文句だけの新聞はいらない — おやおやマスコミ
(GEPR編集部)GEPRは日本のメディアとエネルギー環境をめぐる報道についても検証していきます。エネルギーフォーラム2月号の記事を転載します。筆者の中村氏は読売新聞で、科学部長、論説委員でとして活躍したジャーナリストです。転載を許可いただいたことを、関係者の皆様には感謝を申し上げます。
秘密保護法案と原発
12月15日付朝日新聞朝刊に、社会部編集委員が大きなスペースを使って書いていた。小泉純一郎元首相から電話でメシに誘われ3時間近く雑談したというだけのこと。(朝日新聞記事(ザ・コラム)小泉元首相の変節「オレたちにウソ言ってきた」大久保真紀編集委員)(有料記事)
どうしてこんなことが大きな記事になるのか。元首相にメシに誘われたのがうれしくて感激したのか。脱原子力にからめばなんでもニュース価値があるのか。
朝日は秘密保護法への不安を煽(あお)っていた。同法の施行によって原発情報の公開も制限されかねないとして福島原発事故を例に挙げ「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の情報が適切に公開されず、町民が放射線量の高い地域に避難した」と11月26日付社説で書いた。(朝日新聞記事「秘密保護法案—福島の声は「誤解」か」)
政府の発表が遅れたことは確かだが、米国防総省は早い段階から独自調査による同じ内容を公表していた。私のようなOBでさえ入手できた資料を、現役の記者が取材せず、政府に「発表が遅いぞ」と文句を言うだけとは情けない。秘密保護以前だ。新聞はいらない。
「秘密だらけの法、残したくない」「これは民主主義への軽蔑だ」と朝日は書いたが、週刊文春12月12日号「飯島勲の激辛インテリジェンス」がズバリ指摘している。
「(海江田万里代表が)『暴挙に怒りを禁じ得ない』とコメントしていたけど、とんでもないのは民主党の方だぜ。強行採決を憲政史上、まれにみる勢いで連発してあ然とさせたのは当の民主党。あの鳩山由紀夫内閣だったんだから。2009年の臨時国会では最大野党の自民党欠席のままでの強行採決が6回もあったのよ」
「国家として秘密保護法制が必要だって号令して検討を始めたのは誰だったの? 菅直人内閣で仙谷由人官房長官が旗を振って動き出したんだろ。この一件(中国漁船の巡視船体当たり事件)を教訓に秘密保護法制が不可欠だって騒いだのは民主党自身だろ。今さら何よ」朝日も参考にしたら。
素人と自称する規制委員会
12月7日付産経新聞で、安倍晋三首相は次のように語っている。(単刀直言「安倍晋三首相 特定秘密保護法を語る」)
「(平成)22年の中国漁船衝突で衝突映像を流した元海上保安官、一色正春氏について当時の毎日新聞は『国家公務員が政権の方針と国会の判断に公然と異を唱えた倒閣運動』と激しく非難し、朝日新聞は『政府や国会の意思に反することであり許されない』と書いている。現在の姿勢とのダブルスタンダードにはあ然とします」
「問題は、誰がどのようなルールで秘密を決めるかであり、衝突映像はそもそも秘密にすべきものではなかった。日本の国益のためにはむしろ、国際社会に示さなければならなかった。菅政権は全く誤った、致命的な判断ミスをした」
秘密に指定したのは菅首相なのか仙谷官房長官なのか不明だが、安倍首相にこんなことを言われて恥ずかしくないか。
原子力発電の是非にとって最も重要なのは、原子力施設の安全性を科学的かつ公正に判断できる組織であるかどうかが問われている。この問題を12月19日付読売新聞社説が次のように書いた。
「規制委は現在、原子力発電所の安全審査に注力している。ところが、田中俊一委員長と委員4人の中で原子炉に詳しいのは1人しかいない。専門的な議論が尽くされているわけではない。実際、規制委の議論でも『私は素人なので』『専門の委員にお任せする』といったやりとりは珍しくない」
こんな重要なことを朝日などの脱原発新聞やNHKは取り上げない。なぜか。
(2014年2月17日掲載)
![This page as PDF](https://www.gepr.org/wp-content/plugins/wp-mpdf/pdf.png)
関連記事
-
「石器時代は石が無くなったから終わったのではない」 これは1973年の石油ショックの立役者、サウジアラビアのヤマニ石油大臣の言葉だ。 当時、イスラエルとアラブ諸国の間で第四次中東戦争が起きて、サウジアラビアは「石油戦略」
-
私は東京23区の西側、稲城市という所に住んでいる。この土地は震災前から現在に到るまで空間線量率に目立った変化は無いので、現在の科学的知見に照らし合わせる限りにおいて、この土地での育児において福島原発事故に由来するリスクは、子供たちを取り巻く様々なリスクの中ではごく小さなものと私は考えている。
-
一枚岩ではない世界システム 2022年2月24日からのロシアによるウクライナへの侵略を糾弾する国連の諸会議で示されたように、世界システムは一枚岩ではない。国家として依拠するイデオロギーや貿易の実情それに経済支援の現状を考
-
福島第一原子力発電所の事故を教訓に民主党政権下で発足した、原子力規制委員会と原子力規制庁。独立性確保の名目の下で与えられた巨大な権力を背景に、その行政活動は明らかにおかしい。法律の無視、そして科学的分析を欠いた恣意的な規制を繰り返す。
-
最近出たお勧めの本です。 著者のマイケル・シェレンバーガーは初めは環境運動家だったが、やがてその欺瞞に気づき、いまでは最も環境に優しいエネルギーとして原子力を熱心に推進している。 地球温暖化に関しては小生とほぼ意見は同じ
-
立春が過ぎ、「光の春」を実感できる季節になってきた。これから梅雨までの間は太陽光発電が最も活躍する季節となるが、再エネ導入量の拡大とともに再エネの出力制御を行う頻度が多くなっていることが問題となっている。 2月6日に行わ
-
イギリスも日本と同様に2050年にCO2をゼロにすると言っている。それでいろいろなシナリオも発表されているけれども、現実的には出来る分けが無いのも、日本と同じだ。 けれども全く懲りることなく、シナリオが1つまた発表された
-
米国農業探訪取材・第4回・全4回 第1回「社会に貢献する米国科学界-遺伝子組み換え作物を例に」 第2回「農業技術で世界を変えるモンサント-本当の姿は?」 第3回「農業でIT活用、生産増やす米国農家」 (写真1)CHS社の
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間