「コロナ関連死」はコロナの死者より多かった
BBCが世界各国の超過死亡(平年を上回る死者)を国際比較している。イギリスでは(3ヶ月で)新型コロナの死者が約5.2万人に対して、その他の超過死亡数が約1.3万人。圧倒的にコロナの被害が大きかったことがわかる。
ところが日本のコロナ死者(3月)は51人で、コロナ以外の超過死亡が301人。まだ暫定的な数字だが、日本の超過死亡がヨーロッパよりはるかに少なかったことは国際比較できる公式統計でも明らかである。
さらに注目されるのは、日本のコロナ死者数よりその他の超過死亡数のほうがはるかに多いことだ。逆にヨーロッパでは、イタリアは(2ヶ月で)コロナが2.7万人でその他が1.6万人、スペインでは(2.5ヶ月で)それぞれ2.8万人と1.5万人と、コロナの死者が超過死亡の大部分を占めている。
日本だけではなく、韓国やタイやインドネシアなど東アジアでも、コロナ死者よりそれ以外の超過死亡のほうが多い。その原因は死因をくわしく分析しないと断定できないが、コロナに医療資源が片寄り、それ以外の病気の治療が後回しになったことが考えられる。
繰り返される福島第一原発事故の失敗
特に日本ではコロナは指定感染症なので、患者はすべて感染症指定医療機関に入院させなければならない。これは1月末に指定したときは合理性があったが、マスコミが危険をあおったため、普段の何倍もの患者が指定医療機関に押し寄せた。
このため大病院の外来がパンクし、緊急手術以外の手術はできなくなった。これが超過死亡の大きな原因だろう。他方、開業医には患者が寄りつかず、ガラガラになった。必要な患者が診察を受けず、手遅れになったケースも多いと思われる。
このような過剰反応で起こったコロナ関連死は、コロナの死者より多かった。これは放射能の死者がゼロだった福島第一原発事故で、過剰避難による「原発関連死」の被害が数百人出たのと同じだ。コロナの脅威は欧米では大きかったが、日本ではマスコミの作り出した情報災害(infodemic)だったのだ。
このように医療資源がコロナに片寄った状態が続くと、社会全体で被害が増えるおそれが強い。指定感染症の指定を解除することが望ましいが、政令では1年たたないと改正できないので、運用を弾力化してインフルと同じ5類の扱いにすべきだ。
目的はコロナ死者の最小化ではなく超過死亡の最小化である。医療資源を効率的に配分して、全体最適を実現する必要がある。一般の病院でも軽症のコロナ患者は受け入れ、無症状の人は自宅待機にすべきだ。
いまだに「PCR検査を希望者全員に」などと言っている人がいるが、問題はコロナか否かではなく、命にかかわる病気かどうかである。呼吸器疾患の検査態勢を増強してワクチンの接種率を高めることは必要だが、コロナに限定した過剰対策はやめるべきだ。
その最大の原因は、視聴率をかせぐために毎日不安をあおったワイドショーの過剰報道である。彼らの報道を検証することも必要だが、安倍政権の拙劣なリスク・コミュニケーションも反省すべきだ。
関連記事
-
昨年10月に公開された東京電力社内のテレビ会議の模様を見た。福島第一原発免震重要棟緊急対策室本部と本店非常災害対策室とのやりとりを中心に、時々福島オフサイトセンターを含めたコミュニケーションの様子の所々を、5時間余り分ピックアップして、音声入りの動画を公開したものだ。また、その後11月末にも追加の画像公開がなされている。
-
直面する東京電力問題において最も大切なことは、1.福島第一原子力発電所事故の被害を受けた住民の方々に対する賠償をきちんと行う、2. 現在の東京電力の供給エリアで「低廉で安定的な電気供給」が行われる枠組みを作り上げる、という二つの点である。
-
京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授 鎌田 浩毅 我が国は世界屈指の地震国であり、全世界で起きるマグニチュード(以下ではMと略記)6以上の地震の約2割が日本で発生する。過去に起きた地震や津波といった自然災害
-
電力中央研究所の朝野賢司主任研究員の寄稿です。福島原発事故後の再生可能エネルギーの支援の追加費用総額は、年2800億円の巨額になりました。再エネの支援対策である固定価格買取制度(FIT)が始まったためです。この補助総額は10年の5倍ですが、再エネの導入量は倍増しただけです。この負担が正当なものか、検証が必要です。
-
言論アリーナ「原子力をめぐる「空気」を考える」を公開しました。 ほかの番組はこちらから。 福島第一原発事故から7年たちましたが、原子力をめぐる国民感情は意外に変わりません。「原発がなくても電力は足りてるじゃないか」という
-
4月4日のGEPRに「もんじゅ再稼働、安全性の検証が必要」という記事が掲載されている。ナトリウム冷却炉の危険性が強調されている。筆者は機械技術屋であり、ナトリウム冷却炉の安全性についての考え方について筆者の主張を述べてみる。
-
わが国の原子力事業はバックエンドも含めて主に民間事業者が担ってきた。しかし、原子力事業は立地の困難さもさることながら、核物質管理やエネルギー安全保障など、国家レベルでの政策全体の中で考えなければならない複雑さを有しているため、事業の推進には政府の指導・支援、規制が必要と考えられてきた。
-
影の実力者、仙谷由人氏が要職をつとめた民主党政権。震災後の菅政権迷走の舞台裏を赤裸々に仙谷氏自身が暴露した。福島第一原発事故後の東電処理をめぐる様々な思惑の交錯、脱原発の政治運動化に挑んだ菅元首相らとの党内攻防、大飯原発再稼働の真相など、前政権下での国民不在のエネルギー政策決定のパワーゲームが白日の下にさらされる。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間