン、Wedge Infinityに「新聞社の世論調査の不思議さ 原子力の再稼働肯定は既に多数派」とのタイトルで、私の研究室が静岡県の中部電力浜岡原子力発電所の近隣4市で行った原子力発電に関するアンケート調査と朝日新聞の世論調査の結果を取り上げた。
-
4月30日に、筆者もメンバーとして参加する約束草案検討ワーキングにおいて、日本の温暖化目標の要綱が示され、大筋で了承された。
-
波紋を呼んだ原田発言 先週、トリチウム水に関する韓国のイチャモン付けに対する批判を書かせていただいたところ、8千人を超えるたくさんの読者から「いいね!」を頂戴した。しかし、その批判文で、一つ重要な指摘をあえて書かずにおい
-
7月1日からスーパーやコンビニのレジ袋が有料化されたが、これは世界の流れに逆行している。プラスチックのレジ袋を禁止していたアメリカのカリフォルニア州は、4月からレジ袋を解禁した。「マイバッグ」を使い回すと、ウイルスに感染
-
地球温暖化問題は、原発事故以来の日本では、エネルギー政策の中で忘れられてしまったかのように見える。2008年から09年ごろの世界に広がった過剰な関心も一服している。
-
財務情報であれば、業種も規模も異なる企業を同じ土俵で並べて投資対象として比較することができます。一方で、企業のESG対応についても公平に評価することができるのでしょうか。たとえば、同じ業種の2社があり財務状況や成長性では
-
きのうの言論アリーナで、諸葛さんと宇佐美さんが期せずして一致したのは、東芝問題の裏には安全保障の問題があるということだ。中国はウェスティングハウス(WH)のライセンス供与を受けてAP1000を数十基建設する予定だが、これ
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間