地球温暖化を止めることはできるのか
集中豪雨に続く連日の猛暑で「地球温暖化を止めないと大変だ」という話がマスコミによく出てくるようになった。しかし埼玉県熊谷市で41.1℃を記録した原因は、地球全体の温暖化ではなく、盆地に固有の地形だ。東京が暑い原因も大部分は、都市化によるヒートアイランド現象である。
![年平均気温の推移(産総研調べ)](https://www.gepr.org/ja/cms/wp-content/uploads/2018/07/heat.png)
年平均気温の推移(産総研調べ)
上の図のように100年で3℃上がったうち、地球温暖化の影響は0.74℃で、あとは都市化の影響である。パリ協定で止めようとしているのは、この0.74℃の部分だが、それはCO2排出量の削減で止めることができるのだろうか?
地球温暖化が起こっていることは確実であり、その一部が人為的なものであることも疑いないが、人間が温暖化を止めることができるかどうかは別の問題である。われわれの文明は化石燃料に依存しており、パリ協定の目標(日本の場合は2030年にCO2排出量を26%削減)を実現するには、莫大なコストがかかる。
その効果についての定量的な研究は少ないが、数少ない査読論文であるLomborg(2015)によると、パリ協定のすべての当事国が約束草案(INDC)を2030年まで完全実施した場合、地球の平均気温は、何もしなかった場合に比べて0.05℃下がる。それを2100年まで続けても、0.17℃下がるだけだ。
![地表の平均気温の予想(Lomborg)](https://www.gepr.org/ja/cms/wp-content/uploads/2018/07/lomborg.jpg)
地表の平均気温の予想(Lomborg)
この図はIPCC第5次報告書の予測(RCP8.5)に対して、どの程度、気温を下げられるかをLomborgがシミュレーションしたものだが、パリ協定を2100年まで実行した場合でも、産業革命前に比べて4.5℃気温が上昇する。パリ協定の目標とする「2℃上昇」という目標をはるかに上回り、しかも安定しない。「2050年にCO2排出量を80%減らす」という長期目標は、明らかに不可能である。
パリ協定を実行するコストは、どれぐらいかかるだろうか。もっとも効果的な政策は、世界統一税率の炭素税を課すことだが、それによってパリ協定の約束を実現するコストは、世界全体で年間1兆ドル以上になると推計される。これは世界の名目GDPの1.3%に相当し、日本では約7兆円である。
地球温暖化を止めることに反対する人はいないだろうが、毎年100兆円以上のコストをかけて気温を0.05℃下げることが、経済政策として効率的かどうかは国民的な議論が必要だろう。特に原発が予定通り再稼働できない日本では、パリ協定の約束そのものを見直す必要があるのではないか。
![This page as PDF](https://www.gepr.org/wp-content/plugins/wp-mpdf/pdf.png)
関連記事
-
原子力規制委員会は24日、原発の「特定重大事故等対処施設」(特重)について、工事計画の認可から5年以内に設置を義務づける経過措置を延長しないことを決めた。これは航空機によるテロ対策などのため予備の制御室などを設置する工事
-
大気汚染とエネルギー開発をめぐる特別リポート。大気汚染の死亡は年650万人いて、対策がなければ増え続けるという。近日要旨をGEPRに掲載する。
-
提携する国際環境経済研究所(IEEI)の竹内純子さんが、温暖化防止策の枠組みを決めるCOP19(気候変動枠組条約第19回会議、ワルシャワ、11月11?23日)に参加しました。その報告の一部を紹介します。
-
インドは1991年に市場開放が行われて以降、ずっと右肩上がりとはいかないものの、基本的に経済成長が続いている。特にITやアウトソーシング産業など第三次産業が経済成長を牽引しているという、やや特殊な姿を見せている。
-
先日のTBS「報道特集」で「有機農業の未来は?」との特集が放送され、YouTubeにも載っている。なかなか刺激的な内容だった。 有機農業とは、農薬や化学肥料を使わずに作物を栽培する農法で、病虫害に遭いやすく収穫量が少ない
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 まずはCO2等の排出シナリオについて。これまでCO2等の
-
>>>(上)はこちら 3. 原発推進の理由 前回述べたように、アジアを中心に原発は再び主流になりつつある。その理由の第一は、2011年3月の原発事故の影響を受けて全国の原発が停止したため、膨大な費用が余
-
9月11日に日本学術会議が原子力委員会の審議依頼に応じて発表した「高レベル放射性廃棄物の処分について」という報告書は「政府の進めている地層処分に科学者が待ったをかけた」と話題になったが、その内容には疑問が多い。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間