核廃棄物、国の責任の形とは? — 原子力関係者の提言から考える
エネルギー問題に発言する会、日本原子力学会シニアネットワーク(SNW) が昨年12月に以下の提言を行った.
小泉純一郎元首相は、使用済核燃料の最終処分地が見つからないことを根拠にして、脱原発の主張を繰り返している。そのことから、かねてからの問題であった最終処分地の選定が大きく問題になっている。これまで、経産大臣認可機関のNUMO(原子力発電環境整備機構)が中心になって自治体への情報提供と、立地の検討を行っているが、一向に進んでいない。
その取り組みについて、以下の提言と附属文章が、国の関与の形の一方向を示す提言となるために掲載する。添付資料もこれまでの状況を概観するのに役立つものだ。ただし、この提言も、常設の組織と法律による国の責任という今の制度の改善点は示すものの、解決の具体策は示せていない。この最終処分は、技術的にはそれほど難しい問題ではない。しかしパブリック・アクセプタンス(社会の受け入れ)がなく、政治的に難しい問題となっており、解決のめどが立っていない。
両団体は企業、研究者、官僚の経歴を持つシニア層の原子力関係者からなる。
提言
放射性廃棄物の最終処分の実施方策については、以下の事項を踏まえて法の枠組みを変更する。
- 放射性廃棄物の最終処分は人類の健全な生活環境を持続することをねらいとし、国の責任で実施することを法律で定める。
この法律では、最終処分事業の目的を「人間の健康、環境の保全、将来世代への責任」と明示する。この目的は2003年に批准した「放射性廃棄物等安全条約」に示される国際的な共通理念である。
- 経済産業大臣を長とする常設の委員会を設置し、併せて国の最終処分実施機関を設立し、高レベル放射性廃棄物のみならず国内で発生するすべての放射性廃棄物の処分を対象として国が一貫して実施する体制を構築する。
委員会は、ガラス固化体の貯蔵管理ができている現状を踏まえ、最終処分の開始時期などを含めた代替技術の評価検討、地層処分について埋設廃棄物の回収可能性などを含む我が国に適した技術的選択肢を提示、最終処分地の選定方式の選択肢の提示、最終処分地の選定、最終処分実施機関の指導、ならびに最終処分に関わる最終処分実施機関と国民・地域社会との仲介(メディエーション)をおこなう。また、委員会のもとに、最終処分について国民・地域社会の学習を支援する仕組みを構築する。
最終処分実施機関は、委員会による最終処分地選定に対する技術支援、最終処分の実施、最終処分に関わる研究開発を行う。最終処分事業は、福島事故以降、一層高いガバナンスを有する法人が実施することが求められる。そのために、最終処分実施機関は、国が設立する法人とする。
以上
添付資料
添付資料1 最終処分法制定後の立法の背景の変化
添付資料2 提言に対する補足説明-高レベル放射性廃棄物問題の要因と分析-
★この提言に関するお問い合わせは下記にお願いします。
坪谷隆夫: 電子メール officetsuboya@nifty.com
石井正則: 電子メール m_ishii@flamenco.plala.or.jp
(2014年2月3日)
関連記事
-
石炭が重要なエネルギー源として、再び国際的に注目されている。火力発電に使った場合に他のエネルギー源と比べたコストが安いためだ。一方で石炭は、天然ガスなどよりも燃焼時に地球温暖化の一因とされる二酸化炭素(CO2)の発生量が多い。
-
日本が原子力のない未来を夢見ることは容易に理解できる。昨年の福島第一原子力発電所にてメルトダウンの際に、人口密度の高い島国である日本の数千万の住民が緊急避難と狭い国土の汚染を恐れた。しかしながら、今後数十年のうちに段階的に脱原発するという政府の新しいゴールは、経済そして気候への影響という深刻なコストが必要になるだろう。
-
政府は政府事故調査委員会が作成した吉田調書を公開する方針という。東京電力福島第一原発事故で、同所所長だった故・吉田昌郎(まさお)氏が、同委に話した約20時間分の証言をまとめたものだ。
-
「原子力文明」を考えてみたい筆者は原子力の安全と利用に長期に携わってきた一工学者である。福島原発事故を受けて、そのダメージを克服することの難しさを痛感しながら、我が国に原子力を定着させる条件について模索し続けている。
-
海は人間にとって身近でありながら、他方最も未知な存在とも言える。その海は未知が故に多くの可能性を秘めており、食料庫として利用しているのみならず、たくさんのエネルギー資源が存在している。
-
きょうは「想定」「全体像」「共有」「平時と有事」「目を覚ませ」という話をします。多くの人は現象を見て、ああでもない、こうでもないと話します。しかし必要なのは、現象から学び、未来に活かすことです。そうしなければ個々の事実を知っていることは、「知らないよりまし」という意味しかありません。
-
電力料金が円安と原発の停止の影響で福島原発事故の後で上昇した。自由化されている産業向け電力料金では2011年から総じて3-4割アップとなった。安い電力料金、安定供給を求める人も多く、企業は電力料金の上昇に苦しんでいるのに、そうした声は目立たない。情報の流通がおかしな状況だ。
-
7月1日、日本でもとうとう再生可能エネルギー全量固定価格買い取り制度(Feed in Tariff)がスタートした。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間