適合性審査は初回安全審査より3割長くかかった
はじめに
原子力規制委員会は2013年7月8日に新規制基準を施行し“適合性審査”を実施している。これに合格しないと再稼働を認めないと言っているので、即日、4社の電力会社の10基の原発が申請した。これまでに4社14基の原発が合格し、その内9基が再稼働している。現在、7社12基の原発が審査中で、6社12基の原発が申請準備中である。
原子力規制委員会の田中前委員長は就任前の記者会見でこの適合性審査を半年でパスさせると言っていた。しかし、実績をみると最長4.3年、平均2.5年を要している。言行不一致も甚だしい。では、事故前の規制体制での設置許可手続きはどれだけ時間がかかっていたのか、また、適合性審査では何を審査しているのかを調べた。
全60基の原子炉の初回安全審査の平均期間は1.42年
適合性審査は通称“安全審査”とよばれ、正式名は設置許可手続きである。事業者の基本的な安全対策をチェックする、最重要手続きである。昔は行政庁だけが審査していたが、原子力船“むつ”の放射線漏れを見抜けなかったことから1968年10月1日より原子力安全委員会(NSC)と行政庁が重ねて審査することになった。これがダブルチェックである。
表1に全60基の原発が安全審査に要した年数をフェーズ別の平均値で示した全60基平均は1.42年である。適合性審査に合格済の14基、適合性審査中の12基、適合性審査を申請準備中の12基と廃炉になる22基である。廃炉される22基の初回安全審査は実施時期が早くてまだNRCが発足していなかったため、安全審査期間が全体平均の約半分の0.74年になっている点が興味深い。ダブルチェックになってからは1.7~1.8年要している。
原子力規制委員会発足でどれだけスピードアップしたか?
事故後の体制改革のひとつの目玉はダブルチェックの廃止である。前項で述べたダブルチェックが廃止されて原子力規制委員会に1本化された。これによってスピードアップを図ると同時に少なくなってきた専門家を審査機関による奪い合いを失くそうと言うものだ。
表2に合格済14基の初回安全審査と今回の適合性審査の期間を並べて示すが、初回安全審査平均期間1.9年が2.5年に約3割長くなっている。“専門家の奪い合い”は改善されたが、安全審査の審査期間は逆に3割長くなっている。スピードアップどころか、スピードダウンしているのである。「半年で審査する」との前委員長の見通しが非常識だったと言えよう。
適合性審査では強化した安全対策と事故時の影響緩和対策を審査
適合性審査では強化された第3層の強化された安全対策と、これまで事業者の自主的対策にされていた第4層の事故時影響緩和対策が審査されている。第1層から第3層までの安全対策は基本的に審査対象とされていない。また、原子力防災会議が推進している第5層の原子力防災対策も審査対象とされていない。これらを図に示すと図1のとおりとなる。
関連記事
-
世界はカーボンニュートラル実現に向けて動き出している。一昨年、英グラスゴーで開催されたCOP26終了時点で、期限付きでカーボンニュートラル宣言を掲げた国・地域は154にのぼり、これらを合わせると世界のGDPの約90%を占
-
外部電源喪失 チェルノブイリ原子力発電所はロシアのウクライナ侵攻で早々にロシア軍に制圧されたが、3月9日、当地の電力会社ウクルエネルゴは同発電所が停電していると発表した。 いわゆる外部電源喪失といって、これは重大な事故に
-
サウジアラビアのサルマン副皇太子が来日し、「日本サウジアラビア〝ビジョン2030〟ビジネスフォーラム」を開いた。これには閣僚のほか、大企業の役員が多数詰めかけ、産油国の富の力とともに、エネルギー問題への関心の強さを見せた。
-
日本の原子力規制委員会、その運営を担う原子力規制庁の評判は、原子力関係者の間でよくない。国際的にも、評価はそうであるという。規制の目的は原発の安全な運用である。ところが、一連の行動で安全性が高まったかは分からない。稼動の遅れと混乱が続いている。
-
「科学は必要な協力の感情、我々の努力、我々の同時代の人々の努力、更に我々の祖先と我々の子孫との努力の連帯性の感情を我々に与える」 (太字筆者。ポアンカレ、1914=1939:217、ただし現代仮名遣いに筆者が変更した)
-
これは今年1月7日の動画だが、基本的な問題がわかってない人が多いので再掲しておく。いま問題になっている大規模停電の原因は、直接には福島沖地震の影響で複数の火力発電所が停止したことだが、もともと予備率(電力需要に対する供給
-
田中 雄三 前稿では、日本の炭素排出量実質ゼロ達成の5つの障害を具体例を挙げて解説しました。本稿ではゼロ達成に向けての筆者の考えを述べていきます。 (前回:日本の炭素排出量実質ゼロ達成には5つの障害がある①) 6. I
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間