中国が世界の原子力のリーダーになる

2018年07月03日 22:30
アバター画像
アゴラ研究所所長
三門原発(CNNCサイトより)

三門原発(CNNCサイトより)

最新鋭の「第3世代原子炉」が、中国で相次いで世界初の送電に成功した。中国核工業集団(CNNC)は、浙江省三門原発で稼働した米ウェスチングハウス(WH)社のAP1000(125万kW)が送電網に接続したと発表した。他方、広東省台山原発にできたフラマトム社の欧州加圧水型炉(EPR)175万kWも送電に成功したと発表した。

AP1000もEPRも欧米で先に着工されたが、完成していない。その原因は福島第一原発事故のあと安全審査が長期化したことだが、中国はそれを逆転した。2006年に中国共産党中央委員会がAP1000の導入を決めたあと3年で、三門原発が着工された。この意思決定の速さが独裁国家の強みである。

多くの人々の合意を必要とするデモクラシーでは、手続きに長い時間がかかる。アメリカでは1970年代までに100基の原発が稼働したが、1979年のスリーマイル島事故のあと、原発の審査に10年以上かかるようになって67基がキャンセルされ、その後20年以上、原発は建設されなかった。

福島第一原発事故のあと、世界的に3000~5000億円だった原発の建設費が1兆円を超えるようになり、フラマトム(旧アレバ)もWHも経営が破綻した。軽水炉技術は成熟してコストは下がっているので、この差のほとんどは安全設備と許認可手続きのコストである。

電力会社の経営者からみると、設備投資コストが最低なのは石炭火力だ。大気汚染は技術的にかなり減らせるが、問題はCO2である。これは政治の問題だから、原発の再稼動が計画どおりできないのなら、パリ協定の「2030年にCO2排出量を26%削減する」という目標を見直すしかない。中国から排出権を買うことも一案だ。

地球温暖化には科学的な不確実性が大きく、産業革命以前から2℃以内の上昇に抑えるというパリ協定の目標も実現不可能だ。そもそもCO2排出を減らしたら温暖化が抑制できるという効果も疑わしい。日本の排出量は世界の3%程度で、削減コストも高い。それより中国(世界の28%)が削減する余地のほうがはるかに大きい。

再稼動は必要だが、原発の新設は電力会社には不可能だ。それは日本だけではなく、1980年代以降のアメリカでも、2011年以降のヨーロッパでも同じだ。技術的には原子力は石炭火力より安全でクリーンだが、政治的リスクが大きすぎる。これは民主国家と独裁国家の「制度間競争」だが、いいか悪いかは別にして、原発は民主国家では終わったと思う。

中国では約40基の原発が稼働中で、2030年までに100基の原子炉を稼働する予定だ。これから世界の原子力のリーダーになるのは中国だから、どんどん日本の代わりに原発を建設してもらえばいい。その結果(今でも日本の半分以下の)中国の電気代が下がり、日本の製造業の国際競争力は落ちるだろうが、それはデモクラシーのコストと割り切るしかない。

This page as PDF

関連記事

  • はじめに 原子力にはミニトリレンマ[注1]と呼ばれている問題がある。お互いに相矛盾する3つの課題、すなわち、開発、事業、規制の3つのことである。これらはお互いに矛盾している。 軽水炉の様に開発済みの技術を使ってプラントを
  • それから福島県伊達市の「霊山里山がっこう」というところで行われた地域シンポジウムに参加しました。これは、福島県で行われている甲状腺検査について考えるために開催されたものです。福島を訪問した英国人の医師、医学者のジェラルディン・アン・トーマス博士に、福島の問題を寄稿いただきました。福島の問題は、放射能よりも恐怖が健康への脅威になっていること。そして情報流通で科学者の分析が知られず、また行政とのコミュニケーションが適切に行われていないなどの問題があると指摘しています。
  • 運転禁止命令解除 原子力規制委員会は27日午前の定例会合において、東京電力ホールディングスが新潟県に立地する柏崎刈羽原子力発電所に出していた運転禁止命令を解除すると決定した。その根拠は原子力規制委員会が「テロリズム対策の
  • ゲル首相の誕生 石破が最初に入閣、防衛庁長官に任じられたとき、ゲル長官という渾名がついた。2002年小泉内閣の時のことである。 「いしばしげる」をワープロソフトで変換したら〝石橋ゲル〟と変換されたからだといわれている。ま
  • 4月8日、マーガレット・サッチャー元首相が亡くなった。それから4月17日の葬儀まで英国の新聞、テレビ、ラジオは彼女の生涯、業績についての報道であふれかえった。評者の立場によって彼女の評価は大きく異なるが、ウィンストン・チャーチルと並ぶ、英国の大宰相であったことは誰も異存のないところだろう。
  • 3月11日の大津波により冷却機能を喪失し核燃料が一部溶解した福島第一原子力発電所事故は、格納容器の外部での水素爆発により、主として放射性の気体を放出し、福島県と近隣を汚染させた。 しかし、この核事象の災害レベルは、当初より、核反応が暴走したチェルノブイリ事故と比べて小さな規模であることが、次の三つの事実から明らかであった。 1)巨大地震S波が到達する前にP波検知で核分裂連鎖反応を全停止させていた、 2)運転員らに急性放射線障害による死亡者がいない、 3)軽水炉のため黒鉛火災による汚染拡大は無かった。チェルノブイリでは、原子炉全体が崩壊し、高熱で、周囲のコンクリ―ト、ウラン燃料、鋼鉄の融け混ざった塊となってしまった。これが原子炉の“メルトダウン”である。
  • エネルギー基本計画の改定に向けた論議が始まったが、先週の言論アリーナで山本隆三さんも指摘したように、今の計画はEV(電気自動車)の普及をまったく計算に入れていないので、大幅に狂うおそれが強い。 新しい計画では2050年ま
  • 毎朝冷えるようになってきた。 けれども東京の冬は随分暖かくなった。これは主に都市化によるものだ。   気象庁の推計では、東京23区・多摩地区、神奈川県東部、千葉県西部などは、都市化によって1月の平均気温が2℃以上、上昇し

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑