海外の原発総事業費3兆円には福島事故対策費は入っていない

2019年10月19日 06:00
アバター画像
NPO法人パブリック・アウトリーチ・上席研究員 元東京大学特任教授

はじめに

原発は高くなったと誤解している人が多い。これまで数千億円と言われていた原発の建設費が3兆円に跳ね上がったからである。

日本では福島事故の再防止対策が膨らみ、新規制基準には特重施設といわれるテロ対策まで設置するよう義務付けられたから、海外の原発もさぞ手厚く安全対策をしているだろう、という連想もあったようだ。

しかし、これは全くの誤解である。数千億円というのは原発1基の建設費のことで、3兆円と言うのは原発2基の建設費に2基の運転費を加えた総事業費のことである。

両者は全く別物である。1基の原発の建設費が数千億円の時追加の安全対策が無くても総事業費は3兆円になるのである。

福島事故後、日本では全ての原子力発電所が停止してしまったが、海外の原子力発電所は運転継続したままである。欧州の軽水炉にはチェルノブイリ事故の後、全てフィルターベントを追加したし、格納容器には水素燃料装置がついているから、どの原発も追加の安全対策をしていない。

だから“原子力発電所の総事業費”が高くなる筈がないのである。日本では膨大な費用をかけて様々な対策を追加しているため、海外でも追加対策をして高くなったのではないかと誤解されただけである。

原発建設費の大半は資本費だというのは全くの誤解である。

図1はMETIの最新のコスト試算資料「長期エネルギー需給見通し」から抜粋したものである。

原子力発電原価の中の資本費と運転費の割合を比べると運転費の方が多いのである。原発の燃料費が安いと言う常識は正しい。核燃料サイクル費用は発電原価8.5円の中の1.5円しかないからである。

しかし、運転維持費が3.3円もあり原価内訳の中で最も高い。運転員、保全院の人件費等で、プラントを安全に保つには専門的技術者が必要なためである。このため発電原価の中の運転費の割合は6割もある。

つまり、原子力発電コストは資本費よりも運転費の方の割合が大きいのである。

海外の電力会社には原発の運転員がいない

海外の殆どの電力会社は原子力発電所を持っていない、だから原発を運転できる技術者がいない。

原子力先進国の英国でもこれまで建設・運転してきた原子力発電所は全てガス冷却式原子炉だから、日立が建設する軽水炉の運転経験を持つ技術者がいない。

ウィルファ原子力発電所(Wikipediaから:編集部)

ウィルファ原子力発電所(Wikipediaから:編集部)

だから英国政府のウィルファ原子力発電所の計画では、建設だけでなく運転も外部企業に発注する計画とされている。したがって3兆円は建設だけでなく、操業期を通じた運転の費用も含んでいる。

なぜ、建設だけでなく運転費まで試算するのかと訝しんだ向きが多かったことと思うが、海外では建設費だけでなく、運転費も試算するのがむしろ普通なのである。これが日本の常識と異なるのである。

日本では原発建設後は電力会社が運転するから原発コストと言えば建設費だけだと思われてきた。

しかし、海外ではそうではないのである。コストに占める割合はむしろ運転の方が大きく、原発の建設費と言えば建設と運転の両者を含む総事業費のことを指すことが多い。

つまり、ウィルファ原子力発電所の場合、原子力発電所2基の建設費は約1兆円だが、運転費は約2兆円もあり総事業費は約3兆円になるのである。

原発建設費に関する日本の“常識”と世界の“常識”

原発建設費に関する日本の“常識”と世界の“常識”は以下のとおりである。

日本の“常識”(非常識)

原発建設費は37万円/kW。
ウィルファは135万kW/基だから135万×37万円×2=9,990億円

世界の“常識”

① 建設費は上記同様9,990億円
② 運転費は運転期間35年間とすれば約1.8兆円
③ 建設費の総額は約3兆円である

METI長期エネルギー需給見通しと同じ条件で検証を試みる

実際にウィルファ原子力発電所の総事業費が一体いくらになるのかを検証する。資産条件はMETI長期エネルギー需給見通しと同じ条件とする。

まず建設費であるが、前項に示した通り37万円/kWを用いれば135万×37万円×2=9,990億円となる。前項に示す通りこれは異論無いものと思う。

次に運転費である。運転期間は英国ウィルファPJの試算期間とされている35年間とする。

運転費は図1に示した通り、運転員や保守員の人件費等の運転維持費と燃料費に分けられる。

運転維持費は人件費、修繕費、諸費、業務分担費で構成される。それぞれの費用に表1に示した数値を入れ、35年間の費用を算出し3%/年の割戻し率で現在価値に割り戻すと、運転維持費は1兆円、燃料費は 7100億円となる。

これに追加対策費601億円/基、廃止措置費用716億円と固定資産税(建設費×1.4%)を加えると総事業費は3.2兆円となる。安全対策費を除くと3.1兆円で、英国政府の試算値の3兆円とほぼ同じとなることがわかる。

原発の建設費に運転費を加えると約3兆円になるのであり、安全対策費を加えたから高くなったと言うのは全くの誤解である。

This page as PDF
アバター画像
NPO法人パブリック・アウトリーチ・上席研究員 元東京大学特任教授

関連記事

  • 原子力規制委員会、その下部機関である原子力規制庁による活断層審査の混乱が2年半続いている。日本原電の敦賀原発では原子炉の下に活断層がある可能性を主張する規制委に、同社が反論して結論が出ない。東北電力東通原発でも同じことが起こっている。調べるほどこの騒動は「ばかばかしい」。これによって原子炉の安全が向上しているとは思えないし、無駄な損害を電力会社と国民に与えている。
  • 「脱炭素へ『ご当地水素』、探る地産地消・・強酸性温泉や糞尿から生成」との記事が出た。やれやれ、またもやため息の出るような報道である。 1. 廃アルミと強酸性温泉水の反応 これで水素が生成するのは当たり前である。中学・高校
  • 日本経済研究センター
    日本経済研究センター 3月7日発表。2016年12月下旬に経済産業省の東京電力・1F問題委員会は、福島第1原発事故の処理に22兆円かかるとの再試算を公表し、政府は、その一部を電気料金に上乗せするとの方向性を示した。しかし日本経済研究センターの試算では最終的に70兆円近くに処理費が膨らむ可能性すらある。
  • 2月24日、ロシア軍がウクライナ侵攻を始めてからエネルギーの世界は一転した。ロシアによる軍事侵攻に対して強力な経済制裁を科すということをいち早く決めた欧米諸国は、世界の生産シェアの17%を占めるロシアの天然ガスについて、
  • 日本は数多くの国と原子力協定を結んでいるが、そのうちで日米原子力協定は歴史も古く、かつ最も重要な協定である。日本の原子力開発は、黎明期から米国との協力を通じて進められ、日米協定はその枠組みを設けるものであった。
  • 中国で石炭建設ラッシュが続いている(図1)。独立研究機関のGlobal Energy Monitor(GEM)が報告している。 同報告では、石炭火力発電の、認可取得(Permitted) 、事業開始(New projec
  • 過去10年のエネルギー政策においては、京都議定書のエネルギー起源CO2排出削減の約束水準が大前提の数量制約として君臨してきたと言える。当該約束水準の下では、エネルギー政策の選択肢は「負担の大きい省エネ・新エネ」か「リスクのある原子力発電」か「海外排出権購入」かという3択であった。
  • 3月11日に行われた日本自動車工業会の記者会見で、豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は「今のまま2050年カーボンニュートラルが実施されると、国内で自動車は生産できなくなる」と指摘した。キーワードはライフサイクルアセスメン

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑