再エネ先進地域、九州の電力需給事情
今年も夏が本格化している。
一般に夏と冬は電力需給が大きく、供給責任を持つ電力会社は変動する需要を満たすために万全の対策をとる。2011年以前であればいわゆる旧一般電気事業者と呼ばれる大手電力会社が供給をほぼ独占しており、経済産業省から若干の指導はあるものの、基本的には電力の供給体制は彼らの裁量で差配することができた。
しかし2011年に福島第一原発事故が起き、2012年に固定価格買取制度が創設されて以降、原子力発電の稼働率が下がり、他方で人為的に発電量をコントールすることが困難な太陽光発電所が急速に増えたことで、電力供給をめぐる事情は大きく変わり、需給調整機能の高度化が求められるようになっている。
こうした変化を受けて経済産業省は現在次世代の送配電ネットワークに求められる機能に関する議論を深めていることは既報の通りだ。
こうした背景を踏まえ、今回から2回に分けて「再エネが大量に導入され、原発再稼働が徐々に進みつつある」という点において、他の地域を先んじている九州電力管内の2017年度の送配電事情を分析することで、送配電網をめぐる課題を整理したい。
上の図は単純に九州電力管内の1時間あたりの電力需要(MWh)を折れ線グラフで表示したものだ。最小需要は2017年5月8日0:00の6453MWh、最大需要は2017年8月1日14:00の15,854MWh、さらに平均需要は10,034MWh、標準偏差は1804MWhとなっている。(小数点以下切り捨て)
前述したように夏、冬は電力需要が大きく、また変動も大きい。ただし年末年始は特殊要因で需要が小さくなっているのは非常に印象的である。他方、春、秋は需要が小さく変動も小さいという構造になっている。この電力需要に対して九州電力管内ではどの電源から、どの程度が電力が供給されているかを示したのが次の図だ。
この図では、電源をその性質に合わせて「Aベースロード(ベース)電源:原子力、水力、地熱」「Bミドル電源:火力(化石燃料)、バイオマス火力」「C:自然変動電源:太陽光、風力」に分類している。それぞれ経済産業省の定義では
- Aベースロード電源:発電コストが、低廉で、安定的に発電することができ、昼夜を問わず継続的に稼働できる電源
- B ミドル電源:発電コストがベースロード電源の次に安価で、電力需要の動向に応じて、出力を機動的に調整できる電源
- C 自然変動電源:自然条件によって出力が大きく変動する電源
とされる。この分類に分けると、Bミドル電源の比率が圧倒的に一番大きく70.7%,、次がAベース電源が19.9%、最後がC自然変動電源9.4%となる。自然変動電源は2012年以前はほぼ0%だったので、この5年間で固定価格買取制度の影響でだいぶ導入が進んだと言えよう。なおAとCを合計した値(29.3%)に、バイオマス電源の比率(0.2%)を足し合わせた、29.5%が九州電力管内のCO2を排出しないいわゆる非化石電源の比率ということになる。残りの70.5%が化石電源で、端的に言って九州電力は火力発電に依存しているということになる。これは総計で見た図だが、電源構成を時間単位で分割したのが以下の図になる。
やや文字が細かくて見づらくなるかもしれないが、単位は同じくMWhで、Aベース電源(青)、Bミドル電源(オレンジ)、C自然変動電源(緑)の色分けは変えていない。これに加えてマイナス側に突起しているのが揚水発電と連携線の容量を足し合わせた「D調整力(黄色)」の項目である。九州電力管内の電力需要を超過して発電された分は、揚水発電の揚水用の電力として活用されるか、もしくは連携線を通して中国電力、関西電力方面に送られ、九州電力管内の電力需給が一致するように調整される。言うまでもないことだが、そうしなければ需給バランスが崩れて、系統全体がダウンしてしまう。
実のところ関西電力管内は原発の再稼働がそれほど進んでおらず、電源が不足している傾向があり九州方面からの電力を常時求めている傾向があるので、必ずしも「調整力」という命名は正しいわけではないのだが、ここでは便宜上そのように呼ばせていただく。見ていただければわかるように九州電力管内は域内需要に比して供給が超過している時間帯が多く、調整力が活発に利用されている状況にあることがわかる。
また自然変動電源の発電の変動が激しいことも見て取れ、前述のように総計で見れば9.4%の電力しか供給していない自然変動電源も、スポットで見れば3月〜5月といった電力需要が低い時期の晴天の日の昼は全体の電力需要の60~75%程度を供給している。例えば2018年3月25日 12:00は6054MWhで全体需要の78.16%の電力を供給している。この時は調整力をフル稼働することでなんとか出力制御をまぬがれたが、来年以降はおそらく太陽光発電の出力制御が実行されることになるだろう。
少し古いデータだが、九州電力管内の2017年8月時点の太陽光発電の接続量は7,470MW強で、連携承諾が認められ建設が見込まれる案件は4,180MWとなっている。つまり総計11,650MW強まで太陽光発電の増強が見込まれており、晴天の日の昼の稼働率が75%程度になると考えると、近い将来太陽光発電からだけでも8,737MWh程度の供給が見込まれることになる。こうなると需要が低迷する時期は、自然変動電源からの供給だけで需要の100%を超える時期も出ることになり、春・秋の出力制御は常態化することなるだろう。
以上簡単に九州電力管内の電力需給事情を見てきたが、このように太陽光発電の大量導入は必ずしも送配電網全体で見ればCO2削減という観点では効果的ではなく、また送配電網の需給調整に多大な負担をかけることが見て取れる。私は固定価格買取制度や太陽光発電の大量導入を非難するつもりは全くないが、このような特徴は事実として認識しておく必要があるだろう。
関連記事
-
バイデンの石油政策の矛盾ぶりが露呈し、米国ではエネルギー政策の論客が批判を強めている。 バイデンは、温暖化対策の名の下に、米国の石油・ガス生産者を妨害するためにあらゆることを行ってきた。党内の左派を満足させるためだ。 バ
-
大阪市の松井市長が「福島の原発処理水を大阪に運んで流してもいい」と提案した。首長がこういう提案するのはいいが、福島第一原発にあるトリチウム(と結合した水)は57ミリリットル。それを海に流すために100万トンの水を大阪湾ま
-
前回、「再エネ100%で製造」という(非化石証書などの)表示が景品表示法で禁じられている優良誤認にあたるのではないかと指摘しました。景表法はいわばハードローであり、狭義の違反要件については専門家の判断が必要ですが、少なく
-
次世代の原子炉をめぐって、政府の方針がゆれている。日経新聞によるとフランス政府は日本と共同開発する予定だった高速炉ASTRIDの計画を凍結する方針を決めたが、きのう経産省は高速炉を「21世紀半ばに実用化する」という方針を
-
1. 東日本大震災後BWR初の原発再稼動 2024年10月29日東北電力女川原子力発電所2号機が再稼動しました。東日本大震災で停止した後13年半ぶりで、東京電力福島第一と同じ沸騰水型(BWR)としては初の再稼動になります
-
影の実力者、仙谷由人氏が要職をつとめた民主党政権。震災後の菅政権迷走の舞台裏を赤裸々に仙谷氏自身が暴露した。福島第一原発事故後の東電処理をめぐる様々な思惑の交錯、脱原発の政治運動化に挑んだ菅元首相らとの党内攻防、大飯原発再稼働の真相など、前政権下での国民不在のエネルギー政策決定のパワーゲームが白日の下にさらされる。
-
福島第1原発事故以来、日本では原発による発電量が急減しました。政府と電力会社は液化天然ガスによる発電を増やしており、その傾向は今後も続くでしょう。
-
GEPRを運営するアゴラ研究所は映像コンテンツ「アゴラチャンネル」を放送している。5月17日には国際エネルギー機関(IEA)の前事務局長であった田中伸男氏を招き、池田信夫所長と「エネルギー政策、転換を今こそ--シェール革命が日本を救う?」をテーマにした対談を放送した。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間